18ー3.村長の正体
ゴーン‼︎ ゴーン‼︎ ゴーン‼︎
「西の森から魔物の襲撃です‼︎ 皆さん速やかに最寄りの避難所へ避難してください‼︎」
わあああああ‼︎ きゃああああ‼︎
「皆さん冷静に‼︎ 子供や怪我人に気を配って、周囲の人と助け合って逃げてください‼︎」
ゴーン‼︎ ゴーン‼︎ ゴーン‼︎
バキバキバキ!……ドドドドドドドド……ヴアアアアアアアア‼︎‼︎
鳴り続ける警鐘、緊迫した大人たちの声、幼な子たちの泣き声、何かの壊れる音、激しくなる地響き、異形たちの咆哮……
村へも異形たちが雪崩れ込み、かつてない大混乱の中で避難活動が続いていた。
避難所となっているのは村長邸、教会、宿などの大きな建物で、緊急時に強力な結界を張るための魔術式と魔石が常備されている。
「か弱き人間たちよ! 速やかにここまで逃げてくるがよい! 敷地内の安全は、今日も最高にカッコいい天使であるこのボク、アリス様が約束しよう‼︎」
村長邸の屋根から高らかに宣言したのは自称天使の最強格闘メイド、アリス。
邸のみならず裏の工房棟まで、屋根の上や鉄柵の上を自在に駆け巡り、異形目掛けて流星の如く飛び降りては粉砕していく。
「ハーーハッハッハッハーー‼︎ シャイニングエンジェルパーンチ‼︎ ブリリアントエンジェルキーック‼︎」
ドシャッ‼︎ ドシュゥゥーーーーッ‼︎
まさに一騎当千の働きぶり。そんな頼れるメイドに邸の守護を任せて、村長はというと……
「さあ着きましたにゃ! あとは中で治療してもらってくださいにゃ!」
「待って! 村長さんも一緒に避難所に入ろうよ!」
「ワタシはまだ他に助けが必要な人を探してきますにゃ!」
怪我人や年寄りなど自分の足で逃げるのが困難な人たちを探しては、背負って避難所へと運ぶことを繰り返していた。
ヴァアアアアアアア‼︎‼︎
「にゃっ⁉︎」
不意に、村長からそう遠くない背後で異形の咆哮が聞こえた。
振り返ると、小さな赤ん坊を抱いて蹲る母親に、今にも異形が襲い掛かろうとしている!
「危にゃいっ‼︎‼︎」
バシィッ‼︎‼︎
「きゃあああ‼︎」
間一髪! 村長は親子と異形の間に滑り込み、大きくて歪な異形の手を両腕で受け止めた。
だがその衝撃で仮面が吹き飛び、フードは捲れてしまう。そして……
「早く逃げてくださいにゃっ‼︎」
「そ、村長さん……ヒッ⁉︎ ま、魔獣‼︎」
顔を上げた母親の前に立っていたのは、村長のローブを着た毛むくじゃらの魔獣だった。
ピンと反った三角の耳、暗闇に光る大きな目、鋭く尖った牙……化けの皮を剥がされた村長、魔獣クリソベリル。
ヴァアアアアアアア‼︎‼︎
「にゃっ‼︎」
異形は魔獣に掴まれた手を振り払い、再び親子に狙いを定めた。
だが魔獣は素早く異形の腕を掴み、そのまま突進して喉元へガブリと喰らい付く。
「グルルルルルル……」
ヴァー‼︎ ヴァヴァー……
魔獣は低い唸り声をあげながら顎の力で異形の首をへし折り、異形は動かぬ泥へと姿を変えた。
「フーッ、フーッ……も、もう大丈夫ですにゃ! お怪我はありませんかにゃ⁉︎」
気遣いながら親子を振り返った魔獣……その口元から、異形の泥がボタボタと血肉のように滴り落ちる。
「ヒッ……ヒィイイイ‼︎」
「うあああああああん‼︎」
「あそこ! 逃げ遅れた親子がいるぞ! 今助けに……ヒエッ⁉︎ なんだあの化け物は⁉︎」
怯えきった母親と、大声で泣く赤ん坊。
それに気付いて駆け寄ろうとした他の村人も、そばに佇む魔獣の姿を見て立ち竦む。
「にゃ……にゃにゃ……にゃああああ〜〜」
魔獣は耳を伏せてヨロヨロと後退りしたが、少し離れたところから再び異形の咆哮が聞こえると、袖の長いローブを脱ぎ捨て、両手の爪を剥き出しながらその方向へ走り去ってしまった。
クリソベリルは宝石の名前です。村長にこの名前を付けた旅人とのお話は番外編の2弾目に予定しています。




