【8月17日】
君がドイツに行くまでの一週間、毎日お昼すぎに君の家に行って恋人ごっこをする約束をして、二日目。
今日は迷わずに来られた。
でも迷うことを想定して早く来すぎてしまって、ランチをご馳走になった。
『うん、やっぱり一緒に食べるのが美味しいね。これから昼と夜、一緒に食べようよ』
手際よくパスタを作ってくれた君が言った。
ダイニングテーブルを挟んだ君の肩越しに、お気に入りのソファーがあるリビングが見えてた。
広いなって思った。
広すぎた。
昨日は豪華さばかりが目についたけど、今日は気がついてしまった。
両親が海外暮らしという君の家は、とっても静かだった。
広すぎるっていうのは、ひとりで暮らしているからなんだろうな。
うちは廊下ですれ違う時はどっちかが壁にへばりつくし、トイレも洗面台もひとつしかなくて朝なんか戦争になりそうだから、広くて羨ましいなって思ったんだけど……違うんだね。
庶民に憧れる貴族様なんて思ってしまって、ごめんなさい。
あんな広い家に独りなんて、寂しいだろうな。
夕飯をご馳走になったら帰りが暗くて、駅まで送ってもらった。
途中、ものすごいナチュラルに手を繋がれて、心臓が跳ねた。
これあれだよね、恋人繋ぎだ、って、焦って顔を上げたら。
『恋人っていったら、やっぱこうしなきゃね』
目を細めて君が柔らかく微笑んだ。
あざとい。
あざといよ。
恋愛感情上昇不可避。
恋愛感情上昇不可避。
心臓が早口言葉を繰り返してる。
私は自分が恋に落ちる音を聴いてしまった。
――君が日本を発つまで、あと五日。




