聖騎士
七
「カルロス様には明かしましたが。魔物との戦に支障をきたしますので、私のステータス内容も極秘扱いとなっております。皆には黙っていてください。王族の方々には届きませんが聖魔法は魔を滅する威力を有します」
(隠さないと魔人に命を狙われるんだな)
「解りました」
理解し応える。
「ではご自身でステータスと、お唱え下さい。頭の中で唱えるだけでもかまいません」
「ステータス」
声に出して唱えると視界に画面が浮かび上がった。
「見えますか? 自らステータス・オープンと唱えなければ他者には見ません。ただし教会の宝珠水晶の前に立てば内容が浮かび上がるようになっております。また王族には王の前で定期的に開示義務が生じます。ルースター王国で王位継承者である太子は、現王の指名制です。皆に認められる優れた者が王座に就くのです。カルロス様もご研鑽下さい」
俺は教授の説明を受けながら、食い入るようにステータス内容を確認した。
自分の名前、立場、年齢のみ異世界語で表示されていた。
あとは見慣れた日本語だ。
ステータス
氏名:カルロス・ルースター ルースター王国 第六王子(秘匿:神園裕也:国士無双)
性別:男 5歳
(以下日本語表記)
加護:女神エルピスの加護(数値秘匿:∞、国士無双を愛する者(ゲーム機能使用∞))
救済措置補正:異世界での各種経験値1000倍、
レベル:5/∞
HP:30/∞
MP:20/∞
(秘匿:魔法適正:火、風、水、地、光、闇、雷、氷、聖、無属性、生活、空間、創造、付与、全制限解除∞)
能力
体力:10/∞
武力:10/∞
知力:20/∞
精神:50/∞
鑑定:50/∞(神眼)
幸運: ∞/∞
(秘匿機能付き、文字修正、数値修正が可能)
一点のみに心が躍った。
(国士無双を愛する者! って書いてあるぞ!)
喜びのあまり俺は顔を天に向けた。目を閉じた。ゆっくりと両の手を掲げて祈る。女神への感謝を無言でささげた。
(女神様の名を初めて知りました。希望の女神様と記憶しています。エルピス様のご加護のおかげで生きていけるかもしれません。精一杯あがいてみます。ご加護をありがとうございます)
しばらく祈ってから教授に向き直る。
「カルロス様はステータスの内容が解るのですね? 神のご加護があるそうですね。実は我々には読めない文字でして。内容までお聞きしませんが、神の名だけでも教えて頂けますか?」
笑顔で教授が話を振ってきた。
大魔王年の説明で神や天使を求める理由は理解している。
(神の名を皆が求めているのだろうが、置かれた状況では慎重に対応するに限る)
社畜で培った警戒心と神園裕也の人生経験がそう告げた。
「五歳の僕にもさっぱりわかりません。教授に解らないことが僕に解ると思いますか? 内容は解らずとも加護を下さった神に感謝の祈りをささげるものですよね?」
五歳児の精一杯の笑顔で問い返した。後に続く質問を封じる手だ。
「……カルロス様は大人びていらっしゃいますね。報告では、その、もっと子供らしい感性の方とありますが……。そうですか。神の名だけでも解るようになったらお教えください」
教授はあからさまに不審気な顔で間をあけた。
「……では簡単な体内での魔法力循環と生活魔法から説明をしましょう。魔力を枯渇させて容量と機能を成長させる。魔力の成長循環は体力強化と同じです。ご努力下さい」
教授は授業を再び始めた。
(危ないぞ! さすが教授は鋭いな。俺はもっと子供らしくしないと、中身のおっさんがばれるじゃないか。サラリーマン根性で相手の先をとるのは避けよう)
午前は残りの帝王学を聞く。
「地政学から学びましょう。ルースター王国の隣にはエルフ王が治める大国ドラシルがあります。我が聖紋国ルースター王国に住むエルフも先祖はドラシル出身者です」
「エルフとは仲が良いのですか?」
「聖紋国ルースター王国が魔人や魔王に倒れた時、次に狙われるのは聖樹国ドラシル王国です。名のごとく国の中心にある聖樹=イルミンスールを守っています。聖樹を守るためルースター王国と共闘しています」
(『天使を探せ』にない情報だな。聞いてよかった)
後の小難しい内容は社畜機能でやり過ごした。
午後は聖騎士が尋ねてきた。
「挨拶は午前に済みましたね。では早速、この剣を振ってみましょう」
武術を担当する聖騎士のカイン・ゴンザレスは無骨で実直な偉丈夫だ。
挨拶もそこそこに武術は始まった。
「えっいきなり振るのですか?」
(子供には午睡が必要だろう。六番目だけど王子だぞ。大事に育てようよ)
「王子。武の道に実践に勝る近道はありません。まず軽く素振りを百回やり。そして剣の型をやりましょう」
不平が浮かぶ。
(解る。剣道をしていたから解るよ。でもね。普通、初日は説明と見学だよね)
渡された剣は、バランスの悪い鋳造製だった。子供に重い金属の棒は苦痛でしかない。
武術が初めての子供に重い剣を握らせるのはやめてもらいたい。
心と裏腹に俺は素直に従った。数少ない味方になるかもしれない人物を遠ざけたくなかった。
剣道との違いを意識して有段者がばれないように剣を振るう。だが少しムキになっていた。反発心があった。
(小学校から大学までみっちり剣道をやってるんだ。馬鹿にするなよ)
聖騎士カインは腕組みして、ただ黙って見つめていた。
「そこまで。素振りはまあまあですね。次に剣の型を見せます。ご記憶ください」
異世界の剣術の型は単純に思えた。
(先の先も後の先も無茶苦茶だな)
求められた儘に型を反復する。途中から繰り返す型の練習は、社畜の自動オート機能に任せた。
修練の終わるころ五歳児の俺は体力も尽き疲れ果てていた。
(俺って王子だよね。会社で言えば上司だぞ! 少しは大事にしてくれよ)