いきなり余命わずかです?
わたしの愛するラスボスが、四体一気に現れた。
喜ぶどころかショックのあまり、声が出ない。
「おい。あれ、かなりマズいんじゃないか?」
「人……よね? 四人もだったら、余命はどれくらい?」
わたしをいじめた先輩神官たちが、こそこそ話す。
黒髪に黒い瞳の異邦人。
坂崎春花――この神殿で『ハルカ』と呼ばれる私は、最も魔力が弱かった。力いっぱい念じても、かすり傷程度しか治せない。そのせいで、「インチキ神官」とバカにされていた。
心優しい大神官も、口をあんぐり開けている。
「一つ呼び出すごとに、残りの寿命が半分になるって言われていたよね。四体もってことは、半分の半分の半分の半分!?」
血の気がどんどん引いていく。
浮かれていたさっきの自分に、こう言いたい。
『好きなラスボスを全員呼び出すなんて、あんた正気?』
わたしは現在十八歳。
あと八十年生きられるとしても、半分は四十。
その半分は二十でさらに半分の十、そのまた半分ってことは――。
余命はたったの五年!?
赤ん坊なら幼稚園、小学生なら入学しても卒業できない。
いや、もしかしたらもっと短い可能性が……。
「なんてこった」
くじ引きで選ばれただけなのに、こんなのってあんまりだ。
ある日突然、神殿の庭に迷い込んだわたし。知らない世界にひとりぼっちで、心細かった。
大神官はそんなわたしに寄り添って、保護してくれて。神官の職に就けるよう、推薦もしてくれた。
身寄りのないわたしにとって、その優しさがどれほどありがたかったことか。
ただでさえ大神官は、魔物の犠牲になった人々を毎日弔い。心を痛めている。過剰な職務で身体はボロボロ、近頃めっきり老け込んだ。
恩人を助けたい。
だからわたしは、危険な秘術を引き受けた。
でもこれは、危険どころか悪夢だ!
現状を受け入れられず、しばらく放心したわたし。気がつくと、魔法陣の上がどエライことになっていた。
「おい、貴様。ここはどこだ?」
「え~? 僕に聞かれたって困るよぉ」
「おかしいな。私は天上にいたはずだけど?」
「…………チッ」
いらつくあまり黒いオーラがダダ漏れな魔王、アルトローグ。
可愛い顔で殺気を放つ人の悪意の集合体、ライムバルト。
穏やかながらも目が全く笑っていない大天使、ウリエル。
話すのも面倒だと怒りMAXで舌打ちする龍神、龍ケ崎一連。
互いに睨み合うラスボスは、一触即発の状態だ。
「なんなの、あれ。衣装ばっかり派手で、見かけ倒し?」
「命懸けで呼び出しといて、あれか」
「魔力の少ないあいつが召喚したなら、どうせ雑魚だろう」
――いいえ、先輩方。雑魚なんかじゃなくラスボスです!
「ハルカ、ともかく彼らに話しかけるのじゃ」
「こ、こんなお方にどうしろと?」
呼び出した後のことを、失念していた。
下手に話しかければ、この地もわたしも一瞬にして消されかねない。
「おい、人間。ここはどこだ?」
長い黒髪に大きな角を生やしたイケメンが、金糸で縁取りされた黒のマントを翻す。
『クリティカル・サーガ』のラスボス、魔王アルトローグだ。
そういえば、ゲームの魔王はドット絵でボイスもなかった。
昔のRPGだからか、登場時はキシャーとか、グギャアアアとかいう変な効果音だった気がする。
――召喚時に思い浮かべたのが、パッケージのイラストで良かった♪
「貴様、応えぬとは……。余を愚弄しているのか? 人間のくせに、命が惜しくないと見える」
「え? わたし!?」
慌てて返事をしたものの、魔王の長い爪に炎が灯された。
小さな炎は手の平の上で、たちまち巨大化する。
――いけない。この技は、『ブレイズストライク』!
「ダメーーーーーッ」
せっかく召喚したのに、わたし、ここで終わりなの!?
「ブレイズストラ――」
「氷壁」
魔王が火球を放つ寸前、龍神の低音が響く。