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龍神様のひとりごと 1

「ウリエル様、素晴らしいです! なんとお礼を言えばいいか……」

「感謝の言葉は要らないよ。さっきも言っただろう? 君は魂の色がキレイだから、特別だって」


 そうだ。ラスボスの彼は、相手の魂の色が見える……という設定だった。わたしって、何色なんだろう?


「くだらん」


 疑問を口にするより早く、背後の魔王が吐き捨てる。

 人の悪意も近づいて、退屈そうに肩をすくめた。


「で、終わったの? 僕飽きちゃった。こんなところにいないで、早く行こうよ」


 もう。手伝わなかったくせに、口だけは達者なんだから。

 龍神は無言で、彼らを眺めている。

 ……あ。


「一連様、いろいろありがとうございました」


 村の火災が消えたのは、なんと言っても彼のおかげだ。

 その上、何度もわたしを助けてくれた。


「礼などよい。そなたがいたから、魔力が尽きても技が使えたのだ」

「それは、たまたま召喚に成功したからで……」

謙遜(けんそん)せずに、(ほこ)るがいい」

 

 憧れの人に認められたため、心の奥が温かくなる。


 ――そうか。わたしの魔力は弱いかわりに、溜めておけるのかもしれない。だったらこんな自分でも、ラスボスたちの助けになれる!


「それより、身体に負担はなかったか?」


 なんということでしょう。

 龍神が優しい!!

 

「はい。この通り元気です」


 (すす)けたローブの(そで)をまくって腕をぐるぐる回した。

 ところが龍神は、(あき)れているみたい。


 ――しまった。ついはしゃいでしまったが、彼の出てくるゲームの舞台は昔の日本だ。女性が肌を露出すると、はしたないと思われる?


「えっと、今のは……」

「娘、そなたの名を聞こう」


 まさか、名指しで怒られる?

 もしくは初日の自己紹介を、すっかり忘れているのかな?


「ハルカ、と申します。龍神様におかれましては、漢字の方が馴染みがあるかもしれませんね。春の花と書いて、『はるか』と読みます」

 

 途端に龍神、龍ヶ崎一連が変な顔をする。

 漢字と聞いて、びっくりしたのだろうか?


 同じ日本の出身でも、彼とわたしは時代が違う。昔の女性の(しと)やかさを求められても、無理というものだ。


「そう、か」


 遠い目をした一連は、どことなく寂しそう。

 やはりゲームに出てきた村娘とは、出会いを済ませているのかも。

 残してきた恋人のことが、気になるのかな?


「龍神様、もしかして……」


 尋ねようとしたところ、遠くからわたしを呼ぶ声に気づく。


「神官様~。大変です、神官様~」


 走ってきたのは神殿の護衛兵で、村人を安全な場所に誘導していた人だ。

 避難は完了したはずなのに、何かが起こったらしい。

 

「どうされましたか?」

「神官様、大変です。遺体が出ました」

「ええっ!?」


 みるみる血の気が引いていく。


「どうして? 全員、無事に避難したんですよね?」

「はい、ですが……。とにかくいらしてください」



 

 *****




 去って行く神官の背中を見ながら、俺は思う。


 ――似ている。雰囲気や仕草が、あの娘にそっくりだ。


 便宜上、龍ケりゅうがさき 一連いちれんと名乗っていた龍神の俺は、かつて人間の娘に恋をした。道に迷って途方に暮れた彼女を助けたのがきっかけで、仲良くなったのだ。


『娘、誰の許可を得て立ち入った?』

『すみません。道に迷ってしまいました。水音がしたので、(のど)の渇きを(うるお)したくて……』

『そうか。では、好きなだけ飲むといい。帰りの道は(おの)ずと開かれよう』

『道がひとりでに開くって……変な方。でもあの、ありがとうございます』


 花が(ほころ)ぶように、無邪気に笑う人だった。

 俺を龍神とは知らず、暇さえあれば通ってくるところも好ましい。


『また来ちゃいました』

『年頃の娘がこんな山奥まで出かけてきて、親御は心配せぬのか?』

『私に親はおりません。ですが、村の人たちが大切に育ててくださいました』

『そう……か』


 切り傷の多い手やあかぎれた指を見て、それが嘘だと気づいていた。なれど、明るい娘は自身の生い立ちに触れてほしくはないようで、俺はわざと聞かずにいたのだ。


公卿(くぎょう)様は、自然が似合うお方ですね』

『似合う?』

『偉そうにすみません。なんと言ったらいいのか……』

『許す、申せ』

『はい。あの、(みやこ)を思わせる洗練されたたたずまいでありながら、緑や池と見事に調和なさっています』

『なんだ、それは。そなた、俺を()いておるのか?』

『そんな、滅相(めっそう)もない!』

『そうか? 俺は、そなたを気に入っているぞ』


 水面に落ちる紅葉(もみじ)の葉よりも真っ赤な(ほお)が、印象的だった。

 目が合うだけではにかむくせに、時には大胆に袖をまくって池の水をすくう。あろうことかそれを、俺にかけたこともあった。


『いきなり何を……』

『ふふ、やっぱり驚かれた。l公卿様の澄ました顔以外も見たかった、と言ったら怒りますか?』

『まさか。そんなに俺の顔を見たいのなら、もっと近う寄るがいい』

『あ…………』


 それからは、仲睦(なかむつ)まじく過ごしていた。

 可愛い娘を、俺は手放せなくなっていたのだ。


 しかし(はる)か東の地で、雨乞いの声が強くなる。

 日照りを(うるお)し、ついでに天の様子を見てこよう。




 俺は娘にしばしの別れを切り出したが、それが全ての間違いだった。

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