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七話 交渉2/3


 程なくして壁掛け用の受話器型インターホンが鳴り響く、夕日はすでに待ち構えワンコールで受話器をとる。


 「はいはーい鍵空いてるから勝手に入ってくれぇ」 


 ガチャリと粗雑(そざつ)に受話器をきる。


 このビルは鉄骨鉄筋コンクリート構造のコンクリート打ちっぱなしビル、床も壁も天井も全てコンクリートで建築されているので、コンクリートのデメリットである湿気のせいで本がカビることがある為夕日は事務所に来た際は必ず換気のため窓を開放している、前述したようにこの地区は工場が数多く存在するため工場地帯からはやや離れているにも関わらず窓の外からは工場独特の騒音が風に乗ってやってくる、そして騒音の風と共にやってきた客人はいったいどんな風を吹き込むのか? ここで断言できるのは微風(そよかぜ)ではない、と言うことだけだろう。


 ドア越しにある廊下はもちろんコンクリートで出来ているので来客の足音がコツリコツリと音を立て、事務所の入り口であるアンティーク調の両開きドアに近づいてくるのがよくわかる、足音がドアの前で止まりギィっと音を立て開かれた。


 「失礼します。先程お電話しました県犬養姫璐(あがたいぬかいひいろ)ともうし……あれ?」


 ドアを開けた先に、三人掛けソファーでふんぞり返り、足組み腕組みをし、堂々たる出立で依頼人を待つ夕日の姿がそこにあった。先程のイリスへの挙動はなんだったのだろうか、雲泥の差ほど態度が変わる女である。そんな夕日を呆然とした様子で視つめる。


 「あぁん? なんだよ人の顔見て素っ頓狂な顔しやがって、依頼人だろ座れよ」


 3人掛けソファーと机を挟んだ向かい側にある1人掛け用のソファーを指差しながら座るように促す。


 普通逆なのではと姫璐は思ったがこんな場所に来ている以上仕方がないことだ、と思う様に努めた、彼女は理解しているのだ、ここは常識と良識が届かない不可侵だと、含みを持たせ急いでソファーに駆け寄り一度会釈をしてソファーに座る。


 「あ、ありがとうございます……。あのぉ、失礼なら申し訳ないのですが、先程のお電話口の方ですか?」

 

 電話でのやり取りからして明らかに人が違うことを察している姫璐に対し、眉根を寄せ高圧的に応じ、夕日は答える。


 「いんや違うけど、何? アタシだと都合悪いの?」


 膝の上に置いてある手は不機嫌なリズムで指をトトントトンと動かしている。


 「いえ! 全然、そんな事ないです! むしろ歳が近そうな女の人で安心しちゃって……それに凄く綺麗で外国の方だと思ってびっくりしちゃって、つい……すみません、少し緊張してるみたいです私……」


 意外な答えと表情に拍子抜けといった面持ちの夕日だが、自分の事を好感が持てると言われて気分を害す人間は少ないだろう、自然と指の動きも収まっていた。おまけに言動への説得力がある容姿をしている。


 県犬養姫璐はとても清純という言葉がよく似合う少女だ。髪は傷みを知らない素の黒色で、前髪は綺麗に切り揃えられ、おでこが薄っすら見える程度の厚みをしている。全体の髪は胸のあたりまであり、綺麗に切り揃えられた髪は窓からさす夕暮れの光を反射させ怪光(かいこう)を放っている。衣服は清潔感あふれるマキシ丈の純白ワンピース、長袖部分はシースルー素材で女性らしさと品性を感じさせる装い。


 顔貌は化粧を施されてはいるが、必要としない程端正な顔立ちである。すっと上がった目尻に黒目の大きな瞳、口角が上がった小さめな口には薄らフレンチローズのリップが艶めいている。総合的に見て猫顔と言った所、夕日とは違い高嶺の花になり過ぎず小悪魔でいられる丁度いい塩梅だ。夕日の顔は整い過ぎているのだ、言うなれば顔のパーツがすべてオーパーツ、行き過ぎた美しさとでも言っておこう——。最後に特徴的なのは両の目尻下に泣きぼくろがある事だろうか。

 

 「ん? お前、歳いくつなんだ?」


 大人びた風貌に年齢がわからない様子の夕日は、自分を見て歳が近いと言った事に疑問を抱く。


 「あ、すみません! 改めまして私、県犬養姫璐と申します。今年で17になります! 今日はよろしくお願いします!」


 深々と頭を下げ簡単な自己紹介をする姫璐、おまけに会釈の終わりに溌剌(はつらつ)と笑顔を振り撒く、その姿に夕日は『役者だな、』と思う一方それを凌駕する物が姫璐にはあった。それを、眼を丸々させて凝視する夕日、何故か胸元を観ている。『はぁん? こいつアタシとタメのくせに何でこんなおっぱいデカいんだよぉ? ぐぬぬ、神はなぜ平等にバストを与えてはくれないんだぁ? ファッキンジーザス』夕日はない胸を撫でガクンと項垂れる。


 「ど、どうかされましたか?」


 現実に引き戻された夕日はすこし慌てた素振りで本題に入る。 


 「はっ!? いや別に……発育達者で良いではないか!! あはっははははははは……で依頼って何?」


 突然、居直る夕日に一瞬恐怖を感じるが話し始める。

 

 「……はい、実は、ここの事は噂で聞いた程度で……確認なのですが、ここって俗世間では取り扱えない事件などを解決してくれる便利屋さんと伺って来たのですが、間違いないですか?」


 夕日はニヤリと笑う。夕焼けに溶け込む紅い瞳は爛々と輝きを増していく。


 「へぇ、ここがどんな場所かはちゃあんとわかってるんだ。いいじゃん、いいじゃん迷子で来たってわけじゃあなさそうじゃん、ま、便利屋って言われると語弊あるけど、アタシは面白い依頼だったら大歓迎さ」


 にっと自慢の八重歯を見せる夕日。


 姫璐は目を逸らし少し動揺し、返答に窮する。しかしそれもすぐに収まり、鞄から縦長の分厚い茶封筒を取り出し机の上に置く。


 「ん? オイオイ、まさか金か? そんなの先に出されたってなぁ、一応順序ってもんが——」


 姫璐はフルフルと首を振り夕日の話を遮り驚きの額を提示してくる。


 「この中には200万入ってます」


 「ぶーーーーーーっ! はっ!? 200? えっえっ200!? えっ!? はん!?」


 動揺して少し壊れ気味の夕日を見てそれまでに無かった口元の緩みを見せる姫璐。


 「はい、今確かめていただいても構いません。正直、私の依頼内容は、伺っている金額では見合わないと思い、こちらの金額を提示しました」

 

 依頼の額は内容によって変動する事がある、しかし200と言う数字は今までお目にかかった事がない夕日は自然と生唾を飲む。(ゴクリンコ)しかも万年金欠の夕日にとっては願ってもない金額だ、さらに今回はイリスに回収される事なく懐に入る。だがこの金額に見合う依頼とはいったいなんなのか、疑問を隠しきれない夕日は顎に手を当て返答する。


 「と、とりあえず200は一旦隅に置いて置いてだな、独り決めの額だとしても相当だ、お前さんいったいどんな依頼持って来やがったんだ?」


 予想を上回る額に動揺はしたものの額に見合う依頼とはなんなのか、夕日は期待と高揚感に心を弾ませる、口元の緩みを隠せない程だ。

 

 しかし姫璐は弱々しく口を開く———。


 

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