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「アリーナさん! 終わりですよ」


 マリアに声をかけられて、集中が途切れる。

 時計を見れば9時で、もう仕事終わりだ。

 今日は、久しぶりに何事もない一日だった。今日はお弁当はなく、またライは忙しかったらしく昼も夜も食堂では会うことはなかった。何だか拍子抜けしたような、物足りないような気がしたが、まあ、気のせいだろうと思うことにした。

 さて帰ろうと机の上を片付けていると、マリアにツンツン、とつつかれた。


「何?」


 顔を上げると、マリアがこわごわと入り口を指さしている。

 アリーナが入り口を見れば、見たことのない様子のエリックがそこに立っていた。

 間違いなく、怒りのオーラが漂っている。

 文句を言うなら、ライとダニエルと第二王子にしてもらいたいと思ったが、アリーナも無関係とは言えないため、エリックの怒りを受けないといけないんだろうな、と思う。

 まあ、あの場でエリックのために何かできたかと言われれば、きっとアリーナには何もできなかったと思えるわけだが。

 アリーナは荷物をまとめると、エリックの元に行く。エリックは何も言わずに廊下に出て、人目につかなさそうなところで立ち止まる。


「エリック兄様、どうされたんですか」


 用件はわかっていたが、とりあえず聞いてみた。


「どういうことだ。」


 エリックの目が座っている。


「どういうことです?」


 アリーナは首をかしげてみたが、それだけでエリックに許されそうな雰囲気はなかった。


「何で止めなかった」

「ダニエル兄様は一生懸命止めてましたよ」

「アリーナは?」

「兄様。私はエリック兄様が“稀代の天才”だとか思ったこともなかったですし、あんな物騒なことを言ったことも知りませんでしたから、フォローのしようもありません。そもそも第二王子に目をつけられたのは、兄様がミスったせいですよね? 今回たまたま名前が出ただけで、いずれ第二王子に呼ばれてたんじゃないでしょうか。」


 自分のミス、と指摘されたことに、エリックはきまり悪そうな表情になる。


「…何でアリーナの結婚の話から、こんなことになったんだ。」


 他に文句を言うところが見つからなかったのか、エリックは不満そうにつぶやく。


「…私が知りたいくらいです」

「そもそも何でライ殿に目をつけられることに?」


 エリックは既に家を出ているため、この数日の間にあったことは耳にはしていても詳細は知らないらしい。


「私が知りたいぐらいです」

「もう同居しているんだろう?」

「…しいて言えば、エリック兄様が今回身を亡ぼすことになったのは、父様が私とライ様の同居を認めたせいだと思いますよ」

「…よくわからんが、アリーナはこの結婚白紙にしたいのか?」

「そうだと言えば、手伝ってもらえるの」

「ああいいぞ。」


 思いもかけず、OKの返事をもらって、アリーナは浮き立つ。何しろあのダニエルが実は恐れていたエリックがアリーナ側についてくれるというのだ。


「腹いせにそんな協力はいりませんよ。それとクレームは、私に直接ください」


 突然アリーナの肩を抱き寄せたライに、アリーナはまたかと思っただけだったが、エリックは明らかに驚いた顔をした。


「マジかよ…。」

「何でしょうか。将来の義兄上。」

「おまえに義理でも兄とか呼ばれたくないし。アリーナ、いいのか?」

「いや、良くないからさっき頼んだんでしょ」

「いや、それじゃなくて…マジかよ」


 エリックがまじまじとアリーナとライをみる。


「ええ。最初から大丈夫でしたよ」

「何でだよ…。」

「なんででしょうね」


 アリーナには二人の会話の意味がわからずに会話には入れない。


「なんの話?」

「…アリーナは知らなくていい話だよ」

「…エリック兄様何しに来たの」


 確かアリーナに文句を言いに来たはずだったんだけど、とアリーナは怒りが落ち着いたエリックを見て思う。


「アリーナ、お前からも言ってくれよ。俺は役に立ちそうにないって。辞めたほうがいいって」

「…側近に欲しいって言ってる人間が兄様でいいって言ってるんだから、別に役に立たなくてもいいんじゃないの」


 アリーナはまだエリックが有能だとは信じていない。


「俺はそう言ったんだよ」


 エリックがギロリと ライを見るが、対照的にライはにっこりと笑う。


「手を抜けばロビン殿下にはすぐにばれますよ。ああでも、ここで会えたのは丁度良かった。ご自宅へ伺おうかと思っていたんです」


 ライが何やらたくさんの書類が入った袋をエリックに差し出した。

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