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「…嫉妬?」


 だが、嫌味を言われたはずのガイナーはきょとんとした表情でアリーナを見た。


「ええ」


 なぜガイナーがきょとんとするのか、アリーナにはわからない。


「誰が、誰に嫉妬?」


 こてんと首をかしげるガイナーは、見た目さえ細ければその動作はかわいらしくも見えただろうが、何しろ筋肉隆々である。かわいさはない。


「…ガイナー室長が…私に…」


 ものすごく嫌味なことを言っているのは自覚しているので、アリーナも言いながら何だかいたたまれなくなり言葉尻が小さくなる。

 だが、それを聞いたガイナーは、更にきょとんとした。


「私が、アリーナに?」


 …なぜきょとんとされるのか。先ほどの発言でいたたまれない気持ちになっていたアリーナは、ますますいたたまれない気持ちになる。


「…どうして」


 聞き返された言葉に、アリーナは驚く。


「だって、ガイナー室長はライ様のことをお好きですよね」


 誰もガイナーに対して確認したことはなかったが、このことはこの部署じゃ公然の秘密のはずだ。


「ええー?!」


 驚いた様子で叫ぶガイナーに、それまでもそれなりに集まっていた人々の視線もアリーナとガイナーに完全に集まる。

 アリーナは、想像してないガイナーの反応に、意味が分からない。


「どうしてそう言うことになってるの」


 ガイナーの言葉に、アリーナはもとより集まっていた視線の主たちも、え? と疑問符が頭に沸き上がる。


「…ガイナー室長が、毎日毎日飽きもせず、ライ様の情報を垂れ流してるからですけど」


 何とか我に返ったアリーナが、その事実を突きつける。集まっていた視線の主たちも、それぞれに頷いている。


「あ、そうなの? やだ、皆勘違いしてたの? 嫌だ―」


 勘違い、と言う言葉に、アリーナの頭が更に混乱する。


「えーっと、ガイナー室長は、ライ様のことは…?」

「いやだ、憧れの対象ではあるけど、恋愛対象じゃないわよ! いやだ、皆勘違いなんかして」


 バシッと肩を叩かれたアリーナは、その衝撃に身悶える。本気で痛い。


「…憧れって…」


 痛みで涙目になりつつ、アリーナはガイナーを追求する。何せ意味が分からない。


「何て言うの? あの筋肉のつき方だとか、頭の回転だとか、ほら、かっこいいじゃない」


 …それって、あこがれてるってくくりでいいの? とアリーナは思う。


「あの…それが恋愛感情ってやつじゃないでしょうか?」

「いやだ。私の恋愛対象は女よ」


 衝撃が部屋に広がる。


「…あの…本当ですか」

「あら、嫌だ私言ったことなかったかしら。結婚してるわよ」


 結婚!

 今日一番の衝撃が、部屋の中に広がる。


「…たぶん、誰も知らないと思います」


 アリーナが代表した言葉に、視線の主たちがコクコクと同意する。


「あら…言ったことなかったかしら」

「それを知ってたら、こんな勘違いしてないと思います」


 この部署のみならず、ガイナーが結婚しているのを知っている人以外は、きっとガイナーの恋愛対象は男だと思っていただろう。


「そんな勘違いするようなこと言ったかしら」


 それ、それだよ! とアリーナは思う。


「その言葉遣いは…紛らわしいかと」

「あら、そんな偏見、いけないわよ」


 それが偏見だと、アリーナにも今わかった。でも、紛らわしいと思わずにいられない。


「あと…毎日毎日飽きもせずにライ様の情報を話しているのを聞いていたら、そうなんだろうな…と思うと思います」

「ヤダ、ライ様がこのこと知ったらきっと嫌がるでしょうね」


 楽しそうにそう言うガイナーは、ライがこんな時にどんな反応をするのか知っているような口ぶりだ。


「…あの、ライ様とお知り合いですか」

「知り合いって言うか、私の奥様の上司ですから」


 ええー、と叫び声を出したのは、アリーナではない。主に男性陣だ。


「えっと…奥様は騎士団に?」


 騎士団に女性はいるにはいるが、その数は少ない。主に王室女性の側付きの仕事が多いと聞いているが、アリーナも知り合いはいないので、その実については知らない。


「そうよ。ダナって知らない」


 おおー、と小さなどよめきが広がる。アリーナだって驚いている。


「あの、初の結婚退職しなかったダナさん、ですか」


 今でこそ、結婚退職しない女性も少数派と言えいるにはいるが、ダナが現われるまで、この城に務めに来ている女性たちは結婚すれば結婚退職するのが当然だった。

 先ほど男性たちが“ええー”と叫び声を出したのは、ガイナーの妻が働いている事実に純粋に驚いたのであり、“おおー”とどよめいたのは、ダナがその先駆けであると知っているからである。

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