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17ー2.2人きりのピクニック

同日正午過ぎ。村の東部。


「セス〜〜っ! お昼なのですよ〜〜!」


「ステラ! 足元よく見ろ! 転ぶなよー!」


村外れの雑木林で魔脈を再確認していたセスのもとへ、手提げ袋とピクニックバスケットを腕にかけたステラが駆けてくる。

今朝は珍しくステラが寝坊して弁当を用意できなかったため、昼食時に届ける約束をしていたのだ。

セスは村の魔脈図を鞄に仕舞い、ステラからバスケットを受け取る。


「ここまで迷わなかったか?」


「大丈夫なのですよ。ステラ、セスのいる場所はわかるのです!」


セスの腰に携えた緑の剣。精霊ステラはその剣の魔力を辿れるのである。

おかげで、作業の進行に合わせて移動するセスと、場所を決めることなく合流できたのだ。


「でも、わざわざ悪かったな。思ったより大荷物だ……」


セスが申し訳なさそうな顔を向けると、ステラは満面の笑顔で首を横に振る。


「全然平気なのですよ! それに、バスケットにはステラの分も入っているのです。ステラ、セスとお話したいことがあったので、お昼は一緒に食べられたらちょうどいいなと思って……セス、いいですか?」


「勿論いいに決まってるだろ。じゃあ早速食べようか。場所は……」


「ええっと……では、この辺りで」


ステラは手提げ袋から簡素なチェック柄の敷物を取り出し、木陰に敷いた。

セスもすぐに剣と荷物を下ろし、敷物が風で飛ばないように押さえる。


「まるでピクニックだな」


「えへへ♪ 実はずっと憧れていたのですよ。ネリアはいつもセスとお外でお弁当を食べているのが、羨ましくて」


何気なく言った本人は気付いていないが、羨ましく思う対象がピクニックではなくなっている。


「普段は敷物もバスケットも無いけどな」


「じゃあ今日は特別ですね♪ スペシャルなのです♪」


2人は村の方を向いて並んで座ると、間に置いたバスケットから昼食を取り出していく。


「おっ。このパニーノ、まだ温かい」


「出来たてを真っ直ぐ持って来ましたから! でも、温かいのはそれだけじゃないのですよ〜」


そう言ってステラが魔法瓶を開けて見せると、南瓜のポタージュから湯気が昇っている。


「おお〜、そっちも美味そう!」


「逆に冷たいものでしたら、ピアから貰った梨のコンポートでゼリーを作ってきたのですよ。あと、甘い物なら蜂蜜キャンディも持ってきたのです。これなら午後のお仕事のお供になるのですよ。ステラのイチオシアイテムなのですっ」


「ははは、至れり尽くせりだな。ありがとう、ステラ」


「どういたしまして、なのです♪」


穏やかな木漏れ日。優しい風と葉擦れの音。時間を忘れて微睡みたくなる。

遠くには、村の建物が小さなハリボテのように見えて、村人たちが疎らに動いているのがわかる。

目に映る景色が同じ現実の延長線上に存在しているとは思えない、雑木林の内と外で世界が隔絶しているような、不思議な感覚。

セスは村を眺めながら、まるで自分たちの方が夢の中にいるみたいだと思った。

夢ならいっそ覚めなくていいのに、とも。


「夢……」


「ん?」


「夢を見ていたのです。長い、長い夢を……」


「……今日の、寝坊の理由?」


セスが尋ねると、ステラは村の方を向いたまま静かに頷く。


「……その夢の中で、今度こそちゃんと思い出したのです。ステラの本来の使命も、従うべき運命も」


「………………」


「遅くなってごめんなさい。少し前にシュシュさんたちから『魔脈回復後にステラが消えてしまうかもしれない』という噂を聞いて、それでやっと自覚できたのです……思い出せないのではなく、思い出さないようにしていたんだと。今まで本来の力が戻らなかったのも、きっと無意識に思い出すのを拒んでいたせいなのです。ここでステラとして過ごす日々が、あまりにも幸せすぎたから……」


「全てが終わっても……ここに残ればいいじゃないか。精霊としてじゃなく、ただの女の子として。好きなだけ、ずっと……」


「そういうわけにはいかないのですよ。精霊として守るべき掟がありますから。地の国の女神様との大事な約束なのです。その女神様も他の神様たちとの取り決めが色々あって、勝手はできないのです。セスだって、任務が終われば帰国する決まりなのですよ」


「それは……」


「庭に植えた林檎の苗……せっかく特別に魔防壁で守って貰ったのに、約束は果たせないものでしたね」


「ごめん……」


「謝ってほしくはないのですよ。優しいセスに嘘を吐かせてしまったのは、ステラの方なのですから。ステラは魔脈に還りますけど、消えちゃうわけじゃないのです。セスたちが大事に守ってくれているこの地で、自然と共に生き続けるのですよ。今のステラという個を失って、姿も見えなく声も聞こえなくなっても、ずっとずっとそばにいるのですよ」


「………………」


「だから、寂しくなんかないのです。悲しむ必要なんかないのですよ!」


「…………そう、か」


「そうなのですよ〜っ」


「うん……ステラの言うことを、俺は信じるよ」


「はい、なのですよ」


「………………」


突然、セスはステラから顔を背けるように体を前に倒すと、わざとらしく大欠伸をした。

それを見たステラは自身の膝上をポンと叩いて『どうぞ』と勧め、セスはその厚意に甘えた。

日除けとして顔に被せた帽子の下、セスは眠るフリをして涙が乾くのを待った。


***


セスは次の目的地への移動ついでに、ステラを家まで送った。


「ステラ、使命を果たす前に、ピアやネリアたちとも過ごす時間が欲しいのですよ。だから今日はセスの夕飯の準備を終えたら、ピアの家へ行ってきます。そのまま今夜は帰らないので、セスはステラのことは気にせずおやすみくださいね」


道すがら、ステラはそう話していた。

家の近くの橋から手を振り続けるステラを、セスは見えなくなるまで何度も振り返りながら歩いた。



『どうぞ』のとこは膝枕を勧めてます。わかりにくいかも?

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