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「ところでアリーナ、先ほど前に座っていた3人は誰ですか」

「同僚です」


 ライはにこやかに笑っているはずなのに、右側に座るダナは苦笑しているし、左側に座るカイルは顔がひきつっている。


「副団長、ひそかに殺気出すの辞めて下さい。カイルが困ってます」


 ダナの言葉に、ライが肩をすくめる。


「そうかな? それで、どうしてあのメンバーでここに来ることになったのかな?」

「…同僚とご飯を食べるのはおかしいことでしょうか?」


 特に誰かをかばいたいとかそういう意図は全くなく、何だかライの言い分が納得できる気がしなかった。つまりライは、アリーナがたとえ誰であろうと男性を交えて食事をするのが気に入らないと言っていて、他の人間(たぶん男性)を見てほしくないと言っているわけだ。

 そんなの普通に城で仕事をしていて無理な話だ。どう考えても男性の割合が多い城勤めで男性と関わるなという方が無理がある。


「…アリーナ。私だってアリーナに出会う前は、自分がこんなことを思うなんて思ったこともなかったんです。アリーナだからなんですよ」

「じゃあ、ライ様。今すぐ女性と話をしないで下さいと私が頼んだら、できますか?」


 無理だと踏んで、アリーナは言ってみる。少ないとはいえ、城勤めをしている女性はいるわけだし、そもそも隣に座っているダナは騎士団所属だ。どう考えても無理だろう。


「いいですよ」


 は? とライ以外のメンバーから声が漏れる。どの顔も、無理だろうと思っていたのに予想外の返事にあっけにとられている。


「…部下にも女性がいますよね? 命令をどうするつもりですか」


 我に返ったアリーナは、次の攻撃を繰り出す。さすがにこれは無理だろう、と思って。


「カイル。」


 急に話しかけられたカイルが、ぎょっとするまもなく、ライがカイルに耳打ちする。耳打ちが終わっても、カイルは何だか固まっている。


「カイル?」


 ライが諭すような口調でカイルを促す。


「…えーっと、ダナさん、元の席にお帰り願えますか?」


 どう考えてもライ>ダナ>カイルの序列だからだろう、カイルは言葉遣いに気をつけながらダナにライからの伝言を伝える。


「…ダナさん、ごめんなさい。戻らなくていいですよ」


 伝言に忠実に立ち上がったダナに、アリーナは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「そんな命令の仕方されたら、誰だって困るでしょ」


 ライが肩をすくめる。


「ですが、アリーナの願いですから、聞き届けたいじゃないですか」


 …ダメだ、これ。アリーナは脱力した。


「あの、ダナさん? ライ様は、昔からこう、女性に振り回される方でしたか」

「いいえ。このような副団長は初めて拝見しました」


 ダナの言い方だと、どうやらアリーナだけと言うのは本当かもしれない。本当かもしれないが、迷惑だ。


「あの、ライ様。私がさっき言ったことは忘れてください。女性と普通に話して下さって結構です」

「…アリーナは、私がどんな女性と話をしていても、気にならないんですか」


 …いいと言ったとたんにこれか、とアリーナはため息しか出ない。


「気になりません」


 スパッと言い切るアリーナに、ライが目を見開く。


「…私は気になります」


 だろうなぁ、としかアリーナは思わない。そう思ったところで、他の可能性が頭をよぎる。


「…もしかして、ライ様は、私に仕事を辞めて欲しいと思っていますか?」


 仕事上仕方がないことなのに、話をするなと言われれば、仕事を辞めるほかに選択肢がない。


「仕事…ですか」


 ライは即答せずに、アリーナをじっと見る。


「アリーナは、あれほどの集中力を発揮するぐらいですから、仕事が好きなんでしょうね」

「ええ。今の仕事は天職だと思ってます」

「そうよ。アリーナは優秀な人間よ。辞められたら困るわ」


 ようやく口を出すところに思い至ったらしく、息をひそめていたガイナーが口をはさんでくる。

 え、でも、とアリーナの隣で呟いたマリアには、ガイナーはアリーナ越しに、し!と口をつぐませた。


「そうですよね。アリーナは結婚しても仕事を続けたいと思っていますか?」

「…ええ。」


 そこまでの会話になってようやく、アリーナはある事実を度忘れしていたことを思い出した。だからマリアが何かを言いかけて、それをガイナーが制したわけだと納得する。でも、それとは別にライの意見を聞きたかったのもあって、そのまま余計なことは言わずにおいた。


「では、辞めないでいていいと思いますよ」

「それ、男として二言はないわね? このメンバー以外にも周りの人も聞いているから、訂正は効かないわよ」


 ガイナーが昨日のやり取りを彷彿とさせる言葉を使った。


「ええ。二言はありません」 

「やったわ」


 言い切ったライの言葉を待って、ガイナーがガッツポーズを取る。


「どういうことですか」


 ライが訝しそうにガイナーを見る。


「うちのトップは女性の結婚後の仕事の継続を認めていないの。だから、アリーナが仕事を続けるためには結婚しないって選択肢しかないわけ。」


 ふふん、と言い切るガイナーは、アリーナもつい先ほど思い出した事実をライに伝えてくれた。

 これを言えば結婚お断りができていたかもしれないのに、とアリーナも今更気付いた事実だ。なぜ昨日これを思い出さなかったのか、アリーナ自身も不思議でしかない。

 マリアは1年後仕事を辞めることになっている。それは、これが理由だ。


「何ですか、それ。今ごろまだそんなことを言ってる部署があったんですか」


 ライは明らかに静かに怒っている。


「でもライ様、うちはきっと変わりません。ガイナー室長はそれはそれは一生懸命変えようと頑張ってくれていました。でも、うちは何年たっても変わりません。ガイナー室長がトップになる以外はこの決まりが変わるとは思えません。だから、この結婚の話はなかったことにするか、私が退官するまで結婚は待っていただけますか?」


 それは実質的な結婚のお断りの文句だ。

 金庫番の部署のトップは頭が固い。実質的なトップであるガイナーも、自分の妻であるダナが働く権利を獲得した時、うちの部署も、とトップに嫌と言うほど何度も何度も働きかけた。だが、その答えはNoでしかなかった。だから泣く泣く優秀な女性の事務官を結婚と言う理由で手放してきた。

 ガイナーは別にアリーナの結婚を喜ばないわけではない。ただ、ライとの結婚の話をなかったことにしたいだけだ。アリーナもそれがわかっていて、その話に乗っただけだ。


 アリーナは仕事を辞めるつもりは、1ミリもなかったから。

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