14ー3.魔女と幼いソラ(その1)
おねショタ回‼︎
十数年前。クローバーの月。
その日、魔女はクロと共に森で木の実や山菜を探していた。
「ギーギーギー!」
「はいはい、クロくん。今そっちへ行きますから……」
「ギィイ」
ガサガサガサ……
何かを見つけたらしいクロの後を追って、魔女が草むらを掻き分けて進んでいくと……
「え? あれは…………子供⁉︎」
1メートルほどの小さな崖の下に、オーバーオールを着た幼い男の子が見えた。
男の子は目を閉じてじっと動かず、草の中に蹲っている。
「まさか、落っこちて怪我を⁉︎ た、大変ですっ……‼︎」
死んでいたらどうしようという不安に襲われながら、魔女は男の子に駆け寄って抱き起こした。
すると、男の子はパチっと目を開けて、魔女を見るなり大声で叫ぶ。
「ぅわー! でたー! ほんもののまじょだ〜! すっげぇ!」
「えっ、えっ、あのっ、ちょっと……君っ!」
男の子が魔女のローブや髪を無遠慮にぐいぐい引っ張るので、魔女は彼の両腕を掴んでやめさせた。
「きみ! じゃなくて、ソラだよ! まじょさんのなまえは⁉︎」
「私の名前は……マ……魔女、ですよ……」
「ままじょさん!」
「ままじょじゃないです。魔女っ」
「まじょの、まじょさん! そのつえ、カッコいいね! どんなまほうがつかえるの⁉︎」
今度は魔女の杖を引っ張りだしたソラ。
そのやんちゃぶりに振り回されまいと、魔女は頑張って声を出す。
「ソラくんっ!……あのっ、君……ソラくんは! 迷子ですか? 怪我をしてませんか? お家はどこですか? 保護者の人は?」
「まじょさん、ダメだよ〜。こどもにしつもんするなら、いっこずつにしないと!」
「す、すみません……」
「ボクね、いえでしてきたの! けがはね、さっきちょっところんでイタかったけど、ねたらイタイのなくなった! いえは、うみときょーかいのちかく! シドってジジイとくらしてるよ!」
「結局全部答えてくれるんですね……ありがとうございます」
「どーいたしまして!」
ソラは得意げに顔を輝かせた。
魔女は苦笑しつつ、鞄から薬瓶を取り出す。
「念のため、痛かった部分を見せてくれませんか? 必要なら手当てしましょう」
「はーい!」
ソラは元気いっぱい返事をすると、オーバーオールを脱ぎ始める。
「えっ、なんで脱ぐの⁉︎」
「だって、コレぬがないとみえないもん。ちょっとかんがえればわかるでしょ?」
「うっ……」
賢さ由来の悪意無き生意気さである。
それでは腹も立てようがないし、そもそも魔女は子供の叱り方がわからなかった。
自分より歳下の世話を焼くなんて初めてだ。
「ぬぎにくくてこまるよ。こどもはじぶんでえらべないから、おとなにおしきせられてばかり。きゅうくつだ」
「脱げにくい方が助かることもあるんですよ、たぶん。……君は本当によく喋る子ですね」
「ソ! ラ!」
「はいはい、ソラくんはお喋りですね〜」
「それよくいわれる! まじょさん、しってるの⁉︎ やっぱまじょだから⁉︎ すっげーね!」
「いいから早く怪我を見せてください。ほら、おいで……」
「はーい!」
脱ぎ終えたソラは再び元気いっぱい返事をすると、丸めた服を抱えて魔女の前に立った。
ぶかっとしたシャツから伸びた細い脚先に、玩具みたいに小さな靴。
興味深く周囲の世界を観察している、大きな瞳。呼吸に合わせて上下する、傷つきやすい柔肌。
一挙一動が一生懸命で活力に満ちていると同時に、か弱くて脆い生命……
取り扱い注意な幼な子を前に、魔女の緊張がグッと高まる。
「出血は無いですが、両膝が少し赤くなってますね……それだけ動けるなら大したことは無さそうですが、一応治します。じっとしててください……」
体が小さい分、薬の量にも注意が必要だ。
魔女はハンカチに自作の回復薬を少量染み込ませ、慎重にソラの膝を押さえた。
すると、微かに残っていた赤みが瞬時に消え去る。
「すっげーー‼︎ まじょさん、ありがとう‼︎」
「どういたしまして。……では、ソラくんのお家に帰りましょうね」
「ヤダっ‼︎ ボク、いえでしたっていったじゃん!」
ソラはほっぺたを膨らませてそっぽを向きながら、オーバーオールを着直す。
魔女はそれを手伝いながら、説得を試みる。
「ソラくんは、どうして家出したんですか?」
「だって、サカナもうやだもん……ジジイがサカナばっかくわすからあきた! ニクがいい! もりでまものつかまえて、ニクたべる!」
「えええ……お魚は健康的で、体にも頭にも良いんですよ? 美味しいし……」
「でもあきた! だからきょうはあさごはんのこして、べんとーもおいてきた。そしたら、おなかすいて、うごけなくなって……ねちゃった」
「もぅ……ちゃんと食べないから、力が無くなっちゃうんですよ。こんなとこで寝るなんて危険すぎますし、そもそも子供が1人で森に入ることが危険すぎます。……ほら、お家に帰りますよ」
「でもおなかすいたーー! もううごけないーー!」
「さっきからめちゃくちゃ元気じゃないですか……」
汚れるのも気にせず地べたに寝転がるソラ。
魔女は鞄から赤いギンガムチェックの小さな包みを取り出す。
「じゃあ、今日は私のお弁当をあげますから。これを食べたら、お家に帰ってお爺さんと仲直りしてください。ね?」
「まじょさんのべんとーくれるの?……しかたないなー。きょうはそれでがまんしてあげる」
「約束ですからね」
魔女はおしぼりでソラの小さな手を拭くと、弁当箱を開けて差し出した。
ソラは中のジャムサンドを見ると、目を輝かせてそれに飛びつく。
むっしゃむっしゃむっしゃ……もぐもぐもぐ……
「フフ……随分と美味しそうに食べますね。甘いの好きなんですか?」
魔女がソラの頬についたジャムを拭きながら尋ねると、ソラは力いっぱい頷く。
「うん! だってね! あまいものって、ジジイはちょっとしかくれないもん! たべすぎるとハがわるくなるしフケンコーだからって。ほかにも、よふかしするなとか、おとなのめのとどかないとこにいくなとか……いっつもあれこれ! うるさいんだ〜」
「それは、ソラくんの為を考えて言ってくれるんですよ。孫想いの良いお爺さんじゃないですか。……でも……それだと、私はいけないことをしてしまったのかもしれませんね……」
「えー? ボク、まじょさんにイケナイコトされたの?」
「うっ……その言い方は語弊が……」
「ボク、まじょさんダイスキだよ! まじょさん、ジジイよりやさしいもん!」
ソラは無垢な瞳で魔女を真っ直ぐ見つめて笑う。
ちょっと手当てして食べ物をあげただけなのに。簡単に得られた高評価を、魔女は面映く思う。
「本当は、私よりお爺さんの方がソラくんに優しいと思いますよ? 甘やかしてばかりで叱れないのは、本当の優しさとは言えませんから」
「ふーん? よくわかんない……けど、ジジイのことキライじゃないよ。だから……なかなおり、してあげてもいいっておもう……」
「ぜひ、そうしてください」
帰宅の意志が固まったソラは、魔女の顔を探るように見つめつつ、黙々と残りのジャムサンドを食べた。
***
「ごちそーさまでした‼︎」
「はい。お粗末様でした」
弁当を片付け、いざ出発というとき、魔女はふとあることを思い出した。
「ソラくん、ちょっと目を閉じてください。おまじないをかけますから……」
そう言うと、魔女はソラの肩を掴んでその額に口付ける。
決して猥褻目的ではない。怪我を防ぐ肉体固定魔法のためだ。
魔導適正の低いソラに魔法を効果的にかけるため、制御系の体内魔脈が集まっている頭に、自分が魔力を集中させやすい唇で触れたのである。
「はい……今のおまじないで、少しの間ソラくんは体が丈夫になりました。といっても、さっきみたいな小さな怪我を防ぐくらいで、大怪我までは防ぎきれませんからね。気をつけて帰りますよ」
魔女は立ち上がってソラの手を引こうとした。
ところが、ソラは再び地べたに転がりだす。
「つかれたから、だっこしてー」
「えええ……」
「だっこ! だっこ! まじょさん、だっこーー‼︎」
「やっぱりめちゃくちゃ元気じゃないですか……」
うまく叱れないなら仕方ない……諦めた魔女はしゃがんで両手を広げる。
「……抱っこしてあげますから、ちゃんと自分で掴まりにきてください」
その途端、ソラは跳ね起きて魔女へ駆け寄った。そして……
ずるっ!……ぷるんっ♡
「ヒッ⁉︎」
「やっぱり! まじょさん、おっぱいすっげー‼︎‼︎」
ドッ……!
突然、ソラは魔女のワンピースの胸元を思いきり引っ張り、露わになった乳房へ突進した!
驚いた魔女は尻餅をつき、ソラは魔女の巨乳へ思うがままに頭を埋める。
もにゅん……♡ もにゅもにゅ……♡
「ひゃああああ⁉︎ やめてくださいぃぃ〜! ソラくんっ、女の人にこんなことしちゃダメですよぉぉ⁉︎」
「ねえねえ、まじょさんっ! ボクのおかーさんになってよ!」
「え……」
予想外の言葉に魔女はぴたりと固まった……依然として胸部は自由に揉みしだかれているが。
「あのねー、ボクんちね、あかちゃんがいるの。ボクのおとーと、レミ。でもボクのおかーさん、レミがうまれてすぐ、ジジイにボクとレミをあげてむらをでてったんだ。おとーさんは、レミがうまれるまえにユクエフメーになって、いないんだー……」
「ソラくん……」
祖父と暮らしていると聞いた時から、ソラの家庭事情が複雑であることは察していた。
魔女は幼いソラを乱暴に振り払うわけにもいかず、そっとその背に手を回して、縋る声に耳を傾ける。
依然として胸部は以下略。
「だからレミは、ジジイがふつうのミルクでそだててるの。ほかのコのおかーさんからもらったら、メーワクになるからって。でもボク、あかちゃんはボニューでそだつのがイイってきいたんだ。だからね、まじょさん、レミのおかーさんになって! まじょさん、おっぱいでっけーからボニューいっぱいでるでしょ⁉︎」
「でません!」
「ウソだ! でるもんっ。たしか、こうやって……」
「なななな、何するんですか⁉︎ きゃああああ⁉︎⁉︎⁉︎」
諦めの悪いソラが、魔女の胸部を力いっぱい鷲掴みにした! 次の瞬間……
「ギイイイイイイ‼︎」
「うわーーーーっ⁉︎⁉︎」
ソラの背に漆黒の翼が広がり、小さな体は空高く舞い上がった!
「ソラくん⁉︎」
「うわーー‼︎‼︎ まものだーー‼︎ たべられるーー‼︎ まじょさん、たすけてーー‼︎‼︎」
「ギィーー!」
ソラの体を鉤爪で鷲掴みにし、空へ拐った魔物の正体……それは勿論クロである。
幼いソラを怖がらせないよう姿を隠すついでに、上空から周囲に他の魔物がいないか警戒してくれていたのだ。
先の魔女の悲鳴を聞きつけ、いくら相手が幼な子でも看過できない状況だったため、こうして助けに出てきたのである。
「ソラくーん、安心してくださ〜い! その魔物さんは、ソラくんを食べませんよ〜!」
「ころされるーー‼︎‼︎」
「殺しもしませんよぉ〜〜‼︎」
「ギィ〜!」
クロはゆったりと旋回しながら高度を下げ、地上で待っていた魔女へとソラを受け渡した。
ソラは呆然とした表情で、魔女へがっしりとしがみついてくる。
「よしよし、怖かったですねぇ……これに懲りて、もう勝手に人の服を脱がせたり、胸を揉んだりしちゃダメですよ?……クロくんはお疲れ様です。助かりました」
「ギィ♪」
羽音も立てずに魔女の頭上に浮かんでいるクロを見て、ソラは再び目に輝きを取り戻す。
「すっげー! そいつ、まじょさんのけらい⁉︎」
「家来じゃないです。家族です」
「ギィ♪」
「えー⁉︎ まものなのに⁉︎ へんなの〜」
「ギギギ……」
「たとえ種族が違っても、互いの幸せを願って支え合いながら生きていければ、立派な家族です。それに、君のこと見つけてくれたのだって、クロくんだったんですよ?」
「ふーん……そっか! ありがとな、クロ!」
「ギ」
クロは素っ気無く鳴いて近くの木へ止まった。
小ちゃな無法者に魔女を奪われて拗ねている。
「さて、それでは今度こそお爺さんの家へ帰りますよ」
「はーい!」
もみゅもみゅ……♡
「……胸を揉むのはやめてください」
「もむとおっきくなるって、ジジイののみともだちがいってたよ! まじょさんのおっぱい、もーっとおっきくして、ボニューいっぱいだそう!」
もにゅん♡ もにゅにゅんっ♡
「だから母乳なんて出ませんってば! もうっ!……クロくん、来てください」
「ギ?」
魔女はソラをおろすと、自分のローブを脱いでソラの体をそれに包んでしまった。
頭だけは外に出し、身動きできない状態のソラをクロの鉤爪へ預ける。
「え〜〜! なんで⁉︎ ボニュー‼︎ ボニューだしてよ〜! ケチ〜〜‼︎」
「だから出ませんってば……はぁ……ソラくんは知能は高そうでも、まだまだ知識不足ですよね。これからたくさん本を読んだりして、お勉強頑張ってください。賢くなるために、お魚もちゃんと食べましょうね」
「まいにちサカナくってても、ジジイはあたまわるいよ! うちのジジイ、ノーキンなんだってさ! それにまじょさんだって、まいにちサカナはぜったいあきるよ!」
「……今は違いますけど、昔は私も毎日お魚食べてたんですよ。亡くなった夫も漁師でしたから……」
魔女はソラに背を向け、森の出口を目指して歩き出した。
クロはソラをなるべく揺らさないよう、気をつけながらその後ろを飛ぶ。
「……そいつもノーキンだった?」
「いいえ。……夫はとても聡明なエルフで、私に色んなことを教えてくれましたよ。私にとって神様のような存在で、心から尊敬できる人物でした……」
「こどもはいなかったの?」
「ええ。できませんでした……」
「だったら、やっぱりボクとレミのおかーさんになってよ! いっきにふたりもこどもできるよ!」
振り返ると真っ直ぐ向けられている期待の眼差しに、魔女は思わず笑みが溢れた。
それでも、答えは決まっている。
「ごめんなさい、なれません」
「ケチ〜〜……」
そのままクロにソラを運ばせ続け、夕方前には森の入口へ着いた。
教会裏の墓地では、ちょうど海から戻った脳筋爺シドが、孫を預かっていたはずの神父に掴みかかっているところだった。
魔女は今日のことを秘密にするようソラに約束させると、彼らに見つからない内に急いで森へ引き返した。
帰路、やんちゃなソラのふわふわした感触とあったかい体温を思い出しながら、小さな生命への愛おしさが込み上げると同時に、それが自分には扱いきれない重みであることを痛感する魔女。
「……もし……私たちにも子供がいれば、もっと違う最期を迎えられたでしょうか?……ねぇ、カイ」
誰の姿も見えない空を見上げて、魔女は愛しい夫の名を呟いた。
他所のお子さんにアレルギー確認もせずに食べ物を与えるのは現実では危険だと思います(´・ω・`)




