表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「なろうラジオ大賞3」のための物語

雪だるまさんが転んだ

作者: ヤギマルケイト

 それはほんの小さな、野球のボールくらいの大きさの生命体に過ぎなかった。

 だが、そいつは吹雪を巻き起こす。

 吹き出した氷雪を身にまとい、どんどん巨大になっていく。雪だるまのように。

 いつしかそれは、巨大な“怪獣”へと変わっていた。

 怪獣「スノーマン」。

 そいつは、そう名付けられた。



 防衛軍による攻撃が開始された。

 が……攻撃が、通じない。

 怪獣の本体はボール大の“核”だけ。あとは雪のかたまりに過ぎない。ミサイルも爆弾も雪の体に飲み込まれてしまう。むしろその体は吹雪をまとってどんどん巨大化していく。

 その進軍を止めることさえ叶わない。

 「雪だるまさんが転んだ」作戦。それらはことごとく失敗していく。

 町が次々に踏みつぶされ、雪と氷で真っ白く染められていく。

 スノーマンは北へ向かっていた。



「お願いだ!もうやめてくれ!」

 一人の青年が、その前に立ちはだかった。

「キミにだって心があるはずだ!止まってくれ!」

 彼は売れない役者だった。この先には、彼の故郷があるのだという。

 決して二枚目ではなかった。演技力も微妙だった。

 だが彼は叫び続けた。必死で、自身の乏しい能力の全てを使って語り続けた。

 故郷の両親のこと。友達のこと。彼らがいかに大切なのかということ。

 自分の夢のこと。いつか必ず一流のスターになって、世界中の子供たちに夢を与えたいんだと。

 スノーマンは止まらない。

 青年は少しずつ後ずさりながら、それでも叫び続けた。

 故郷は、もうすぐそこまで迫っていた。



 青年はついに倒れてしまった。

 もうおしまいだ、と誰もが思った。が──

 スノーマンは突如、その足を止める。

 そして……溶け始めた。

 少しずつ、少しずつ。やがて……その小さな本体だけを残し、怪獣スノーマンは消滅した。

 青年は一躍、時の人となった。命がけで故郷を守った彼はまさしくヒーローだった。

 彼は夢であるスターへの道を登り始めた。



「面白いことが判明したよ」

 研究所の一室。白衣の男はコーヒーを片手に言った。

「簡単に言うとね、あれは生物学上、雌だったんだ」

 怪獣の本体は防衛軍によって保護されていた。

「しかも感情パルスの波形から察するに……恐らく、スノーマンはあの青年に恋をしたのさ」

「怪獣が?」

「誰が何に恋しようと自由さ」

 ほお、と頷く友人。

「……で。それが何だと」

「分からないかなぁ。つまり、雪だるまが溶けてなくなったのはどうしてか、って話だろ?」

 男は、悪戯っぽく笑ってみせた。


「春が、来たのさ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルに惹かれて拝読しました。 ミサイルも爆弾も効かない絶望的な相手にどう対処するのかと思っていましたが、そう来るとは! 最後の一言がオシャレですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ