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番外編2

「ね、ニコルってどんな子?」


 食後のお茶を飲みながら、アリーナがライを見る。

 ライは怪訝な表情で、ニコル? と首をかしげる。


「いるでしょ、騎士団に。えーっと、ニコル・パターソン、だったかな? まだ二十歳くらいの…。」


 アリーナは昼間、リリアーヌから招待を受けた二人だけのお茶会で、ニコルのことを相談された。リリアーヌとの口約束のお茶会がようやく実現したのは今日だった。

 どうやらリリアーヌは、あの4か月前のアルス王子の誕生日パーティーの日に会場まで送っていってくれたニコルという騎士団員からアプローチを受けているらしく、それをどうやって回避すればいいのか、と相談を受けたのだ。

 話を聞いていると、ニコルはライほどではないものの頭が切れるらしく、ゆっくりとしたスピードながら、確実にリリアーヌの周囲を固めて行っているようで、リリアーヌはどうやってその包囲網から逃げ出すかを算段しているようだった。

 ただ、話を聞いている限りでは、リリアーヌも拒絶、という感情まではないように思えたし、むしろニコルに対する好意も見え隠れしていたため、リリアーヌは慣れない状況に戸惑っている、という方が正しいのかもしれないとアリーナは思っている。

 だからアリーナは純粋に、リリアーヌが言い寄られている状況を打破する手伝いがしたいというよりは、リリアーヌに言い寄っているニコルがライの目からどう見えているのかを知って、騎士団副団長から見たニコルの姿をリリアーヌに教えてあげようと思ってライに尋ねた。

 が、なぜかアリーナの手にあったカップがライの手によって下ろされた。


「え? 何?」


 アリーナは当然目をしばたかせる。


「二人きりでいるときに、私以外の男の名前を言うなんて、アリーナは罪深い。」


 瞳の奥に熱を持ったライの顔が近づき、そして…おしりが椅子から浮いた。


「え!? ちょっと! 何?!」


 脇を抱え上げるように立たせられたアリーナは、キスされるかもと思ったのと全く違ったライの行動についていけない。ついていけないまま、アリーナはライに担ぎ上げられた。


「そんなアリーナには、罰を与えないといけませんね」


 ライが階段に向かって歩き出す。


「え…だってガイナー室長のことだって話題に出たりするでしょ?! あれは男性認定されてないの」


 家では当然、職場での話をすることもある。その時にはガイナーの名前だって当然上がる。


「既婚者は含みません」


 あ、そっちか、とアリーナは思う。オネエ認定が影響しているのかと思ったのだ。


「いや、でも今聞いたのは、リリアーヌさんがニコルに言い寄られてるって話で…。」

「…リリアーヌ…嬢…ですか? なぜリリアーヌ嬢とあなたが?」

「ほら、今日お友達とお茶をするって言ったでしょう? あれ、リリアーヌさんだったの。…リリアーヌさんとお茶するって聞いたら、ライ様があんまり嬉しくないかな、と思って」

「…私が?」


  担がれたままのアリーナからはライの表情は見えないが、ライは訝し気な表情になる。


「ええ。だって元カノと妻が会うって…複雑じゃない」

「どうしてでしょう?」

「え? …どうしてって言われると…複雑かなぁ、と思っただけなんだけど」

「寧ろ、アリーナは複雑ではなかったんですか」


 問いかけられた内容に、アリーナは首をひねる。


「どうして?」


 即答したアリーナの言葉に、ライが階段の途中で一瞬止まる。


「どうして?」


 そう言ってまたライが動き出すと、階段を上がり終わって寝室に一直線だ。もともとライの部屋だったところが今は夫婦の寝室となり、前よりも大きなベッドが部屋を埋めている。


「私、変なこと言った?」


 アリーナには、ライの反応の意味が分からない。


「…アリーナは、嫉妬してはくれないんですか」

「嫉妬?」


 ゆっくりとアリーナがベッドに降ろされる。

 疑問いっぱいの表情のアリーナに対して、その表情を見たライの眉が少し下がる。


「少しは嫉妬してほしいものですね」


 ライの言いたいことがようやく理解できたアリーナは、つい顔を綻ばせる。


「私はアリーナの口から男の名前を聞くだけで嫉妬するって言うのに、アリーナはどうしてそんなに余裕の表情なんでしょうね。…私をのめりこませるだけのめりこませといて、本当に罪深い。」


 熱をたたえた瞳のまま、ライがアリーナをじらすように頬から唇を撫でる。


「そうやって私を好きだって伝えてくれるから、嫉妬する必要を感じないんだけど」


 唇に置かれたままのライの指先を、アリーナがパクリと含む。


「私に嫉妬をさせた上に煽るなんて、アリーナは私を骨抜きにするつもりなんですね」


 熱量が増えたライの瞳に、アリーナはヒッとなる。ちょっとしたからかいを込めたいたずらのつもりでライの指を咥えたのに藪蛇だった。アリーナにとってはちょっとしたいたずらが、ライにとっては違う意味を持つことが多々あって、そのたびにアリーナは失敗したと思うが、どこがライのスイッチになっているのかがわからなくて、4か月たっても修正ができない。ちょっとしたいたずらがほほえましいまま終わることだって…まれにあるのだ。


「明日は仕事があるから。ね、ライ様?」

「ええ、明日は仕事ですから。勿論わかってますよ」


 アリーナは一応ほっとする。


「できたら、ライ様の手を煩わせることなく仕事に行きたいわ」


 アリーナの願いは、ライによって職場に送られる必要のない状態で明日を迎えたい、ただそれだけである。


「アリーナの世話をするのも、私の喜びなんですよ? その喜びを奪うなんてしませんよね」


 妖艶にほほ笑むライに、アリーナは明日の運命を悟った。

 が、アリーナも諦めたくはない。


「穏やかな交わりの方が…子供ができやすいって聞いたわ」

「そうなんですね」


 ライの瞳の熱量が少し下がって幾分穏やかになったのが分かって、アリーナは心の中でほっとする。


「アリーナが私との子供を望んでくれているのは嬉しいものですね」


 ああ、明日は大丈夫そうだ、とアリーナは心の中でガッツポーズをした。ライが手加減してくれていくら頭の中はクリアで仕事に支障がない状態だとしても、ライに職場まで送られるのは本当に恥ずかしいのだ。


「でも、まだ二人きりを楽しみたいですし…それに、激しくても子供はできるようですよ」


 アリーナの心の中のガッツポーズが、ガラガラと崩れていく。ライの瞳にまた熱量が増した。これは、ダメなやつだとアリーナも理解した。


「ライ様。優しくしてくださる?」


 これが精いっぱいのアリーナの抵抗である。

 だがしかし。

 突然始まった口づけが、いつも以上にねっとりと時間をかけた執拗なものになったのは、ライなりの“優しさ”基準で、アリーナの求める“優しさ”基準ではなかったことは、間違いがない。



楽しんでいただければ幸いです。

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