・でも、俺は変わりたいんだ!
『どうせ無関係な人間だ。ラルも、こども達も。こいつらなんて、放っておこう』
そう……かもな。
『さっさと逃げて、この異世界で、いままでついていなかった人生の負けを取り戻そうぜ!』
逃げて、逃げて、取り戻す、か。
「あーあ、せっかく異世界に転移したのに、いきなり死にそうなんて、やっぱり俺には運がないな」
俺は思わずつぶやいた。
『何をしているんだ。俺よ。さあ、いまなら間に合うぞ。異世界でやり直せ』
「ジンゴロウ! 何をしている! 早く、こども達を!」
ラルは足を引きずりながらもこども達の方へと進んでいく。
ああ、なんて美しい姿なのだろう。ラルの行動は、キレイごとじゃない。ラルは、凄いやつだな。
『逃げろ! 逃げろ! 自分だけ逃げろ!』
そのラルのあまりにも美しい姿が、行為が、俺の中のネガティブな俺を、ぶち壊した。
「俺は、死ぬ!」
「ジンゴロウ! まだあきらめるな!」
あきらめたんじゃないさ。
ま、確かに、きっと俺はここで死ぬだろう。でも、俺だけ逃げて、この異世界で楽しく暮らす? そんなの、ごめんだね。
分かってるって、生きた方がいいんだろ? 希望を残しとけっていうんだろ?
でも、俺は変わりたいんだ! いまわかった。変わりたかったんだ。ネガティブな自分を変えたかったんだ。
もしかしたらその気持ちがあったから、この異世界に来てしまったのかもしれない。
これから数分以内に俺は死ぬと思う。
でも、俺は変われる! 変われたんだ! その意味は、きっと大きい!
「あーあ、こりゃどうあっても、俺は死ぬ。無関係な町の人々も一緒に死んでしまう。やっぱり俺はついてない……オーマイゴッド!」
俺はラルを再び抱き起し、右の肩に担いだ。
「ジンゴロウ! あたいのことは放っておけって!」
「放っとけないさ! せっかくだから、一緒にこども達を助けようぜ!」
もう後戻りはできない。でも、いい。前へ進むんだ。今度こそ。
俺とラルは、ゆっくりとこども達の方へと歩いて行く。
それにしても、地面が揺れる。ゴーレムのせいだ。
ようやく泣き叫ぶこども達の前へ着いた。ラルはこども達の方へ膝立ちで進んでいった。
でも俺は、ゴーレムの振動でそのまま態勢を崩し、しりもちをついてしまった。
「おっとっと」
ドスン。
むにゅ。
「ん? むにゅ?」
俺の尻は、固い地面にしりもちをついたが、左手からはむにゅむにゅと柔らかい感触が伝わってくる。
むにゅむにゅ。
もうすぐ死んでしまうかもしれないという、極限の緊張感の中、なんだかこの柔らかさが俺の気持ちを弛緩させる。
「なんだろう? へへっ、なんか気持ちいーなー」
ゴーレムの振動で揺れるさなか、天を仰ぎ見ながらそうつぶやいたとき、誰かが俺の手をクイクイと引っ張った。
「あのっ、あのっ」
下を見ると、一人の少女がゴーレムの地ならしの揺れで寝転がったまま、潤んだ瞳で俺を見ていた。直感的に、年は俺と同い年くらいだと思った。
「はい? な、なに?」
少女はほこりまみれでぼろぼろの服装だった。髪もほこりでぼさぼさだ。でも、顔はとってもかわいい。
こどもばっかりだと思っていたが、俺と同い年くらいの人もいたのか。
「ああああ、あのっ。わ、私のおっぱいを揉むのをやめてもらっても、いっ、いいですかっ」
「え?」
はたと気が付いた。俺が先ほどからむにゅむにゅと揉んでいたのは、この女性の胸だったのだ。なんとついていないのだろう。
これではまるで俺がまたしても変態みたいではないか。
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