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魔王のプライド

 魔王と人の悪意の二体は、最初の位置から動いていなかった。


「ギギャアアァァァ」

「……はあ。どうして余が、こんな雑魚(ざこ)どもを相手にしなきゃならんのだ? 


 危ない、と思った瞬間炎の玉が炸裂する。


「あれは、ファイヤーボール!」


 魔王は自分に向かってきた魔物だけを、嫌々ながらも撃退しているようだ。

 できるだけ簡単な魔法で、魔力の消費を抑えているらしい。


「一応退治しているから、放っておいてもいいのかな?」


 わたしは魔王を眺めつつ、ゲームの彼を思い浮かべた。


 ――魔王、アルトローグはまっすぐな長い黒髪と赤い瞳、立派な角の持ち主で、裏地が赤い金糸の入った黒のマントを身につけている。【クリティカルサーガ】のラスボスだけど、叔母(おば)にもらった昔のゲームのため、登場時はカクカクしたドット絵だった。


「カセットの入った箱には、美麗なイラストが()っていたんだよね。人気の絵師だから、いつ見てもうっとりしちゃう」


 肝心のゲームは、叔母によると当時の最先端とのこと。


『まおうさま、ゆうしゃが攻めてきました』

『むむ、手ごわいやつめ』

『いかがなさいますか?』

『→たたかう

 →まもる

 →にげる』


 ラスボス戦は電子音とともに文字が表示され、『たたかう』が自動で選択される。

 画面は勇者に切り替わり、同じように選択肢が表示された。


『たたかう』を選ぶと魔王との戦闘へ突入……かと思いきや、「ほんとうにいいのか?」と仲間が何度も念押ししてくれる。『いいえ』を選ぶとセーブができて、装備品の確認がゆっくりできるという仕様だ。


 片や魔王は待ちぼうけ。


『ゆうしゃよ、まちわびたぞ』


 だよね~とツッコミを入れつつ、最後の戦いへ。


 体力お化けの魔王は炎の魔法を得意としているが、主人公たちが攻めている間は手を出さない。また、ご親切にも自分を倒すための剣やら盾やら(よろい)やら防具やらを、火山の奥に封印していた。


 回復役の僧侶がいないと厳しいけれど、おかげで攻撃は問題ない。

 徐々に体力を削っていって、あと一撃で倒せる! という時に魔王が質問する。

 

『にんげんはなぜ、しぜんをはかいしあらそいをくりかえす? どうぞくごろしもいとわぬとは、われらの方がよっぽどまともだ。おのれをかえりみず、なぜわれらをほろぼそうとする?』


 人間が世を乱すなら、全滅させて魔物中心の世界を作り上げる、というのが魔王の主張だった。自然を大事にしてより良く生きるという考え方は、今のSDGsとちょっぴり似ている。


「だからかな? 勇者の言い分よりも、魔王が正しい気がしたんだよね」


 しかし勇者は言い返す。


『はんせいし、まなび、せいちょうしていく。これからのぼくたち(わたしたち)にきたいして!』


 ――いやいや。カッコいいセリフっぽいけど、それって今までダメダメだったって認めているよね? この人たちに期待して、本当に大丈夫?


 だけど魔王は納得して、ぽつりと(つぶや)く。


『きたいしてよいのだな? そなたらのかくご、しかとうけとめた』


「え? え? こんなんでいいの?」


 コントローラーを持つ手が震えたものの、プレイヤーには『たたかう』以外の選択肢がない。そんなわけでわたしは、大好きな魔王に泣く泣くトドメを刺した。


『だが、もしやくそくをたがえれば、よは、まものをつれてよみがえるぞ』


(よみがえ)って~~、できれば今すぐ! 魔王様だけでいいから、早く戻って~~」


 画面の前の絶叫も(むな)しく、人のいい魔王は虚空(こくう)に消えていく。

 殺戮(さつりく)はさすがにダメだけど、最期まで誇り高く引き際も鮮やかだ。自らの意思を(つらぬ)いた、あっぱれな退場だった。

 ドット絵だからこそできた、消滅加減も素晴らしい。


「魔王様、どこ?」


 エンドロールが流れても、勇者そっちのけで魔王を探す。一瞬しか出てこなくて制作側に怒りを覚えたけれど、わたしの目には誰よりも輝いて見えた。


 ただしそれは、ゲームの中でのこと。

 今の彼は尊大でわがままで、まだカッコいいとは思えない。

 それに自分は人間だから、世界が魔物で()め尽くされるのも嫌だ。


 特に蜘蛛は、絶対無理!!




「キシャアァァァ」

「生意気な大蜘蛛(おおぐも)め。いくら倒してもキリがないわ」


 現実の魔王は魔物の世界を作るどころか、平気で倒す。

 糸を吐く直前の蜘蛛の口に炎を当てて、手際よく燃やしていた。


 いまだに無傷の魔王は、やっぱり強かった。

 でももうすぐ、魔力が切れるかもしれない。

 そんな時こそわたしの出番だ。


 ところで、人の悪意は何をしているのかな?


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