ラスボスは一筋縄ではいかないようです
わたしは食堂にラスボスたちを呼び集め、頭を下げた。
「お願いします。一緒に旅に出てください」
「断る!」
魔王は即却下。
「僕も~。面倒くさいもん」
人の悪意も同行する気はないようだ。
龍神は無言で、頼みの綱は大天使だけ。
「魔物退治は、国王陛下の意思でもあります。世界の平和を守るため、どうかお力を貸してください」
「国王陛下? それがどうかした?」
大天使までやる気なし……と思ったら。
「まあ、君がどうしてもって言うのなら、手伝ってあげてもいいよ」
「本当ですか!」
「ああ。君の魂はキレイだからね」
――またそれ? どんな色か、非常に気になる。
「ウリエル様、わたしの魂って、何色なんですか?」
「ん? 限りなく白に近いクリーム色だよ」
「クリーム色……」
期待した割にそれって……なんだか地味だ。
「自慢していいよ。生きている以上、無垢な白などあり得ない。中には濁った沼色や、いろんな色が渦巻いて泥の方がマシな色もある」
「そう……なんですね」
よくわからないけど、まあいいか。
大天使はとりあえず、協力してくれるみたい。
「ウリエル様、よろしくお願いいたします」
「わかった。でもそれだけ?」
「えっ?」
「もっと近くにおいで。身体全体で、感謝を示してほしいな」
大天使はそう言うと、腕を大きく広げた。
――魔力が必要ないのに、ハグするつもりなの? ウリエル様は、セクハラ大天使!?
妙な考えが浮かんだが、慌てて首を横に振る。
いくら魂の色がキレイでも、元々わたし。
RPGのラスボスが好きな普通の人間だ。
「訂正。セクハラじゃなくって、ご褒美かもね」
「おや? 何か言ったかい?」
「いいえ。では、失礼して……」
大天使の胸に飛び込もうとしたその瞬間、龍神がわたしを引き剥がす。
「よく考えろ。自分を安売りするな!」
「へっ?」
龍神の険しい表情に、わたしは目を丸くする。
「邪魔が入るとは残念。それじゃあ君も、彼女を手伝ってあげるんだね?」
「…………ああ」
低い声でも聞き逃さない。
「一連様、ありがとうございます!!」
勢い込んでお礼を言うと、龍神は無言で首肯した。
余命が限られている以上、魔物をとっとと片付けたい。
欲を言えば、あと二体の協力もほしいところだ。
ダメ元で、もう一度お願いしてみよう。
「アルトローグ様、ライムバルト様、一緒に旅がしたいです。どうしてもダメですか?」
顔の前で両手を組んで、祈りのポーズ。
慈悲深き女神、エストレイヤ様にもすがる思いだ。
「ふむ。条件次第では、聞いてやらぬこともない」
「アルトローグ様、ありがとうございます!」
喜ぶわたしの前で、魔王が長い爪を自分の唇に当てる。
「礼はまだ早い。余は、条件次第と言ったはず」
――そのポーズ何? まさかとは思うけど、キ、キ、キスしろってこと!?
「な、な、ななな……」
「どうした、人間。なぜ顔を赤らめる?」
あまりのことに声が出ない。
そんなわたしの様子に、魔王が顔をしかめた。
「うぬぼれるな。余が、人間に迫ろうはずがない」
――ですよね~。大天使がチャラいからって、魔王が同じわけがない。私ったら勘違いも甚だしい。
「アルトローグ様の条件とは?」
「何、簡単なことだ。魔物を倒した暁には、お前を食わせろ」
「はいいいいい!?」
仰天するけど、魔王は動じない。
「絆という話は信じられん。お前の能力を、余が取り込んでやろう」
「いや、それだけは嫌、というか無理です!」
「なんで無理なの? 魔物を殺すなら、人だって殺していいでしょう?」
今度は人の悪意が、口を挟む。
「いいえ、絶対にダメです」
「どうして? 魔物は良くて、なぜ人はダメなの?」
「魔物を退治するのは、与える被害が甚大だからです。このまま放置するわけにはまいりません」
「じゃあ、悪い人ならいい? 人間にも、悪いやつはいるよね」
「――う」
つい言葉に詰まってしまう。
ライムバルトの言う通り、人間にも他者の命をなんとも思わない極悪人がいる。反対に、魔物にも悪くないものがいる……かもしれない。
魔物の側にも人を襲う理由があるとしたら?
そもそも魔物が、人里に現れるようになったのはなぜ?
魔物を退治するだけでなく、大元の原因を突き止める必要がある。だけど余命わずかの自分に、そんな時間はあるのだろうか?
「ふふ。屁理屈を言うとは、少年は魔物に勝つ自信がないのかな?」
「はあ? オジサン、頭がおかしいの? 魔物くらい余裕で勝てるでしょ」
「そう。じゃあ、君も参加ということだね?」
「……ま、ここは退屈だから行ってあげてもいいよ」
――え? いいの?
人の悪意ライムバルトは気を変えたのか、あっさり了承してくれた。それにしても、見目麗しいウリエル様を「オジサン」と呼ぶなんて。




