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ラスボスを召喚しました

 それは、半年ほど前のこと。


 (した)()神官のわたし――ハルカは、魔法陣の前でずっと迷っていた。


「どうしよう?」


 ここは女神、エストレイヤを(まつ)る神殿の中庭。

 今は『召喚(しょうかん)の儀』という念じたものを具現化する秘術の真っ最中。わたしは想像しうる限りの最も強い存在を、呼び出そうとしていた。


「手順は教えた通りじゃ」

「はい、大神官様」


 肩まで伸びた白髪と白いあごひげの大神官は、金色の刺繍(ししゅう)がたっぷり入った白いローブを着ている。

 ちなみにわたしは下っ端なので、模様のない真っ白なローブ。神殿での地位が上がれば上がるほど、金の刺繍が豪華になっていく。


 中庭を囲む回廊に目をやると、先輩の神官たちがわたしを指差し笑っていた。


「魔力が弱いんじゃあ、どうあがいたって無理だろ」

「神官だって証明するのに必死なのよ。笑っちゃ可哀想だわ」


 唯一の友人、下男のタレスはわたしのために祈ってくれている。

 正面に目を戻すと、地面に描かれた魔法陣が輝きを増していく。


「時間がない。ハルカ、早く念じるのじゃ」


 白いあごひげの大神官が、背後で慌てた声を出す。


「わかっています。ええっと……」


 焦れば焦るほど考えがまとまらない。

 大陸各地で凶暴化する魔物を倒すためには、一番強い存在を呼び出さなければならないのに――。


 いまだに迷う理由は、思い浮かぶ相手が多すぎて、一つに絞れないせいだ。


 ――勇者や魔術師、ドラゴン? 


 とんでもない! 

 わたしが呼び出したいのは、ゲームに出てくるラスボスだ。


 だって私は、この世界に迷い込む前のこともちゃ~んと覚えている。


 ここに来る前の私、坂崎はるかはRPG――ロールプレイングゲームにどっぷり()まった高校一年生。周りから「RPGオタク」と呼ばれても気にならないくらい、最後の敵をこよなく愛していた。


 乙女ゲームの攻略対象が優しいのは、はっきり言って当たり前。

 RPGのラスボスは、冷たいからこそカッコ良く、強いからこそ俺様系。わたしはそんな彼らにまつわるエピソードが、三度の飯より大好物。


 ゲームのタイトルを思い浮かべただけでときめいて、ラスボスの悲しい過去を反芻(はんすう)すると涙腺(るいせん)が勝手に崩壊し、姿を頭に描くと叫びそう。


 要するに、わたしの好きなラスボスは、全員強くて見た目も素敵。

 正直、誰を選んでも構わない。

 構わないからこそ結論が出ず、悩みに悩んでいるのだ。




「ハルカ、何をボーッとしておる? 急ぐのじゃ」

「はっ!? はいっ」


 ――自分よ、いったん落ち着こう。今は過去を振り返っている場合じゃない。


 神殿にお世話になって約三年。

 今こそ恩を返す時。


「どうしよう? 一番いいのは誰?」

「術が終わってしまう。早く念じるのじゃ」

「はいっ」


 ぐずぐずしている暇はなく、両手を組んで目を閉じた。

 最初に浮かんだ尊い姿を、小さく口にする。


「涼しげな目元の龍神、龍ケりゅうがさき 一連いちれん様。一連様、一連様……って、隣にいらっしゃるのはウリエル様?」


 雑念だらけの自分の中で、推しと推しが肩を組む。


「だったら、ウリエル様。優しい仕草と微笑む様子が素敵な大天使、お願いします。ウリエル様、ウリエル様……あのっ、どうしてライム様が出てくるの?」


 頭の中で別の推しが飛び出して、いたずらっぽく笑う。


「じゃあ、人の悪意の集合体、ライムバルト様を呼び出します。少年のように可愛らしいライム様、ライム様……待って。アルト様は呼んでないっ」


 尊大な仕草で、推しの魔王が仁王立ち。


 ――そうか! 魔物を相手にするなら、彼が一番適任かもしれない。


「魔王のアルトローグ様に決めました。アルト様、アルト様、……ああ、もうっ!」


 こんな時に限って、脳内をラスボスたちが闊歩(かっぽ)する。ファンとしては嬉しいけれど、神官としては由々しき事態だ。


 慌てて頭を横に振り、再び祈る。


 ところが――。


「いかん、もう間に合わん!」

「そんなっ」


 大神官の叫びで目を開くと、魔法陣がひときわ明るく輝いた。

 外周に沿って光の柱がそびえ立ち、シュゴーッという大きな音を立てて高速で回転している。


「おおーっ」

「うわー、何も見えないぞ」


 先輩神官たちは、もちろんのこと。

 間近にいた私は(まばゆ)い光に目がくらみ、何がなんだかわからない。


 慌てて下がると、辺り一帯が白に包まれた。

 静寂(せいじゃく)の中、不安に思う。


 ――失敗? 成功? 結局どっち?


 視界が晴れていくにつれ、魔法陣の上に何かが見えた。


「やった、成功したみたい!」


 現れた推しは誰だろう?


 ワクワクしながら注視する。

 わたしの召喚に応えてくれた、崇高な存在とは――――…………?


「え? なんで? なんで推しのラスボスが、全員いるの~~!?!?!?」


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