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「思い込みを撤廃すべきだと話してなかったですか」


 面白そうにアリーナを見るライに、確かに口にしたのを思い出したアリーナは、思いっきり眉を寄せる。


「そう…言ったけど、いつ、そんな話になったの」

「さっき。それに了承したのはアリーナでしょ」


 とろりと甘い視線を向けるライに、アリーナはひきつった笑みしか出ない。


「そんなつもりじゃなかった…。」

「ひどいな、私のお姫様は。イケナイ子だ。」


 そう言いながらアリーナの体をなぞるライに、正気に戻ったアリーナは体を固くする。


「け…こんとか考えて…」


 ない。というアリーナの最後の言葉は、またもやライの口に飲み込まれた。

 さっきより更に熱を持った口付けは、さっきまではまだムズムズに近い感覚しかアリーナに引き起こさなかったはずなのに、さっきよりアリーナの体が熱を持ち体のいくつかの部分がなぜか主張してくる。…そのもどかしい感覚にアリーナは体のその部分をすり付けてしまう。

 それに気付いたのか、ライがすり付けている一部であるアリーナの内股をすっと撫でた。

 アリーナの喉の奥で生まれた声は、ライの舌と口に邪魔されて正しい音にはならない。 だけれども、明らかに今までと違う色合いの声が、アリーナの口の端から漏れた。


 熱を持った瞳が自分から離れてほっとしたはずなのに、口から漏れた残念そうな声色に、アリーナは自分でも驚く。そもそも、頭ではダメだと思っているはずなのに、さっきまでソファに縫い付けられていたはずのアリーナの腕は、ライから離れたくないとでも言うようにライにしがみついている。

 ふ、とライが顔を緩めるのを見て我に返ったアリーナは、慌ててライから手を離す。


「さっき、結婚を承諾したでしょ」


 アリーナは頷きたくなくて首を横にふる。

 それを見て口角をあげたライに、アリーナは嫌な予感しかしない。


「体は素直なのに。」


 また顔を近づけてきたライの顔を避けようとアリーナは顔を横に背ける。

 でもライの動きは止まらずに、アリーナの首筋に顔を埋める。


「ひゃっ。」


 アリーナの変な声が口から漏れる。


「やめて…。」


 首筋をなめられたことなどもちろんないアリーナは、力が抜ける自分の体にどうにか意思を伝えようと頑張ってみるが、体はライに抱え込まれて抜け出せそうには全くない。


「体は喜んでいますよ」


 クスリと笑われて、アリーナは羞恥に頬を染める。


「…副団長様…」


 何とか逃れようとアリーナが言葉を発しかけると、その下唇をトントンとライが軽くたたく。


「ライ、ですよ。呼んで?」

「いえ、あの…私は処女なので…やめた方が…。」


 呼んで、と言われたのを無視したのは、もちろんアリーナなりの意趣返しだ。そしてそれに続けたセリフは、百洗練目の騎士団副団長様の相手をするには処女では不足だろう、という遠回しのお断りの言葉だ。

 26年も生きていれば、下世話な言葉も耳には入る。性に鷹揚なこの国の男たちの中には、処女を面倒だと言う輩も多い。処女を喜ぶのは一部のマニアだとも言われているくらいだ。閨の作法もこの国で求められる女子力の中に含まれているとかいないとか。

 でも、アリーナのその言葉は、ライににっこりと笑われてしまった。

 …処女も大丈夫なのか。軽い絶望がアリーナを襲う。


「私も童貞だから、お揃いだね」


 軽い絶望に襲われていたせいで、アリーナはライが何を言ったのか、すぐには理解できなかった。

 頭の中で“どうてい”という言葉を何度か変換して、ようやく正しいと思われる意味にたどり着いた時には、は? と間抜けな声が口から洩れただけとなった。


「信じられない」


 ライの言葉に、アリーナは小刻みに頷く。何人もの女性と付き合ったはずのライが童貞なんて、誰が信じるだろうか。


「本当だよ? 見てみる?」


 何をだ! アリーナは目を見開いた後、顔を染めた。


「ふふ。だから、心配しないで?」


 何をだ!


「…あの、副団長様は30歳を超えていると聞いていますが…?」


 なぜこの年まで童貞なのか。むしろなぜなのだ。ハイスペックイケメンのはずなのに。

不能なの? という言葉はアリーナでも流石に飲み込んだ。


「ライ、ですよ」


 ライがアリーナの唇に軽く触れて音をさせる。


「…あの、何で童貞捨ててないんですか。不能ですか」


 アリーナは何だかもうライ相手に気を遣う気は全くなくなった。何が、ちゅ、だ。こっちの意思を汲め。それ以外の罵りの言葉は、視線に載せた。


「ひどいな。…確かめてみるといい。」


 妖艶な笑顔に、アリーナはぴきりと固まりかけて、何とか正気を保つ。


「…私は、結婚した相手としか契る気はありません」


 性には鷹揚ではあるけれど、そう考える女性が一部にはいる。本人たちは、乙女だからと言って憚らないが、たった一人の王子様を待っているんだと言う。アリーナの場合は、単なる逃げの一手でしかないが。

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