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生まれた時から「お前が悪い」と家族から虐待されていた少女は聖女でした。【番外編更新中】  作者: ラララキヲ
番外☆オルドラン編

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4>> 異変 

     

 

 

 

 

 

 侯爵家の跡取りとして全てを持っていたオルドランに抜けていた唯一の欠片(かけら)である『母』という心の拠り所が埋まったことで、オルドランは更に自信がついていた。


 もう母親のことで気後れすることもない。むしろ積極的に友人に母親との話を聞いて、自分もオデット()との思い出を作ろうと思えるくらいには心が成長していた。


 乳母だと思っていた人が母親だった。ただそれだけのことなのに世界は変わって見えてオルドランには不思議だった。


 時間で言えば本当に短い時間。

 侍女も侍従もメイドも執事も護衛の騎士も誰も居ない時間だけ。

 オデットとオルドランは『母子(おやこ)』になれる。

 それだけでオルドランの気持ちは満たされた。


 この秘密を絶対に守らなければいけないと、オルドランは頑張った。

 勉強に礼儀作法。男児として剣も少しは扱えなくてはいけないので体を鍛えることも、父から言われたことは反発することなく全て受け入れ頑張った。

 そうすれば周りはオルドランを信頼して安心する。『間違ったことなどオルドラン(この子)がする訳が無い』と思う。()()()のオルドランとその乳母を誰もおかしな目で見たりしない。二人だけの時間を邪魔しに来たりしない。それどころか安心してオデットにオルドランを任せてくれる。これまでがそうだったのだからオデットに任せておけばこれからも大丈夫だろう、と。そうすれば……オルドランはゆっくりと『母』との時間を楽しめるのだ。

 オルドランは何時まで続くか分からないその『母との二人だけの時間』を、大切に少しも取り零さないように噛み締めた。


 そして、そんな時間がきっと自分が成人するまでは守れるんじゃないかとオルドランが思い始めていた11歳の時。


 毎年連れて行かれていた“聖女選定の儀”の日に、オルドランの人生は想像もしていない変化を迎えた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 何が起こったのかオルドランに分かる筈もない。

 ただいつものように父に連れられて行った大聖堂の中で、何故か見たことも聞いたこともない名前の女の子──そういえば玄関先でカリーナたちを見た時に姉たちの後ろにもう一人居た様な気がするが、幅の広いドレスの間にチラリと人影が見えたような気がするだけで、オルドランにはエーの姿は見えなかった──がオルドランと同じ家名で呼ばれて、父が何処かへ行き、聖女の華が咲いてお祭りになると思ったら聖堂内は静まり返り、そんな静かな中で父と“母だと思っていた人”の声が響き、また華が咲いたと思ったら壇上の女の子が酷い言葉を言ってその場で(うずくま)って、そしてその子が居なくなったと思ったらオルドラン(自分)は知らない人たちに囲まれて言われるままに帰りのシーデア(馬)車に乗せられた。


「お、お父様はどうしたのですか?」


 そう聞いたオルドランの質問に「お父上は急用でここを離れられました。ご子息は安全に私どもが送り届けますので」とだけ言われて一人にされた。一緒に居たはずの父の侍従さえも居なくなっていた。

 押し寄せる不安に両手を握り合わせながら一人の時間を我慢したオルドランは、邸に着きオデットの姿を見付けると人目も気にせずに抱き着いた。ビャクロー侯爵家の邸には見たことも無い姿の騎士たちがたくさん居たのだ。オデットも何が起こっているのか分からない様子だった。そしてオルドランはオデットと共に自室へと押し込められた。扉の外には人が立っている様だった。

 少ししてオデットだけが外へ呼ばれた。直ぐに戻っては来たが……その時からオデットはただオルドランを抱き締めるばかりで、黙って何かをずっと考えるようになってしまった。


「……母様……?」


 不安になって母を呼ぶ。そんなオルドランの頭を優しく撫でてくれながらオデット()はどこかつらそうな笑みを浮かべるのだった。


「……大丈夫です……わたくしが側に居りますからね……」


 そう言って抱き締めてくれる体の温かさだけが、今のオルドランが頼れる唯一のものだった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 つらそうな顔でオデットが言った。


「……わたくしを信じて、これを飲んでくれませんか?

 深く眠る薬です。

 貴方が眠っている間に全て終わらせて……そしてきっと、貴方の側にわたくしがずっと居れるようにしてみせます。わたくしは何の力もありませんが、貴方だけは……、必ず貴方だけは守ってみせます……

 だからわたくしを……

 母を信じてくれませんか?」


 青白い顔で、それでも何かを決意した強い眼差しでオデットはオルドランを見ていた。その体は震え、手に持った小さな小瓶の中にある液体が揺れていた。

 オルドランはそんなオデットとその手にある小瓶を交互に見つめて、そしてオデットの手からその小瓶を受け取った。


「これを飲んだら、母様は僕の側にずっと居てくれるの?」


「えぇ……、必ず……、必ずそうしてみせます」


 小瓶を持つオルドランの手をその上からギュッと握って、オデットはオルドランと目を合わせた。その瞳はオルドラン(自分)を守ると決めた母の強さに見えた。自分の為に何かを決意してくれたオデット()にオルドランの心は満たされる。その瞳の強さと触れている手の温かさからオルドランは『母の愛』を感じた。

 愛されているのだと……そう思えた……


「なら飲むよ。母様と一緒に居る為に必要なことならなんだってする。

 だから絶対に側に居てね。僕を離さないでね。僕を一人にしないでね、母様」


 堪らずにオデットに抱き着いたオルドランをオデットも強く抱き返した。


「えぇ、えぇ……必ず……必ず側に居ます……」


 オデットが自分を抱き締めてくれる腕の強さに安堵感を覚えたオルドランは少しだけオデットから体を離すと躊躇(ためら)いもなく小瓶の中身を飲み干した。

 そうして「……甘ぁい……」とちょっと嫌そうに感想を(こぼ)すとまたオデットに抱き着いた。

 そうしてオルドランはオデットに甘えるように抱き着いたまま、オデットか優しく自分の髪を撫でる感触を楽しみながら、深い深い夢の中へと落ちて行った。


 そしてオルドランが目を覚ました時にはもう、全てが終わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 オルドランは治療院に居た。

 痛い場所の後遺症が残らないようにしてくれたのだと教えられた。説明されたことはなんとなくしか分からなかった。

 子供を作ることができなくなった、と言われたけれど、恋愛もしたことのないオルドランにはそれがどれほどの意味があるのかいまいち分からなかったから、どうでもよかった。


 そんなことよりも、周りに他の人が居るのにオデットが側にいて、そしてそのオデットを自分が母と呼んでもいいことにオルドランの心は震えた。


「母様」

「なぁに?」

「かあさま〜」

「どうしたんですか?」

「あ! ほらまた!」

「あ、……ふふ、慣れないわね。もう貴族でも、貴方の乳母でもないのにね」

「ね!」


 二人だけの病室で、オルドランは母と何気ない会話を心の底から楽しんでいた。

 もう貴族ではない。オデットは乳母ではない。

 オルドランもオデットも、今はもうただの『平民の母子(おやこ)』になっていた。

 侯爵家は? 父は? 家族は? 使用人たちは? 気にならない訳ではなかったが、それらはオルドランにとってはどこか1枚壁を挟んだような関係で、ただ同じ屋根の下に居た同居人のような感覚だったし、何より皆が『自分と母の関係を邪魔をするかもしれない警戒すべき対象』だったこともあり、オルドランには今の『母との自由な時間』を壊してまで気にしたいと思えることではなかった。

 もう母との時間を誰にも邪魔されない。

 もう母を慕っても誰にも叱られない。

 もう誰の目も気にせずにオデット()を母と呼べる……!

 そのことがオルドランにとってはとても重要なことだった。

 ……ランドル()は、オデット()に悲しい顔をさせるから……オルドランはいつの間にか父への信頼を無くしていたのかもしれない。オルドランは自分が全然父のことを心配していないことに少しだけ不思議に思った。だけど、だからといってそれ以上に何かを思うこともなかった。


 オデット()の両親だと言う人に会った。

 二人の顔を見て、そういえば朦朧(もうろう)とした意識の中で一度見ているなと思い出したオルドランは、その時の二人の優しげな眼差しと今自分に向けられている愛おしげな瞳に、二人へ警戒心を抱くことはなかった。

 身分が違うから祖父祖母と呼べないけれど、今だけは……ということで治療院にいる間だけはオルドランはオデットの両親をおじい様おばあ様と呼ぶことができた。ビャクロー侯爵家ではオルドランが覚えている中で祖父母に会ったこともなかったので──ビャクロー家の祖父母が下位貴族の愛人に生ませた男児をいくら後継ぎとして必要だからと言っても受け付けなかったからだ──オルドランにとっては初めてできた祖父母だった。


 優しい母に抱かれながら祖父と祖母に母の子供の時の話を聞く。知らなかった母の思い出と母の家族の記憶をただ純粋にオルドランは楽しんだ。

 もう侯爵家の跡取りとしての義務は無い。怖い家庭教師も居ない。マナーを叱る家令も居ない。自分を嫌っている母や姉(家族)も居ない…………


 治療院に居た時間はとても短かったけれど、オルドランにとってはビャクロー侯爵家に居た時の記憶を(かす)めさせるくらい満たされた時間となった。


 そして、オルドランはオデットと二人で平民として生きるべく、見知らぬ土地へと送られて行った。

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

 この機会に名前を『アル』に改名したオルドランはオデットと二人、祖父が領主となる領地の片隅にある村の村長の家に居候することになった。

 村長もその家族もオデットたちのことを知っている。オルドラン(アル)の事情を全て聞いた上で受け入れてくれていた。


 村長は生意気な貴族の坊っちゃんを厳しく躾けてちゃんと平民として生きていけるようにするぞと意気込んでいたが、やって来た元高位貴族の子息であるオルドラン(アル)が思いの外物分かりの良い子供で驚いた。

 村長の妻はそれだけ二人が今まで居た環境が大変だったのだろうと察して親心を芽生えさせていた。村長夫婦はオデットの両親よりも年上でオデットとオルドラン(アル)を孫やひ孫のように思い受け入れた。

 同居家族は村長夫妻の他に村長の息子とその嫁と子供二人が居た。村が農村ということもあり、村長の家は大きく、オデットたちの為に用意された部屋は二人には大き過ぎる程だった。


 村長の孫はオルドラン(アル)より少し年上の男児が二人。突然現れたオルドラン(アル)に孫たちは当然警戒した。元高位貴族だと聞けば平民は誰だって警戒する。孫たちもオルドラン(アル)がどれほど傲慢ないけ好かないお貴族様だろうと内心怖く思っていた。

 だが顔を合わせたオルドラン(アル)はむしろ平民相手にするには丁寧すぎる挨拶をしたので孫二人は逆に驚かされたのだった。オルドラン(アル)は知っていた。人に受け入れて貰うにはどうすればいいかを。詰め込まれた侯爵家の跡取りとしての知識は無駄ではなかったし、何よりオルドラン(アル)自身がもう既に平民となることを受け入れている。自分と母の居場所を提供してくれる人たちに反感を買う様な真似をしようとすら思わなかった。

 名実共に『アル』となったオルドランには無価値となった侯爵家の跡取りとしてのプライドなど既になかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 アルはまず平民のルールを覚えることから始めた。傷が治ったといってもまだ万全ではない状態の子供のアルにはお手伝い程度の仕事でもやらせるには早いだろうと村長は判断したからだった。平民のルールと言っても教科書がある訳ではない。だからまず村長の妻がオデットとアルに付き添って色んなことを教えた。

 大変だったのは子供のアルよりオデットの方かもしれない。下位貴族と言っても貴族は貴族。侯爵家の乳母をしていた時も専属のメイドなどは居なかったが最低限のことはメイドがしてくれていたので平民の家に来て初めてオデットは自分があの状態でも恵まれた環境に居たのだと気付いて驚いたのだった。でも驚いただけで反感などなかった。オデットもアルもむしろ平民となることに喜びさえ感じていたので教えてもらえることを楽しんで受け入れていった。

 そんな二人を村長の家族も直ぐに受け入れ二人を支えてくれた。


 そしてアルがここに来て5日ほど経った頃だった。

 村長が会わせたい人が居ると言って二人を居間に呼んだ。

 

 

 

 

 

     

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