ラスボスとの絆
ラスボスたちに会えて嬉しい。
でもそれは、彼らのファンとして。
魔力がすぐに切れるなら大量の魔物を倒すのは、どのみち無理だ。
とっても豪華なメンバーなのに、すごくもったいない。
「いいや。そなたがいれば可能じゃ」
「わたし……ですか?」
「そうじゃ。召喚した者とされた者は、特別な絆で結ばれておる。その証拠に、彼らの魔法はそなたに効かなかったであろう?」
「なるほど。でもそれと、魔力は別の話ですよね? 強大な魔法が使えても、あっさり魔力切れを起こすようでは魔物退治はできません」
「まあ、普通はそうじゃろう」
ますますわけがわからない。
大神官は何を知っているの?
「おい、老いた人間。貴様が詳しそうだな」
「洗いざらい話してくれないと、建物ごと潰しちゃうよ」
魔王アルトローグと人の悪意ライムバルトが、じりじり迫る。
わたしと同じく、ラスボスたちも戸惑っているようだ。
大神官が、進み出る。
「偉大な方々、エストレイヤ西神殿にようこそ」
「挨拶はよい。余がここにいるわけを、とっとと話せ」
「そうそう。どうしてこんなところに立っていたのか、不思議なんだよね~」
なんだか不穏な雰囲気だけど、大神官はひげをのんびり撫でている。
「わしがこの娘に、あなた方をお招きするよう頼んだのじゃ。各地にはびこる魔物を退治して、どうか世界を救ってくだされ」
「世界を救う……だと?」
「いかにも。本懐を遂げたなら、この老いぼれをどうしようと構わぬ」
「へえ? 我々が、老人の命一つで言いなりになるとでも?」
ウリエルが口に手を当て、クスリと笑う。
大天使でさえこうなのだ。
他のラスボスは、明らかに嫌そうだ。
「ええ~っ。お爺さんの下働きなんて、僕、やだなあ」
頭の後ろでのんきに手を組むライムバルト。
仕草とは裏腹に、その青い瞳は悪意に満ちている。
「ふん、ジジイに興味はない。余が、人間に従うとでも思うたのか? しかも魔物退治とは……」
魔王アルトローグの赤い瞳が、怒りに煌めく。
ラスボスたちからしてみれば、魔物はかなり格下だ。
バカにされたと思うのも、当然だった。
彼らの怒りをひしひし感じる。
これってマズイのでは?
「待て。たとえ人間と言えども、老いた者の意見は尊重するべきだ。ご老人、他にも何か隠しごとがあるだろう?」
龍神、龍ケ崎一連が核心を突く。
わたしもそこが知りたかった。
魔力切れを起こすとわかっていながら、召喚させたのはなぜ?
「ふうむ、説明が必要じゃの。どなたさまもまだ、魔力は回復しておらぬか?」
「ジジイ、何が言いたい?」
魔王が目を細めた。
ラスボスたちの魔法は、大量の魔力を必要とする。
魔素の少ない世界では、ちょっとやそっとで回復するわけがない。
「では、誰でも良いからハルカと手を繋ぐのじゃ」
「……へ?」
言われた意味がわからずに、素っ頓狂な声を出す。
ラスボスたちも同様で、顔をしかめている。
「どうされたかの? 触れるだけでいい。簡単じゃろう?」
――大神官様、そのお言葉は命知らずです。それにわたしがラスボス様と手を繋ぐなんて、恐れ多すぎる!!
念のため、手の平を白いローブにこすりつけておく。手汗で不快な思いをさせるなんて、ファンとして許しがたい。
「いいよ。はい」
大天使のウリエルが、手を差し出してくださった。
彼は男性キャラには辛辣だけど、女性キャラには優しいことで定評がある。
「シツレイ、します」
緊張のあまり、声が裏返る。
ウリエルは微笑むと、わたしの手をしっかり握ってくれた。
――憧れのラスボスの手! 整っていて滑らかで、指先まで綺麗。これだと、縮んだ寿命も延びた気がする。
「そのまま魔法を使うのじゃ。大きければ大きいほど良いが、危険でないものを」
「わかりました」
「え? わかっても、できるものではありませんよね?」
巨大な魔法を使うには、MPの回復は必須だ。
ウリエルは何度か魔法を使ったので、まだ戻っていないはず。
「ホーリーシールド展開、続いてセイクリッドロードライト」
大天使が唱えると、白い球体が彼と私を包む。
黄金のオーロラが空に出現し、地表では広範囲が光り輝いた。
「こ、これは……」
RPGオタク垂涎の技だ!