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番外編5

 慌てたようにライの執務室のドアを開ける騎士を訝しく思いながら、アリーナはその手に持つものを抱えたまま執務室に入っていく。

 今日はアリーナは休暇を取って実家に戻っていた。そしてライと城で落ち合って家に帰る約束をしていたわけだが、いつまでたっても約束の場所に現れないためアリーナはライの執務室に足を向けた。

 無論、アリーナはライの執務室に入る気もなかったわけだが、なぜかドアの前に立っていた騎士がアリーナが部屋に入るように誘導してきたのだ。


 静まり返っていた執務室には机に向かって立っているライがいて、その前には見慣れないドレスを着た…セクシーと言える女性がいた。…そしてキスをしていた。

 アリーナは衝撃で動きが止まる。アリーナの手に持っていた荷物がドサッと床に落ちる。

 当然ライの視線もその女性の視線もアリーナに向かうが、ライがいつものようにアリーナを一番に考える行動をとることはなく、ただ静かな視線でアリーナを見て視線を伏せた。


「申し訳ないが出て行ってくれないかな?」


 ライの態度とライの言葉の意味することが分からなくて、アリーナは混乱する。

 その女性はアリーナに向かって、ふ、と笑って更にライに縋りついた。

 その女性の手はやんわりとライから外される。だがとても丁寧に。その動作が、その女性を大切に思っているように感じられて、更にアリーナはショックを受ける。


「人目がありますので。」

「そう? だって見せつけたいのよ。ライ様は私のものだって」


 少しハスキーな声が、その女性の醸し出すセクシーさに更に艶を増しているような気さえする。


「ライ様との結婚を許してもらえるように根回している間にライ様が結婚してしまったという話を聞いた時にはショックだったけれど、過ちとして処理すればいいんじゃなくて。お父様はお許し下さるわ」

「…そうでしょうか。」


 その女性が着ているドレスからそのドレスは異国のものだと想像できた。異国では結婚に対する決まりは違うのかもしれないが、この国ではそんなことは許されてない、そうライは答えてくれるものだとアリーナは思っていた。だから、ライの言葉は予想外で、アリーナはそれ以上の思考を止める。


「ところで、まだ出て行ってくれないのかしら? 私が来ているのに入って来るなんて騎士に止められはしなかったの」


 いやむしろドアを開けてくれたのは騎士だった。しかも慌てた様子で。

 だがライの様子はアリーナを歓迎している様子では、ない。

 アリーナはこの差にますます混乱する。


「あら、それはケーキ?」


 その女性は床に落としたアリーナの荷物の中身が見えたようで、床からアリーナに視線を向ける。


「…はい。」

「とても不格好になってしまったわね。持って帰って下さる? そんなものライ様に食べさせるわけにもいかないでしょう?」


 もともとこのケーキは不格好だったわけだが、落としたせいで更にひどいことになっていた。

 だけど、アリーナが頑張ってライのために作ったケーキだったのだ。

 なのに、どうしてかはわらかないが、実家で頑張って作ってきたケーキはこんな風に食べられそうにもない様子に変わり果てたし、ついさっきまで疑ってもいなかったアリーナへのライの愛情は、なかったことにされた。

 アリーナは床に腰を落とすと、ケーキを片付けようと手を伸ばす。

 その箱の上に、ポタリ、とアリーナの涙が落ちる。


 一体何が起こっているのか、アリーナには理解ができない。

 昨日まで…いや、ついさっきまで幸せな日々が続いていると思っていたのに、突然その幸せを崩されてしまった。

 唯一理解できるのは、この女性とライが結婚を考えているということだけだ。


「無理だ。」


 ぼそりと低くうめくようなライの声が、静かな部屋に響く。


「あら、ライ様。何が無理なの」


 女性の問いかけが聞こえた次の瞬間には、アリーナはライによって抱きかかえられていた。


「申し訳ないアリーナ。どうしてもアリーナを巻き込みたくなかったんです」


 耳元でライがアリーナに申し訳なさそうに囁く。どうやら先ほどの態度はすべてふりだったのだと言いたいらしい。


「ライ様! どういうこと!?」


 女性がライを責める声がする。だがその声はライに抱きかかえられているアリーナには少し遠く聞こえた。

 アリーナはまだ混乱から抜け出てはいないが、ライに抱きかかえられたことで心の底から安堵していた。このライの手がまだアリーナのものだと理解できたからだ。


「イザーク殿下、私の愛する妻です。本当ならあなたに会せるつもりなどなかったのですが」


 イザーク殿下?

 まだ混乱のさなかにいたアリーナは、更に混乱する。

 イザークは確か…。


「あら、なら話が早く済むじゃない。アリーナさんと話がしたいわ」

「話す必要などありません。私はアリーナと別れるつもりも、あなたと結婚するつもりも一切ない」

「嫌だライ様。恥ずかしがらなくていいわ」

「言葉が通じないのはいつもの通りですね、イザーク殿下。」

「…どうしてマルファー王国のイザーク皇太子が…。」


 混乱の中にいたアリーナは、ようやく頭の中で整理できたことを口に出した。そのドレス姿と王子の名前というアリーナにとっては相容れない情報がなかなか一致させてくれなかったのだ。だが、キスをしていた時も二人はどちらもそのまま立っていたわけで、それなりの身長があるはずのライとイザークとの身長差はなかった。その理由も今ならわかる。


「私とライ様は運命的な出会いだったの」


 アリーナがイザークを見ると、イザークがうっとりとした表情で語り始める。そのハスキーな声も、男性とわかればなるほどと思う声だ。だがその顔は女性と言われても疑う余地もないし、その細身の体がさらに女性らしさを醸し出す。…筋肉隆々のガイナーとは全く違う。


「何が運命ですか。私は単に仕事としてマルファー王国に向かっただけです。イザーク殿下もその話し合いの席に立ち会っていただけじゃないですか」

「それを運命の出会いと言って何がおかしいの」


 いやおかしいだろう。アリーナは残念な気持ちでイザークを見る。

 確かマルファー王国のイザーク皇太子は柔軟な考えを持った王子なのだと話を聞いたことがあったが…柔軟と言うにはいささか突飛すぎる内容のような気がする。

 別にそう言う方向性を否定するつもりはないが、どうやらライは拒否し続けているようだし、それに納得することなく自分の思うように押し付けようとしている感じからして、ライの言う通り言葉が通じない人間のたぐいなんだろう。とても厄介な人間にライは好かれているらしいとわかって、アリーナを遠ざけようとした気持ちは理解できた。


「皇太子は世継ぎを持つ必要があるんじゃありませんか。」


 皇太子に選ばれているのであれば、それは逃れられない運命だろうとアリーナは突きつける。

 だが、イザークはクスクスと笑う。とてもおかしそうに。


「いやね。常識に囚われている人間って。ライ様、こんなつまらない子とはさっさと別れなさいな。」

「何と言われようともアリーナと別れることはあり得ません」


 即座にライに否定された言葉にアリーナはホッとしつつ、確かに常識にとらわれてしまっている考え方かもしれないが、この皇太子には全く響かないらしいとわかってアリーナは視点を切り替えることにした。


「人の言葉を聞けない人間が国の頂点にいるなんて、マルファー王国も先が知れるわね。国民が本当に可愛そう。」


 はっきり言ってマルファー王国の次のトップがこの皇太子と言うことは、マルファー王国の国民にとっていいことだとは思えない。


「アリーナ。」


 声の調子と視線だけでライに注意されるが、そもそも言葉が通じない相手なのだから、とアリーナは気にも留めなかった。


「賢王ばかりがいるわけじゃないのは知っているわ。だけど、その周りの人間たちがいくら優れていてもその言葉を聞き入れる器がない王が居たら、その優秀な人間たちも生かされることはない。王がいいと言ったことだけがまかり通る国なんて、腐敗の温床でしかないでしょうね。王におもねることさえすれば許されるんでしょうから。マルファー王国の国民ではなくて本当に良かったわ」


 少しでも言葉の意味が伝わるといいと、アリーナは辛らつだと思ったが言い放った。


「ふーん。」


 だが、さっきまでのどこか甲高いようなハスキーな声が潜められて、イザークの地声と思われる声の高さで返された声に、アリーナはヒヤリとする。

 通じるはずがないと思ったが、十分に通じたらしく、しかも相手は隣国の王族だ。いくら貴族の出身とは言え、アリーナの今の身分は平民の妻だ。その身分差は明らかで、不敬罪には十分だろう。

 ライがアリーナの不安を感じたようで、アリーナを抱えなおすと、そのまま膝をつく。


「イザーク殿下。どうか妻の無礼をお許しください」

「…そうだな。」


 低い声のまま返された返事に、アリーナはホッとする。どうやらおとがめはないらしい。


「二人で我が国に来るといい。」


 は? とアリーナの頭に疑問符が沸き上がる。


「イザーク殿下、大変申し訳ないのですが、仕事が立て込んでおりますので…。」


 ライが当たり障りのない理由で遠慮すると、イザークは、ふ、と笑う。その顔は先ほどの女性的な感じは薄れ、どちらかと言えば男性的な雰囲気だ。


「大丈夫だ。二人は私の国に移住することになる。引継ぎが終わり次第、な。」


 アリーナとライは顔を見合わせる。意味が分からない。


「二人を私の伴侶とする。」


 やはりイザークの頭は残念な作りらしいとアリーナは思う。アリーナが言ったことの意味は理解して怒ったのかもしれないが、その結論がこれとか残念過ぎる。


「…イザーク殿下は女性には興味はないのでは?」


 ライを連れて行くためにアリーナも一緒に連れて行こうと思い立ったらしい。確かにライを連れて行くならそれは有効かもしれないが、はっきり言ってアリーナは添え物でしかない。


「世継ぎがいると言ったのはそなただろう? 私はどちらもいける。それにそなたならば国母として面白かろう。」


 まさかのまさかで、アリーナはイザークに興味を持たれたらしい。アリーナは驚きのあまり目を見開く。


「ライの妻がパレ侯爵家の末っ子と聞いていたからどんな人間かとは思っていたんだが、なるほど面白い。侯爵家の娘であれば隣国の王家に嫁いでもそれほど遜色はなかろう。」


 どうやらイザークにアリーナのことはしっかりと調査されていたようだ。そもそもパレ家の兄たちが第一第二王子の側近として働いているので、それも関係しているのかもしれないが。

 アリーナが厄介なことに巻き込まれたと自覚したと同時に、ライがアリーナが関わらないようにしようと必死で無関係なふりをしようとしていた理由を理解した。確かに目をつけられると厄介だ。

 アリーナを抱きしめるライの力が強まる。

 と同時に、恐ろしい冷気がライから立ち上った気がした。


「イザーク殿下は、我が国との断交をお望みですか」


 空恐ろしい言葉がライから出てきた気がする。

 ぎょっとしてアリーナがライを見ると、ライはさっきまでの臣下然とした様子をすっかり捨て去って、明らかにイザークを敵認定してにっこりと笑っていた。その目が笑っていない。


「ラ…ライ…。」


 ちょいちょいとアリーナがライの服をつまむも、ライはアリーナをなだめるように頷くだけで、イザークを見つめている。


「私にちょっかいをかけてくるのは構いませんよ。私は別にイザーク殿下にいいようにされるとも思っていませんし。ですが、アリーナを求めると言うのであれば、それ相応の対応をしなければならないでしょうね」

「一人で、とは言っていない。二人で、と言ったじゃないか。お前たちが交わるのも許そう。勿論、世継ぎが生まれた後になるがな。」


 イザーク殿下には伝わってない! とアリーナは頭を抱えたい気分になった。


「…ええ、イザーク殿下が我が国と断交したいと思っているのは理解しました」

「なら二人は我が国に来るんだな。」


 ああ、この二人の会話は一生交わることがないんだろうな、とアリーナはがっくりとする。


「申し訳ないライ殿。どうかこの件は穏便に収めてもらえないだろうか。」


 突然出現した人間に、アリーナはびっくりする。一体どこから出現したのかわからなかったが、どうやらこの部屋に存在していたらしい。


「ならば最初からイザーク殿下を抑えておいてくれませんか。副宰相殿。」


 アリーナの見覚えのない人間は、どうやらマルファー王国の副宰相らしい。


「ライ殿もイザーク殿下が恋愛方向に向けてだけ残念なのはご存じでしょう。少々の戯れと思って笑って流してくれればいいものの」


 アリーナはその副宰相の言い分に苦笑する。本当に恋愛方向に向けてだけ残念なのか、いささか疑問だと思いながら。


「…副宰相殿も、断交をお望みなんですね」


 だが、その言い分はライの気持ちを収めるには不十分だったらしい。


「いえいえいえ。そう言ったことは全く考えておりません。イザーク殿下はちょっとした言葉遊びをしただけですから。ね、イザーク殿下。」

「ああ。」


 軽くそう返事をしたイザーク殿下は、目があったアリーナにぱちりとウインクしてくる。

 果たして本当にそうなのか、アリーナは全く分からない。


「それでは、お邪魔しました。ほら、イザーク殿下帰りますよ」


 副宰相がイザーク殿下を追い立ててライの執務室から出ていこうとする。ふと立ち止まった副宰相が振り向く。


「このケーキの代わりになるものを後程ご自宅までお届けしますので。」

「いえ、そんなものはいりませんから、二度とイザーク殿下を私の目の前に出さないようにしてください」

「…それは無理な相談ですね。あ、そうそう扉の前の騎士にライ殿の奥方が来たら部屋に入れるように言っておいたのは私ですから、騎士をとがめないであげてくださいね」

「副宰相殿はよほど命が惜しくないと見える。」


 苦笑した副宰相はイザーク殿下と共に執務室から出て行った。あの副宰相が一体何をしたかったのかアリーナにはさっぱりわからなかった。

 パタンと閉まった部屋にアリーナとライが残された。

 ライはアリーナをそっと下ろすと、アリーナの手から落ちてしまったケーキに向かう。

 箱から飛び出しているわけではなかったが、少し開いた箱から見えるケーキは、見事に分解していた。


「折角アリーナが作ってくれたケーキなのに。でも食べられないわけではなくてホッとしました」


 ケーキを箱ごと持ち上げたライが嬉しそうにアリーナを見る。


「…それは、いいです。それよりも、イザーク殿下にキスされてましたよね」


 アリーナを見上げたライが、肩をすくめる。


「頬に許しただけです。あの方はああ見えて動きがすばやくて、咄嗟のことで完全には避けられませんでした。他国の王族を突き飛ばすわけにもいきませんので。決して喜んで頬を差し出したわけではありませんから」


 一応隣国の王族に敬意を表してはいたらしいが、最後は脅していたのを思い出してアリーナはひくりと笑う。


「国交断絶とか言ってよかったの」

「良いでしょう。アリーナを私から奪おうとする人間はそれ相応の報いを受けるべきです」


 それにしてはスケールが壮大すぎると思ったが、相手方も上手く流してくれたしアリーナも大丈夫だろうと思う…いや思いたい。


「あの…イザーク殿下にいつもああやって迫られてるの」

「ええ。とても嫌なんですが。会話が成立しなくて諦めさせることができずにいます」


 なるほど、確かにあのイザークの様子ならば無理そうな気がする。


「…よく今まで無事だったわね」


 一国の皇太子ならば、隣国の平民などどうにでもできそうな気さえする。


「私はその気はありませんから」

「でも…ライに執着しているように見えたわ」

「イザーク殿下はもう20人も伴侶がいる人間ですからね。単に簡単に自分に靡かない人間が面白いんでしょ」


 ん? とアリーナは聞き間違いかと思う。


「伴侶が…?」

「20人ですよ。全くあの殿下の伴侶になるなんて悪趣味だ。あの副宰相もその一人ですけどね」


 …20人。確かにマルファー王国は一夫一婦制ではないと知っているが、それでも20人は多すぎるだろう。アリーナにはイザーク殿下の気持ちはさっぱり理解できないし、あの副宰相もライとアリーナが伴侶に追加される話については全く拒否的な様子でもなかったのも全く理解できない。


「…それだけいれば、もう世継ぎはいるのよね? 何で否定しなかったのかしら。」


 アリーナの言葉に、ライは首を横に振る。


「女性がいないんです」


 つまり、アリーナが初めて伴侶として認められた女性となるとライは言いたいらしい。


「まさか。」


 アリーナはそんなはずはないと首を振るが、ライがそれを同じように首を振って否定する。


「…あれ、冗談だったのよね」


 アリーナの問いかけに、ライがニッコリと笑う。


「ええ、間違いなく冗談にしてもらいましょう」


 笑っているライの目が全く笑っていないのに気が付いたアリーナは、あれが冗談であったことを願うばかりだ。


「あと、折角の誕生日ケーキをボロボロにされた報復はきちんとしますからね」


 ああ、こっちがあった、とアリーナは頭を抱える。ケーキ1つで外交問題とかありえない。


「それを落としてしまったのは私だから」

「ですが、イザーク殿下がふざけたことをせずに、かつあの副宰相殿がアリーナを部屋に入れるように口添えしていなければこのケーキは無事だった、違いますか?」

「でも、私が部屋に入ってなかったら、ライ様は延々とイザーク殿下の相手をしないといけなかったんじゃないかしら。きっとあの副宰相さんはそれを見越して私を入れてくれるように言ったんだと思うけど」


 きっとそうに違いないとアリーナは力説する。


「…では、そう言うことにしておきましょう。副宰相殿もアリーナのおかげで命拾いしましたね。さて、帰りますか。」


 ようやくいつものライに戻ったと、アリーナはホッとして頷く。

 今日はライの誕生日で、残念ながら料理はアリーナの手では揃えられなかったが、ケーキはアリーナの手作りだ。パレ侯爵家の料理番からかろうじて合格が言い渡された。…かろうじて。

 アリーナの料理の腕はほんのわずかに改善傾向にあるようだ、と言いたいところだが、アリーナがこのケーキで1人でやったことはケーキの飾りつけのみ。それも周りの人間が言う通りに手を動かすことしか許されなかった。

 ちなみに、パレ侯爵家には、アリーナが作った全く膨らまなかったスポンジだろう物体の慣れ果てが残されている。


 


****


「ライ様は私からの誕生日プレゼント喜んでくれたかしら。」


 イザークのハスキーな声に、副宰相であるリハルトはため息を漏らす。


「何が誕生日プレゼントですか」

「あら、嫉妬は恋のスパイスよ。これであの2人は今日は盛り上がるわね」

「そんな回りくどい誕生日プレゼントなど辞めればいいのに。外交問題に発展しそうになったじゃないですか。何が恋のスパイスですか。本気でライ殿を欲しがってたくせに。来る前は2人を拗らせる気満々でしたよね」

「もういいわ」


 あっさりとしたイザークの言葉に、リハルトは目を見張る。


「もういいって、ライ殿を諦めたんですか」

「そうよ」

「…どうして。さっきまでも物分かりの悪い態度を取ってたじゃないですか」

「だって、ライ様が…本気だったんだもの。相手もいなかった今までだったら、まだ可能性があるかもって思えたけど、流石にあれを見たら無理だってわかるわ。リハルトもそのつもりで彼女をあの部屋に入るようにしておいたんでしょ」


 イザークの指摘にリハルトは頷く。


「…まあ、それは違いませんが。とりあえず二人を拗らせたら外交問題に発展しそうだと思ったので手は打たせてもらいました」

「やっぱりね。いやね、私の恋路を邪魔するなんて」

「そろそろ伴侶を増やすの辞めたらどうですか」

「いやよ」

「でしょうね」


 はぁ、とため息をつくものの、リハルトはどこか受け入れている様子だ。


「止めはしませんが、外交問題を引き起こさないようにしてくださいね」


 リハルトの忠告は、これが精いっぱいだ。

 実は冷静なリハルトに嫉妬をさせようとイザークの伴侶の人数が増えて行っていることを恋愛ごとに鈍感なリハルトが気づくことは…たぶんない。

 ライがイザークに無理やりどうかされることはないと思えていたのも、実はイザークの気持ちがリハルトを嫉妬させるものだと気付いていたためだ。

 だが、イザークの嫌がらせのような求婚に怒っていたライが親切にリハルトに教えることは勿論ない。アリーナを巻き込まなければもしかしたら教える可能性もあったかもしれないが、今回のことでその可能性は完全に消えた。

 イザークの伴侶探しはまだまだ続く。そしてリハルトの苦労もまだまだ続く。


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