お義姉様は、僕が守る
五万字の短編の次は、千文字の短編に挑戦
号外だよー
空を舞い、石畳に落ちた藁半紙
そこには、王太子と聖女の真実の愛が、魅了魔法による幻であったことが克明に書かれていた。
事実が発覚したきっかけは、王太子の婚約者セリーヌ・ファビアスの一言からだった。
「天使の涙の使用をお許しください」
それは、教会が莫大な寄付金と引き換えにしか配らない『自白剤』だ。嘘を吐くと歳をとり、正しいことを述べると若返るという。
高位貴族の奥様方の中には、若返りの妙薬として欲するものも居たが、飲む量によっては若返り過ぎて、この世から消滅する可能性すらある。
だが、セリーヌは、偽証で固められた断罪劇に一矢報いるためにも、死地に飛び込むしかない。
王太子の卒業を祝うパーティー会場で、セリーヌは、自白剤を自ら一気飲みした。
そして、滔々と語りだした。
「私は、聖女様を虐めてなどおりません。殿下を愛したこともありません。この婚約を破棄したいのは私の方です。陛下、どうぞ、ご配慮を賜りたく存じ上げます」
その途端、彼女の体は光りだし、徐々に縮んでいった。
「こりぇで、まんじょくいただけたかしりゃ?(これで満足頂けたかしら?)」
ドレスに埋もれるセリーヌは、その身を以て無実を証明した。
そんなセリーヌの前に飛び出したのは、四歳の義弟。一人娘であるセリーヌが王室に嫁ぐ為に、親戚筋から養子としてファビアス家に入った少年アトラスだ。
「おねぇしゃまは、ぼくが、まもりゅ!(お義姉様は、僕が守る)」
「あとりゃしゅ!」
「おねーたま!」
ヒシッと抱き合う幼児の愛らしさと、顔面蒼白の王太子達の対比が酷い。
周りにいる者達も、ほっこりしつつも軽蔑の眼差しを向けるという難しい立ち位置だ。
「王太子を廃位し、第二王子を王太子とする」
そう言うしかない王は、やけっぱちだ。
「では、あたくちの、あらたにゃこんにゃくしゃは、あとりゃすといぅことで、よろしいでしゅか?(では、私の新たな婚約者は、アトラスということで、宜しいですか?)」
「許す!」
「めいよかいふくのために、ごうがいのはっこうをようぼうします(名誉回復の為に号外の発行を要望します)」
「許す!と言うか、急に滑舌が良くなっていないか?」
「きのせいで、ごじゃいましゅ(気のせいで御座います)」
なんだか釈然としない王だったが、力量不足だった第一王子を廃し、有能な第二王子を跡継ぎに出来たので、スルーすることにした。
微笑み合う幼児達が結婚するまで、後十四年必要だった。
ラジオで流れたら嬉しいなぁ
五万字の短編も、良かったら読んでみてください