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今ライが何と言ったのか、理解できない。
いやしたくない。
そんなはずはないのに、と目を見開くアリーナとは対照的に、嬉しそう…ではなく…面白そうな表情でアリーナを見ているライが手を引いて壇上に上がる。
ようやく揃った3組目に、パラパラとおざなりな拍手が届く。令嬢たちの視線がアリーナを突き刺す。アリーナとて、こんなことになるはずもなかったのだから、睨まれたって困るだけだ。
「3組の皆様おめでとうございます!そ…それではこれで今日のパーティーはお開きとなります。皆様お疲れさまでした」
ようやく終了の挨拶に持ち込めた主催者は、ほっと息をついていた。
アリーナは、と言えば、未だに呆然としていた。あり得ないのに、と。
だが。
「連絡先を交換しますか?」
当たり前のように声をかけてきたライに、アリーナはつかみかかる。令嬢的なマナーなどこの際どうでもいい。今こうなってしまったからくりが知りたい。
「あり得ないんですけど」
ただ、声は控えめだ。いかさまがこのパーティーで行われたと知れると、主催者が困るだろうと流石のアリーナも気を使った。だが、すぐに思い直す。いかさまの片棒を担がされたのに気を使う必要なんてないことを。
だが、ライの答えもまた予想外だった。
「私だってあり得ないと思っていますよ」
どうやら二人して主催者にいかさまの片棒を担がされたらしい。
アリーナは主催者の居場所を特定すると、急ぎ足で主催者のもとに向かう。無論、ライも道連れだ。ライは首もとを引っ張られるつもりはないらしく、アリーナの手は既にライの手のなかだがアリーナは特に気にもせず主催者へと向かう。
「どうかしましたか」
「どうしたもこうしたもありません!」
どうやらすぐに訴えの中身を理解した主催者であるアンカー伯爵は、二人を別室へ誘った。
「どうぞそちらへ」
ソファに掛けるように促され、アリーナとライは腰を落ち着かせる。
「えーっと、これとこれですね」
二人の前に、二つ折りにした二色の紙が並べられる。
ピンクがアリーナの書いた紙でブルーがライが書いた紙なのかもしれない。…もしくは、このしかけが書いてあるのかもしれないな、と、アリーナは二つの紙を見つめる。
「こちらがアリーナ嬢の書いたもの」
畳まれた紙が開かれると、そこには間違いなくアリーナの筆跡で21と書いてある。
これには細工はないらしい。
アリーナが小さく息をつくのと同時に、隣で小さな声が上がる。
「なるほど」
ライはどうやらからくりが読めたらしいと尊敬の眼差しでライを見れば、アリーナの視線に気づいたライがニヤリと笑った。
なぜライがニヤリと笑ったのかさっぱり分からないアリーナは、 この次の答え合わせを待つことにする。
お腹のなかではライにバカにされたような気がして、非常に気分が悪かったが。
「そしてこれが、ライ殿の書いたもの」
かさりと開かれた番号がかかれているはずのそこには、アリーナ・パレと書かれている。
「なんなのこれ?!」
名前を書くなんてあり得ないと憤慨するアリーナに、ライが肩をすくめる。
「アリーナ嬢も番号を書いていたようだけど」
それを言われてしまえば身も蓋もないのだが、アリーナは棚上げしてライを睨み付ける。
「男性は番号を書く決まりなんでしょ!あなたが個人名なんて書くからこんなことになってるんでしょ」
これはライに一方的に指名されたからじゃないかと、アリーナは非難の目をライと主催者に向ける。
「アリーナ嬢も21番と書いたからでしょ」
そう非難されても、アリーナにはライの言い分が納得できない。
「私は同性に票を入れただけでしょ!どうやったってカップリングは無理でしょ」
だが、アリーナの主張に主催者もライも頷くことはない。
「実は、21番はライ殿の料理でしてね」
「は?」
担ぐにしても内容は吟味してもらいたい。そう思いながらアリーナがライを見れば、ライがニヤリと笑う。
「冗談もいい加減にしてください」
更に非難めいた視線を主催者に向ければ、主催者が哀しそうに首を振る。
「我々だって今回の被害者です。我々はライ殿に脅されて、料理を置かせてほしいと言われただけで、まさか21番に人気が集まるなどと思いもよりませんでしたし、よもや女性が番号を書くとも、よもや男性が名前を書くとも思いもしませんでしたから」
どうやら主催者はこの出来事の主犯はライであり、アリーナはその共犯者になったにすぎない、と言いたいと見える。アリーナは仕事以外には動かすつもりのない頭を動かしてみる。が、やはり意味が分からない。
「21番を作ったのは、本当は誰なんですか」
問いかける言葉をこれ以上思い付かなかった。