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週間ランキング10位圏内

清純派アイドルすぎて私生活が死んだ私を待ってくれている幼馴染

作者: 蹴神ミコト

現実恋愛の日間2位、週間2位ありがとうございます!



 私はツバサという芸名でアイドルをやっている。


 小中学生時代は見た目は寡黙な王子様、中身は幼馴染に餌付けされている小動物。そんな事を言われたことがあるが特に後半は否定できない。


 隣りに住んでいた男の子。幼馴染の森石(もりいし) (ふくろう) は料理が得意な子だった。というかあまり喋らない私が美味しいものを食べるとよく笑顔になっていたらしくてそれで彼はどんどん料理を作って上達していった。



「パンケーキ作ってよ」なんて気軽にお願いしてよく甘えていた。



 (ふくろう)のことは大好きだ。ずっと一緒にいたかった。

 だけど一方的に私が甘やかされるだけの関係はただ彼の負担になるだけだと心の何処かで甘えるだけの自分が許せなかった。

 とは言っても不器用な私は少しずつ変わっていこうとするのは難しくて何かドンと生活の全てを変える気じゃないと変われないだろうと考えに考え斜め上の答えにたどり着き――


 辺鄙な田舎都市を飛び出し、彼に恥ずかしくないように自立のために彼と距離を取らざるを得ないアイドルの道へ走り出した。私はこれと決めたら一直線に走り出すタイプだったので両親もなんとかダメだったら将来ちゃんと働いて返すと説得した。今思えば説得されてくれたの方が正しいだろう。


 彼にそれを伝えたときは寂しそうにしてはいたが私の意思を尊重して送り出してくれた。



「また極端だね。いつでも帰ってきなよ翼を待ってるからさ」

「いつか必ず、自立できるようになって帰ってくるからね!」



 寂しさで今にも泣きそうなのを『彼の足枷にならない人間になりたい』その一心で涙をこらえて東京に旅立った。東京の高校に通いながら養成所に通い奇跡的に高1ですぐにアイドルデビューができてしまい、そしてトントンと売れて売れて。


 歌って踊って、彼に恥じない人間になろうと一人前になろうと頑張って頑張って、全国を巡って仕事をして仕事をしてレッスンをして仕事をして仕事をして仕事をして



 20代前半にして冠番組を持ち。私は自立が出来る大人になっていた。

 なぜこんなに頑張っていたのか当時はもう思い出せなくなっていた。



 仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をしてをして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして仕事をして――





 今日はグループの過半数がやらかして謝罪会見をしている。




 報道陣のフラッシュの雨に撃たれながら私なんにも悪くないんだけどなーとどこか冷めた気持ちで席に座る。



 私達のグループは時代錯誤な清楚さで売っていた。

 私生活の全てを歌やダンスなどの自分磨きに捧げ、デビュー前の交友関係は全て捨て、アイドルという名の修羅のような生活だった。


 清楚というか、芸に身を捧げて私生活を捨てた集団である。




 現在28~26歳の女性グループだ。





 抑圧しすぎたんだろうね。




 グループ5人のうち3人が乱れたパーティに参加して3人同時にご懐妊である。

「このまま何もないまま死にたくなかった、申し訳ない」




 私も思わずフォローしてしまった。


「確かにあまりにも私生活を潔癖に生き過ぎて男性と会うどころか将来孤独死するんじゃないかな、仕事しかしてなくて私の私生活にはなにもないんじゃないかなと時々怖くて眠れなくなってしまうこともありますよね」



 謝罪会見のあと、私も精神を病んでいると診断を受け『アイドルも恋愛すべき』と風潮ができたくらいである。

 私の心が冷めていたのも病んでいる特徴だったらしい。


 なお残った最後の一人は歳もサバ読んでてグループに入る前に結婚出産済みで小学一年生のお子さんがいるとか…ああうん、旦那さんと子供がいるから一人だけメンタル壊れなかったのね。



 病んでいる判定を受けても私はお仕事を続けた。

 歌うにも踊るにもメンバーが足りないのでもっぱらソロ活動だ。バラエティ番組のひな壇とかラジオとか一日署長とか。


 なぜ休まないのかって?


 家にいると一人ぼっちで余計病むからだね。



「あの謝罪会見のあと、事務所に戻ったら言われたんですよ。今まで清楚に完璧なアイドルにってさんざん言ってた上司から『誰かいい人いないの?』って言われて…あの時は本気で顔ぶん殴っちゃいましたけど社長も倒れた上司に蹴り入れてたのでセーフでした」



 って番組で言ったときは笑ってもらえると思ったのにドン引きされたり同情されたりしてしまった。おかしいな?でも事務所から自由恋愛の許可が出ましたって言ったら拍手してもらえたのでヨシ。


 生放送じゃ無かったらカットされてるからなって言われたケド。


 なぜかSNSのトレンドが #ツバサ早く結婚しろ になった。そんなに私が1人だと不安なのか君たちは。エゴサをしてみるとどうも推しが壊れるくらいなら早く家庭を持ってほしいとのこと。そうだね、結婚してた人だけ心が壊れなかったからね。



 殺風景な自室のベッドにごろんと仰向けになり考える。


 そもそも結婚しろとか突然言われても私は仕事ばかりしてきた人間だ。今更仕事以外のことを応援されてもなにもできないよ。仕事以外なにもないんだ。


 家に帰っても待っているのは殺風景な部屋。自身のオシャレはアイドルなので気を使うけど家具とかは気にしたことがない。私の仕事には人間関係があるけど、私の私生活には誰もいない…


 だれか、誰かのいる家に帰りたい


 どうしてこうなっちゃったんだろう、なんでアイドルなんてやってたんだろう






 あ っ




 


 地元






 幼馴染!!隣の家の男の子!!梟!!!


 一度気づくとまるで真っ暗な押し入れの奥からアルバムを見つけたかのようにドンドン記憶が蘇ってきた!!彼の連絡先は分からない、過去の連絡先は超清純派として売りに出してた頃に処分してしまったからだ。あの頃はまだ連絡ができなくても立派になった私をテレビ越しに見てほしいとかそんな気持ちでやってた。


 忘れてしまっていたそんな気持ちも。


 お母さんに電話する、隣の家に住んでいた彼…梟は今どうしているのか!



 ガチャ


「お母さん!あの、あのね…何年かぶりに実家に帰りたいんだけど…」









 故郷は東京から遠く離れた田舎都市だ。

 すぐには帰れず纏まった休みが取れるまでまだ2週間は東京だ。


 久々に心に熱が入った気がする。


 帰りたい、彼に会いたい、私と同じく26歳の梟はどんな大人になったのだろうか?料理もできて勉強もできて面倒見が良くて……まさか結婚してたりしないよね??あれ、どうしよう、独り身な方がおかしいじゃん彼絶対モテるよ!?


 そんなあわあわしながら2週間を過ごすと周囲の人から「前より顔色が良くなったね」と言われた。そうですね、何年かぶりに人間らしい悩みを持てたので。悩みたくなかったけどさぁ!!








 日中の仕事を終えてやっと実家に着いた夜、母から彼はここにいると言われた場所に着いた。実家より先に行けとのお達しである。


 そこは大きめの食堂だった。『洋食レストラン()()()


 ここで働いているのかな?店内にはまだ灯りがある。

 入り口に書いてある営業時間は…10分前に終わってるじゃん!?


 ちょ、ちょっとダメ元で…東京都心よりも落ち着いたデザインの扉を…施錠されていないね?開けて中に入る。すると従業員さんたちがわっと集まってくる追い出される!?



「ご、ごめんなさい!時間外だって分かってるんですけど、その」

「「「ツバサさんいらっしゃいませ!!」」」

「へっ!?」



 さあさあお席へとカウンターに案内される。座っちゃっていいの?

 カウンター越しの厨房からどこかなつかしいほっとした気分になる顔が現れる、



「おかえり翼、何が食べたい?」



 背も伸びて筋肉もついて随分大人びたけど間違いない。彼だ。仕事しかしてなくて何もかもなくなっちゃった私におかえりって言ってくれる人はいたんだ。



「ただいま、パンケーキつぐっでよ…」

「泣くなって、すぐ作ってやるから」



 厨房の中に姿が消える彼につい手を伸ばしてしまいそうになった。大丈夫彼は戻ってくる、私じゃないんだからすぐ帰ってくる。そう思ったら苦笑してしまった。



 少し時間が立つと三段重ねのパンケーキと2つの卵焼きが出てきた。

 パンケーキにメープルシロップを掛けてフォークで広げて食べる。うん…



「しょっぱい」

「涙拭けって。あーあこんなに泣きながら笑っちゃって器用だなあ」

「食べたら笑顔になっちゃう」



 あの頃よりずっと美味しくて、あの頃と同じほっとする味。

 帰ってきたんだなぁって実感する。


 問題は帰る場所が埋まっていないかだけど…



「あのさ。梟。私頑張ったんだよ?自立できるよ、部屋は殺風景だし連絡先は仕事関係ばかりだし私生活は怪しいけどちゃんと稼げているし、働けるし、あの……フリーだったらどうですか?」



 あ、だめだ、自己アピールが仕事しかない。

 なんて面白みのない女になってしまったんだろう私は。



「なあ翼、お前が変わろうと頑張ったのも知ってるし頑張ってたのもテレビ越しに見てたけど私生活そんな感じなのか…?」

「そ、そんな感じです…ひょえっ!?」

「不安だからお前を1人にしたくない、ここ店舗兼自宅だから今日は泊ってけよ」



 ガシッと両手を掴まれてびっくり、いやまって私アイドル!アイドルなんですけど!!

 


「この間の生放送で自由恋愛の許可が出たって言ってたろ。俺は嫌か?10年も連絡を取らなかった幼馴染は嫌いか?」

「そんなことない!そんなことないけど今日は、えと、泊る道具とかも無いし実家に戻らなきゃなーって…」

「お前んちの母さんウチで働いてて、お前にここへ来いって指示出した後『お泊りセット用意してくるわ~娘と孫をよろしく!!』って外へ出てったけど?」

「お母さん!!?」



 久々の帰郷はハチャメチャだったけど楽しかった。

 この後、久々に会ったお母さんと梟が『どっちがおふくろの味だ卵焼き対決!』とかやって食べて安心感のある方を選んだら梟のだったのでお母さんがヨヨヨと泣いているふりをしたり。

 お店の従業員さん達から『ツバサさんのおふくろの味って店長なんですね』と弄られたり。

 みんなで歌ったり、私達のダンスを完コピしてた従業員さんと踊って私が帰ってからUPしようって話したりとても楽しく…本当に久々に充実した私生活を送れた。



 その後私は芸能活動を3カ月ほど休止して心の回復、楽しい日々を過ごすことを目指すと公言してありがたいことに心配してくれていたファンや親しい仕事関係の方々からも応援してもらえた。

 私が休養していた間、とあるレストランでは私によく似たウエイトレスさんがいい笑顔で薬指を輝かせながら働いていたらしいよ。



 休養が開けてしばらくした後。今度は育児休暇で休んだのはまた別のお話。


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― 新着の感想 ―
[一言] 泣ける めでたし。良き!
[一言] 戻ってきた時にはもう彼女がいて、その現実を受け止めきれずにおかしくなって自殺するのかなぁと思ったらまさかのハッピーエンドだったw
[良い点] 面白かった [一言] これは男の子側の視点も見たい所
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