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18ー6.理由


「着きましたっ! 私の家です!」


シドの大活躍のおかげで、魔女の家まで3人とも無事に辿り着くことができた。

大樹で出来た家は先日の落雷によって半壊しており、庭の畑もぐちゃぐちゃの状態。

魔女にとっては目にして辛い光景だが、感傷に浸る余裕も今は無い。


「留守中に魔物が棲みついてるかもしれない。気をつけて入……」


ヒュルルルルル……ズドドドォォン‼︎‼︎


家の中に入ろうとしたそのとき、またしても背後で嫌な音がした。

3人が振り返ると、異形の大群が今にも庭に押し寄せてこようとしている。


「チッ……仕方ねぇな。お前ら、ここはおれに任せて先に行ってろ!」


「爺さんっ!」


「ザコ相手に心配すんな! ささっと片付けてすぐに行く!」


「死ぬなよ……!」


カトラスを構えて異形の群れへと駆け出したシドを信じ、ソラと魔女は壊れた扉から黒焦げの室内に踏み込む。

煤の匂いに薬品の匂いが混じって独特な空気が漂う中、床に散らばった荷物の残骸をかき分けて進むと、倒れた棚が地下室入口を塞いでいる。

その棚を魔法でさっと退かした直後、魔女は地下室で何かが動くのに気付いた。


「何かいます! ソラくん、下がって!」


魔女はすぐに杖を構えた。ところが……


「あ……」


「ギッギィ‼︎」


地下から飛び出した野生のドクロウに、魔女は一瞬クロの姿を重ねて攻撃を躊躇してしまった。

ドクロウは大きな翼を広げ、魔女たちへ向かってくる!


「魔女さん危ない‼︎」


ソラは咄嗟に魔女を床に伏せさせ、自身で覆い被さるようにして庇った。次の瞬間……


ザクーーッ‼︎


「ぐああっ‼︎‼︎」


「ソラくん‼︎‼︎」


ドクロウは開け放した出口から家の外へと飛び出していったが、その際に爪でソラの肩を深く抉っていった。

肉体固定魔法は事前にかけていたが、それを貫通するほど強い力が加わったのだ。


「だ、大丈夫、魔女さ……ウッ⁉︎ げほげほっ……がはっ‼︎」


「⁉︎」


咳き込んだソラの口からは血が溢れ、羽織っていた白衣は既に真紅に染まっている。

魔女は夫を看取った時のことがフラッシュバックして、激しい動悸に襲われながら左手を見た。

あの時のように杭は刺さっていないし拘束魔法もかかっていないのに、自身を自身と信じられないほど体が動かない。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


「魔女、さ……薬……オレの、鞄……」


「! は、はいっ」


あの時とは違う! ソラくんはまだ生きようとしている! 私に助けさせてくれる!

そう気付いた魔女は起き上がり、震える手になんとかナイフを握ると、肩紐を切ってソラの背から大きな鞄を外した。


「左……」


「はいっ」


ソラの言う通り鞄左ポケットを確認すると、回復薬と数種の解毒剤が見つかった。

解毒剤のうちの1種は、以前魔女がサンプルとして提供したクロの毒を参考に、モモが開発したものである。

魔女は魔法によって薬の効力を高め、すぐにソラの傷を塞いだ。

だが、既に毒が全身に回り切っているため、解毒には時間がかかりそうだった。


「魔女さん……オレはもう、大丈夫だから……術式を……」


「また魔物が現れるかもしれません。ソラくんのお爺さんが戻ってくるまでは私が看ます」


「そっか……じゃあ、今のうちに口説かせて……」


「そんな場合じゃないですよ。喋らないで休んで……」


制止しようとした魔女の震える手を、ソラはぎゅっと握った。

その手もとても震えていて、もうどちらが本当に震えているのかわからなくなるほどだ。


「オレ……最初は魔女さんの言った通り、自棄だったんだ……都会で夢破れて、田舎に出戻って……そんな自分を惨めな敗者と認めたくなかった……だから、魔女さんの為に戻ったなんて理由をこじつけた。恋心をでっちあげたんだ……でも……でも、あの夜……」


繋いだ手を引き、ソラは魔女を抱き寄せる。


「旦那さんを想って泣くキミを見て、本当に胸が締め付けられた。苦しくて堪らなくなった……オレがキミを好ましく思った最大の理由は、お袋と違って死んだ夫を引きずり続けていたからなのに……キミが悲しむのは辛い、オレがキミを幸せにしたいと思った。旦那さんよりオレを愛して欲しいと願った……あのときから、オレはキミに本気になったんだ」


「……マリッサ……マリッサです、私の名前。君じゃなくて」


「名前……村に帰ったらって約束だったのに?」


「先に教えたんですからね、絶対に約束通り生きて帰ってもらいますよっ」


「そうだね、うん…………マリッサ、愛してる」


「……私も、ソラくんを愛してます……でも、でも……」


まだ躊躇いのあるマリッサ。

そこへ、異形を一掃したシドがやって来る。ポンチョと頭の巻き布を脱ぎ、少し身軽になった姿はいつもより若く見える。


「おれとしたことが、ちょっとばかし手こずっちまったぜ。ん? お前らな〜に乳繰り合って……」


寄り添う2人を見て一瞬邪推しかけたシドだが、血の匂いに気付くと血相を変えて飛んでくる。


「オイ‼︎ 何があった⁉︎ これはソラの血か⁉︎」


「心配するなよ、爺さん。もう治療して回復待ちだから……」


「そうか……ったく、驚かせやがって! 妻にも息子にも先立たれて、その上孫にまで先立たれるなんて冗談じゃねぇよ……」


「すみません、お爺さん……お孫さんは私を庇ったせいで……」


「あんたが謝ることじゃねぇよ、孫はそれだけあんたに惚れてるってことだ。で、術式はどうなったんだ?」


「それは今からですっ……お爺さん、ソラくんをよろしくお願いします!」


「おう!」


魔女はシドにソラを任せ、地下に降りて術式の書き換え作業に取り掛かった。

魔女の家のある辺りは魔穴の発生地点からズレていたため、追加で魔物が襲ってくることはなかった。


***


しばらくして、地下室から魔女が出てくる。


「術式、書き換え完了しました。あとは術式維持に使える魔石が家にどれだけ残っているか探します。ソラくんの様子はどうですか?」


「寝ちまったよ。せっかくあんたに告白したとこだったのにってぼやきながら。代わりにおれに返事を聞かせてもらおうか? ん?」


燃え残っていた魔女のベッドにソラを寝かせ、自分は木箱を椅子にして窓の外を見張っていたシドが尋ねた。

期待を浮かべたシドとは対照的に、魔女の表情は暗い。


「…………ごめんなさい。私は……ソラくんの気持ちに、応えるわけにはいかないんです」


「ほう?……瀕死の男の告白を断るとは、よっぽどの理由があるんだろうな?」


孫を想う祖父心から、シドは少し凄むような問い方をした。

魔女は怯えるように目を伏せ、小さく頷く。


「……昔、私の夫は私のせいで死にました。その夫が言ったんです……孤独な時間を生きることが、私にとっての罰だと」


「……そいつは違うな」


「え……」


意外な言葉に魔女が目を見開いてシドを見ると、シドはその目を真っ直ぐ見つめ返す。


「おれはお前さんの旦那のことは知らねぇが、同じく最愛の伴侶と生き別れた者の立場から言わせてもらうとだな、本当に与えたかったのは罰じゃなくて『赦し』だったんだと思うぞ?」


「……どういう意味ですか?」


「だってお前さん、罰が無けりゃ後を追ってたろ? だから生きていくための『言い訳』を用意してくれたんだ。本当は旦那さん、ただお前さんに生きていて欲しかったんだよ」


「…………」


「本当はお前さんも解ってたんじゃないのか?」


「でも……」


魔女は再び目を伏せ、自身の服の胸元をぎゅっと握り締めながら背中を丸める。


「でもダメなんですっ……私は、幸せになっちゃいけない! そんなことは許されない!……だって、彼が死んだから出会った人となんて、そんなの……彼の死を踏み台にしてるみたい、彼のあの死をあって良かったことと肯定するみたいじゃないですか⁉︎ そんなの絶対嫌‼︎……だってあの出来事は、私の人生の中でいつ振り返ったって決して受け入れることのできない、絶対的な不幸なんですからっ‼︎」


「違うよ、マリッサ。彼が死んだから出会ったんじゃなくて、彼に生かされたから出会えたんだ」


「!……ソラくんっ」


いつの間にか起き上がっていたソラが、魔女の背にポンと手を置いた。

ばつが悪い魔女はソラと目を合わせず、そそくさと距離を取る。


「……お、起こしてしまいましたね。すみません……」


「オレが好きになったのは、愛することを知っているマリッサ……旦那さんを大っ好きなマリッサなんだ。つまり、彼が生きて築き上げたものを好きになった。彼の生、彼という存在を肯定しているんだ。オレは……2人の紡いだ思い出や絆を塗り潰すのではなく、引き継いで足していこうと思う。自分の好きな物語をバッドエンドで終わらせず、幸福な続きを継ぎ足すようにさ。……そりゃまあ、嫉妬もするんだけどねっ」


ソラは冗談っぽく笑って言ったが、魔女の気は晴れない。


「それでも……罪を犯した私は、今更幸せになる資格なんかありません……ソラくんは私なんかよりもっと相応しい人と幸せになるべきです……」


そこへ、痺れを切らしたシドが口を挟む。


「孫が誰を愛するかは、振るお前さんの決めることじゃない。孫の勝手だ。勿論、お前さんがどぉ〜〜してもウチの孫が絶望的に全然全く好みじゃなくて、死んでも絶ッ対に付き合いたくなんかないっ‼︎ 生理的に無理っ‼︎……って言うんなら、それもお前さんの勝手だ」


「待って爺さん、何その言い方⁉︎ それで頷かれたらオレまじショック死するんだけど⁉︎」


慌ててツッコむ孫に構わず、シドは話を続ける。


「でもな……もしもお前さんも本当はおれの孫にそれなりの好意を持ってくれているんなら、おれが婆様にプロポーズされた時の言葉を教えてやるから、それを聞いて考え直してくれ」


「「え⁇」」


魔女もソラも驚いてシドを見つめた。

シドは勿体ぶって咳払いをひとつすると、差し込む月明かりを手に掬い、そこへ在りし日の妻の姿を思い浮かべる。


「……『罪人のあなたが自分のために幸せを望めないなら、私のために幸せを望んで。望むことが罪なら、私も共犯になりましょう。月並みな台詞だけど、あなたの幸福が私の幸福だから。愛しています、シド……私と結婚してください』……ってな。ああ! 本当にイイ女だった‼︎ 最高だ! 正におれだけの女神様‼︎ 墓の中まで愛してるぞッ‼︎‼︎」


「落ち着けよ爺さん! 聞いてるこっちが恥ずかしい! せっかくいい話のはずが台無し!」


突然荒ぶる祖父に、再びツッコむ孫。

程よく空気が弛緩したところで、シドはまとめに入る。


「フッ……まあ結局のところよぉ、人間、正しさよりも愛しさが先に立っちまうことは多いんだ。真面目に意地を張り続けねぇでもいいさ。多少狡くなるくらいは愛嬌のある生き方ってやつだ」


「……今はあの村を救わないと、先の生き方なんて考えられません。村の様子はわからないけど、通信魔法を届けられるか試してみます……」


魔女は話を逸らした。すぐに答えられないほどに考える余地は生じたのだ。


その後、魔女はクリソベリル邸のアリスとの交信に成功し、リーナと共に避難してきたピアから魔脈管理士たちが山へ向かったと報告があったことを教えてもらった。

3人は魔女の家で術式を護りつつ、管理士たちが魔穴問題を解決してくれることを祈った。



シドの若い頃の話はR15だと危ないかもしれません……


次は8月末までに本編終了を目標にしてますが、忙しいと延びるかもしれません。

それでも年内に番外編始めたいです。

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