幸か不幸かは、その人が決めることなんじゃよ
俺とラルは、全身が痛いのを我慢しつつ、フォルの元へと走りよる。
「負けだと? ワシが? 下賤な貴様らに? バカを言うな。ワシはこの国を代表する金持ちなのだ。地位も名誉も持っておるのだ。あとはこの女神の力を利用し、王位を手に入れ、すべての富を手に入れるのだ。その時、ワシは世界一の幸せを手に入れるのだ」
ゴデブリン大臣はまるで悪びれる様子もなく、そう言った。
ああ、分かる。俺もこの異世界に来るまで、そう思っていた。金さえあれば、幸せになれるのにって。地位と名誉を手に入れたら、周りのみんなが俺を評価してくれるって。
その時、俺は心のどこかで客観的にそれを眺める。そして、初めて自分に「俺には尊敬されるだけの価値がある!」って自信を持てるんだって……。
でも、いまならわかるんだ。それは、合ってる面もあるけど、違う面もあるんだ。
「おい、ゴデブリン。知らねーのかよ! いくら金持ちになっても、幸せにはなれないんだぜ! それどころか、金持ちになるほど、お金から得られる幸せは減っていくんだ! だから! お金を求め続ける限り、永遠に本当の幸せはつかめないのさ!」
自分で言ってて、自分の耳が痛い。こいつは、ゴデブリン大臣は、昔の俺がたどり着くはずの、未来の俺の姿だったのかもしれない。そう考えると、少し気の毒だ。
間違いに気が付くチャンスに、いままで出会えなかったのだから。
「ふん。下郎めが偉そうに。どうせ貴様などいままでの人生で大した幸運になど巡り合わなかったのだろう」
「は? 俺が? ついてなかったって?」
「おい、ジンゴロウ」
ラルがちょっと強めに俺の名を呼ぶ。分かってるって。もう俺は自分をバカにしない。
俺はラルに向かって、軽くうなずいた。
「そうだろう! 貴様のような庶民は何をやってもダメで無駄なのだ! いままでも、そして、これからもそうだ!」
ゴデブリン大臣のセリフに俺は思わず吹き出してしまった。と同時にヒミさんの祖母の言葉が頭に浮かぶ。
―「幸か不幸かは、その人が決めることなんじゃよ」―
「ハハハッ。俺がついてない? 違うね。俺はついている! 俺は、確かにいままでとても不幸だった。でも、そんな不幸な俺だったからこそ、富士山登山の途中で、なぜか富士の樹海で迷い、この世界に来れたんだ。そして、ラルとフォルに出会えたんだ!」




