秘匿
八
部屋ですぐに汗を拭かれ着かえさせられた。
夕食は一人で食べる。アンが中心になって給仕してくれた。
(寂しい。独りが多いぞ。どうなってるんだ カルロス!)
カルロスの記憶では母や弟と妹と一緒の映像があった。そして、なによりも貴重な映像記憶! 寝る前に求めたソフィーの美しき乳房! これはもう個人的文化遺産だな。
(くそう、なんで洗礼式後に覚醒したんだ!)
悔しさの中、カルロスの知識が教えてくれた。
洗礼式を終えた王子は独立するのが普通らしい。
食べながら『天使を探せ』の内容を想い出そうと努力する。カルロスは、選択肢の五王子(中核メンバー)でないために情報が曖昧だ。
実際に記憶にある情報で、カルロス(俺)の弟と妹の笑顔が嬉しかった。
努力して捻り出す。ぼんやりと何かある気がした。
薄っすら情報が浮かび上がった。
(そうだよ! 俺は二年後に毒殺されるらしい。おい! 王族が暗殺されたら普通大問題になるだろう)
疑問点を脳内の社畜隠れノートに刻み込む。
食事も終わりもう一度暖かい布で体を拭かれた。
(風呂はないのか~。疲れが取れないぞ。期待していたのに。三十五歳おっさん日本人をなめるなよ。そのうち自分で作ってでも絶対に入ってやるからな)
秘かに決意する。
着替えも終わり、アンたちが出て行った。急に静かになる。
部屋を見回し周りに人がいないとの再確認をした。
自然と静かなガッツポーズになる。我慢を開放する。心で思いっきり叫んだ。
(国士無双を愛する者! だぞ。俄然やる気が出てきたぞ~)
頭の中で唱える。
(ステータス)
画面に見入る。細かい内容に引っかかる。
ステータス
氏名:カルロス・ルースター ルースター王国 第六王子(秘匿:神園裕也:国士無双)
性別:男 5歳
(以下日本語表記)
加護:女神エルピス希望の星(秘匿:国士無双を愛する者(ゲーム機能使用∞))
救済措置補正:各種経験値1000倍、
レベル:50/∞
HP:300/∞
MP:200/∞
(秘匿:魔法適正:火∞、風∞、水∞、地∞、光∞、闇∞、雷∞、氷∞、聖∞、無属性∞、生活∞、創造∞、付与∞、全制限解除∞)
武力:100/∞
etc
笑顔で思った。何か変だ。
(何だろう8じゃないよな。∞って無限大記号だ。理系大学出身者としては馴染み深いが、数学の証明問題とプログラムで使うくらいだ。おそらく成長限界がないという意味でいいんだよな?)
「半日でこれだけ内容が変わるか? 異世界で急成長は普通なのか?」
小声で自分に問いかけた。
「いや普通じゃないだろう。それに「女神エルピスの加護」が「女神エルピス希望の星」に変わっている。
気付いただけでも、かなりの激変だ。
「エルピス様……感謝しておりますが、内容が過激でチート過ぎるのではないでしょうか」
密やかに感謝をささげる。
(俺は平凡で分相応の人生が良い。ついでに、できる範囲だけ人を助けられれば良い。平均値を探り出して修正だな。これはこれで苦労するよな)
秘匿機能付き、文字修正、数値修正が可能 を行使する。
「秘匿機能、数値修正、行使」
意志をもって唱える。画面に『何処を修正・秘匿しますか? 指定してください』と表示かあった。あとはスマホと一緒だ。指定して修正・秘匿の繰り返しだ。
社会とは急な変化を受け入れ難いものだ。異端は常に排除される運命だ。
どこの世界でも出る杭は打たれる。目立たぬことだ。
(注意して慎重に立ち回れ)
社畜で培った察知能力がそう告げている。
憶えているレナード教授の数値を参考にする。
(王族でも五歳だ。これくらいか?)
俺は修正を終えた。
加護:女神の加護(秘匿:女神エルピス希望の星)
レベル:10+1(秘匿50/∞)
HP:30+1(秘匿300/∞)
MP:20+1(秘匿200/∞)
魔法適正:火2、風2、水2、地2、光2、闇2、雷2、氷2、聖2、
(秘匿:魔法適正:火∞、風∞、水∞、地∞、光∞、闇∞、雷∞、氷∞、聖∞、無属性∞、、生活∞、創造∞、付与∞、全制限解除∞)
武力:10+1(秘匿100/∞)
……etc
(秘匿機能付き、文字修正、数値修正が可能です)
(部外者開示は実数のみ。秘匿数値は開示不可)
新たな制約を加えた。
(定期的に+1の部分を徐々に上げていこう。これで国王からステータス・オープンを求められ、説明しろと強制されても対応できるだろう。問題は宝珠水晶の前でどうなるかだな。出たとこ勝負か)
努力をした満足感があった。生き残りをかける異世界は地獄だ。生き延びるため定期的に確認しよう。
急に五歳児の体に眠気が訪れた。まどろみの中心でぼやいた。
(初日から五歳児にハード過ぎだろう。社畜生活よりきつい気がするんだが)
いつの間にか目を閉じていた。