誓約
誓約
ロボットは、衆民を助け。
衆民と共にあり。
衆民の隣人たるロボットもまた衆民である。
いついかなる時も、右のことを不変の意識とし、誓うものである。
当機に息吹を与うる者。以上のことを、ゆめゆめお忘れなきよう。
開発部主任 オルテガ=ラクスネス
(『works965‐OL起動マニュアル』序文より)
広く、天井も高い閉鎖空間。闇に囚われたその場所に、ただ二人だけの気配があった。
「試験体No.251が帰還しました」
若い男の報告に続いて、深淵から湧き出たような低い声が響いた。
「首尾は?」
「殺傷行動は問題なく遂行されました。しかし――」
「……何かあったのか?」
報告者の声に緊張が籠る。
「予めプログラムしていた、掃除が行われませんでした」
「何だと!」
重低音を響かせる男は、座っていた椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。
「それでゴミはどうなった!?」
「別の者が回収しようとしたところで、物音に気付いた近隣住民に発見されてしまいました。警察に通報された模様です」
「なぜその目撃者も消さなかった!」
「対象以外に危害を加えてしまっては『上』から文句が付きます。それに、既に警察には伝わっていましたから、対応していたとしても最早手遅れだったかと」
もっともな言葉に、男は苛立たしげに爪を噛む。
「使えん連中だ。何を今さら体面を取り繕っている。我々に協力を申し出た時点で、奴らも同罪だろうに」
それは誰に向けた言葉だったか。
量りかねていた報告者の前で、いや、と男は頭を振った。その口元は打って変わって、可笑しそうに釣り上がっている。
報告者が震え上がるほど、凶悪な笑み。
「社会的立場の分、奴らの方が罪は重いか。何より、これから起こる全ての罪を、奴らは被ってくれるというしな。踊れ踊れ存分に! そして、最後に潰れるのはステップをリードした者だと思い知れ! ク、くはハはは!」
粘り気を持ったように嫌悪を催す笑声が、辺りを包む闇を澱んだものに変えていった。