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まさかの能力

「ねえ、誰にものを言ってるの? 人間のくせに僕の邪魔する気?」


 ライムバルトの言い草に、怒りがふつふつ()き起こる。


 わたしの好きなRPGのラスボスは、一般人には手を出さない。城や塔、ダンジョンの奥深くに来た強い者しか相手にしないのだ。


 弱い者いじめをして楽しむなんて、ラスボス界の風上にも置けない。


「種族は関係ありません。やめなさい、と言いました」

「へえ? お姉さん、僕に逆らうの」

「つまらぬことを申すなら、お前から消すぞ」


 人の悪意と魔王がわたしを(おど)す。

 でも、ここで屈するわけにはいかない。


「いいんですか? わたしが消えたら、あなたたちも消えますよ」


 精一杯のはったりだが、ラスボス相手に手段なんか選んでいられない。


世迷(よま)(ごと)を。邪魔だ、どけ」

「いいえ、どきません。今すぐやめてください」


 魔王に一蹴(いっしゅう)されたけど、こうなったらもう、後には引けない。


 自らの寿命と引き換えに、ラスボスたちを呼び出した。その責任は、わたしにある。


「人に危害を加えるなら、許しません」 

「そう。だったらしょうがないね」


 人の悪意が肩をすくめた。

 その途端、神官たちを追いかけていた黒い霧が消える。


「わかってくださって、ありがとうございま……」

「な~んちゃって。ダークファング!」

「きゃあっ」


 二度も同じ手に引っかかってしまった。

 霧でできた狼が、今度はわたしに飛びかかる。


「なっ……氷壁!」 


 実態のない黒い霧は、龍神が作った氷の壁をもすり抜ける。


 もう、ダメだ――。


「バシュッ」


 狼の(きば)に噛まれた直後、黒い(かたまり)が霧散する。


「…………え?」

「あれれ? なんで?」


 人の悪意の集合体、ライムバルトが大きな目を丸くする。


「ふん、お前の魔法が弱いということだ。ファイヤーボール」


 魔王、アルトローグが軽く手を振って、小さな火の玉を投げつけた。


「ビシイッ」


 声を上げる間もなく、火の玉も弾かれる。


「は?」

「なっ……」


 ――なんで? まさか大神官が、わたしに防御魔法をかけてくれた?


 けれど大神官は、口をポカンと開けている。


「違う? じゃあ、いったい誰が……」

「へえ、すごいね」

「ふむ。あの女人(にょにん)に、助けは()らぬということか」


 大天使ウリエルと龍神の龍ケ崎一連は、感心したように(うなず)いている。

 一方わたしは、全くわけがわからない。


「……なんで?」

「魔法耐性が高いのか。ならば……」


 低く(うな)った魔王が、先ほどとは桁違(けたちが)いの炎の(うず)を、己の頭上に出現させた。


 ――マズい。あの技は『クリティカルブレイズシュトローム』!


 名前だけでなく、威力いりょくもさっきと段違い。辺り一帯を焼き尽くす技だ。


「お、おお、落ち着いてください」

「ハルカ、そなたが落ち着くのじゃ。早く(なだ)めよ!」


 大神官が叫ぶ。

 そんなことを言われても、宥め方などわからない。

 なんとかしないと、魔王の奥義でここにいる全てが息絶えてしまう。


「大氷河」

「ウルティマホーリーブレス」

「じゃあ、僕も。インフェルノエクストリーム」 


 ――待って、待って、待って! 


 他のラスボスまで奥義を出すってどういうこと!?

 これだと辺り一帯どころか、この世界全体が消し飛んでしまう。

 

「やめてーーーーーーーーーーーーーっ」


 目を閉じて、力一杯絶叫した。

 わたしのせいで、世界が(ほろ)びる。

 やっぱり自分は、役立たず――――――――――――――――――――――――――。




 ところが、いつまで経っても何も起こらない。


「……え?」


 ラスボスたちも、驚いた顔でその場に立ち尽くす。


「どうしてみんな、途中でやめちゃったの?」

「魔力切れ、じゃな」

「うわっと、大神官様!」


 気がつくと、大神官がわたしの隣に立っていた。


「わしが思うに、彼らが元いた世界はここよりも魔素が濃かったのじゃろう。魔力不足に(おちい)ったと見える」


 魔素とは、大気中にある魔力の素のこと。

 いくら魔力が多くても、取り入れなければ使えない。


「魔力不足? そうか。強大な魔法には、MPが大量に必要ですもんね」

「えむぴい? なんじゃ、それは」

「あっ……と、魔力を数値化したものです」 

「そうか。そなたが元いた世界にも、魔法があったのじゃな。だから、彼らを召喚できたというわけか」

「ははは」


 親代わりの大神官には、わたしがこことは別の世界から来たことも、ちゃ~んと話してある。

 ただし、ゲームの話は内緒なので、笑ってごまかすことにした。


 今は、ラスボスたちをおとなしくさせる方が先決だ。


 ――あれ? でも……。


 大変なことに気づいてしまった。


「大神官様。魔素が薄くて魔力切れに(おちい)るなら、強い存在を召喚した意味がありませんよね?」


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