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遺体の謎

 *****



 

 護衛の兵士の報告を受け、慌てて向かう。

 わたし――ハルカが村の奥に行くと、村人が数名、燃え尽きた家の中を(のぞ)き込んでいた。


「これは、どなたの家ですか?」

「空き家のはずだ。魔物も、こっちには来てないようだったが……」

「んだ。村の住民はみな避難しとるし、村長の確認も済んでいる」

「じゃあ、これは誰?」


 崩れ落ちた(はり)の下には、大部分が()げた人のようなものがあった。神殿での仕事柄、損傷の激しい遺体も目にしたことはある。けれど慣れることはなく、いつ見ても胸が痛む。


「大人のようですね。村の方でないなら、どうしてここに?」


 ふと(ひらめ)く。


「もしかして、侵入者では?」

「わからん。だが、調べるにしたって梁が重くて動かせない」

「んだ。このままそっとしておくしかないべ」

「まあね。下手に動かすと、遺体が崩れてしまうかも。ただ、焼死の割に横たわったままの姿が気になるわ」


 普通はもっと、もがくのではないだろうか?

 そこでわたしは顔を上げ、あるラスボスの姿を探す。


「ライム様、いらっしゃるのでしょう?」

「あれれ? どうして僕がいるってわかったの?」


 村人の後ろにいた少年が、ぴょこんと顔を(のぞ)かせる。

 遺体と聞いて、人の悪意が興味を持たないわけがない。


 ライムバルトはスキップしながら近づくと、梁の下敷きになった遺体を見下ろした。


「……で? これを、僕にどうしてほしいの?」


 さすがはラスボス、話が早い。


「詳しく調べたいので、梁をどかしてください」

「え~、どうしよっかな~」

「ライム様! ふざけている場合ではありません」

 

 強い口調で非難すると、人の悪意は口を(とが)らせた。


「ちぇっ。怒らなくてもいいじゃない」

「あなたのお力が必要なんです。お願いします」


 わたしは彼の両腕を掴み、青い瞳を見つめた。


「しょうがないな~。で? この柱みたいなものを、なくせばいいの?」

「はい」

「まったくもう、人使いが荒いんだから」


 ぶつぶつ文句を言いつつも、手伝ってくれる気はあるようだ。


 ――でも、ちょっといいかな? 人使いが荒いも何も、今まで何もしていなかったよね?

  

「シャドーノワール」


 ライムバルトが唱えると、空中にブラックホールのような小さな穴が現れた。黒い穴は梁を苦もなく呑み込むと、次の瞬間消滅する。


「「おおっ」」


 村人や兵士は声を上げるが、わたしはゲームで見た技なので、驚かない。


「ライム様、おかげで助かりました」

「それ、本当に感謝してるの?」

「はい。ありがとうございます」


 にっこり笑い、彼の頭に手を置いた。

 ふわふわの髪は柔らかく、ついよしよしと撫でてしまう。


「なっ……バカ」


 両手を頭に当てて照れる仕草は愛らしく、ゲームで見た通り。

 これでラスボスなんて信じがたいが、本当なのでしょうがない。


「神官様、見てください!」


 いけない、ライム様の可愛さに夢中になっていた。

 わたしは急いで、声を上げた兵士の側に行く。


「これって、バツ印?」


 梁の下の遺体は、お腹の上で手を組んで静かな姿勢で横たわっていた。そのせいで左腕の内側に、かろうじて焼け残っている部分がある。

 そこにはなんと、バツのような模様があった。


「×印って、入れ墨にしては変だよね。まさか、奴隷(どれい)の証?」

「いえ、奴隷なんて聞いたことがありません」

「そうだよね。この国に、奴隷制度はないはずだから」


 わたしは神官となるために、一通りの知識は詰め込んだ。それによると、この国の奴隷制度はだいぶ昔に廃止されている。


「年齢も性別もわからないけど、背格好から推測すると成人男性かな? 焼死の割には眠るような姿勢だし、出火の原因もわからないし……」


 


 わたしは神殿に戻ってすぐ、村の状況を大神官に報告した。話が終わると、大神官は一通の手紙を差し出す。


「これは……王家の印、ですか?」

「そうじゃ。魔物退治を正式に依頼されておる」

「でもこれ、だいぶ前の日付ですよね?」

「うむ。魔物の動きが活発になった当初から、陛下は憂慮(ゆうりょ)なさっていた」

「……あ。じゃあ、そのために秘術を?」

「それもある。じゃが、陛下の意向がなくとも、魔物を退けてほしい」

「今回のように、ですか?」

「そうじゃ。そなたには苦労をかけるが、ここを出て各地を回ってもらいたい」

「旅に出ろ、ということですね」

「すまぬ、この通りじゃ」

「いえ、ええっと……。大変ですが、精一杯頑張ります」


 とはいえ、わたし一人では何もできない。

 肝心のラスボスたちは、協力してくれるだろうか?

 

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