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13ー3.収穫祭準備(その2)

収穫祭当日の予定は、午前に子供たちが玉入れや借り物競走などのちょっとした競技をしてメダルを貰い、午後は作物の品評会と出品された作物を使っての料理コンテストが続く。

夕刻から飲酒も解禁され、あとはもう夜通し飲んだり食ったり歌ったり踊ったり……各自好き勝手に騒ぎ明かしていいことになっている。無論、良識の範囲内で。


昼食に屋台の試作ガレットをご馳走になったセスたちは、午後から各々別れて準備を手伝うことにした。

鉢植えの移動を頼まれたセスが、少し離れたところにある大きな鉢に近づくと……


モソモソ……


「うわっ⁉︎ この鉢植え、動いたぞ⁉︎」


「みゅっきゅっきゅっきゅ!」


「シュシュ⁉︎ そんなとこで何やってんだ……」


紅葉したコキアそっくりな赤毛のシュシュが、鉢の上でくるりと体を捩った。


「みゅっきゅきゅー」


「お前……鉢にはまって抜けなくなっちゃったのか? やれやれ……」


尻がすっぽり鉢にはまった状態で、短い手足をバタバタさせる赤毛シュシュ。

抱き上げようとしたセスが両手を毛の中に差し込むと、くすぐったいのかモゾモゾと体を動かして掴みにくい。


「こーら! じっとしてろよー、まったく……」


「んみゅぅうう……」


なんとか助け出してやると、疲れた赤毛シュシュは眠そうに欠伸をして、診療所の方へよちよちと歩いていった。


***


ダンッ‼︎


「うわっ、またド真ん中かよ! こりゃあ管理士の兄ちゃんの圧勝だな……」


「ま、ざっとこんなもんですよ。投擲スキルは対魔物用に鍛えてありますからね」


「ぐぬぬ……生意気な余所者め〜」


「はっはっは♪」


的当て屋台の設営後、難易度確認という建前で始まった男たちの競い合いは、セスの完全勝利に終わるかと思われた。

しかし……


シュッ……ダァン‼︎


「は⁉︎」


「へっ……まだまだ若いもんには負けらんねーぜ!」


そんなセスの澄まし顔を掠めて、遙か後方からシドの投げた豪速球が見事に的の中央に命中!

一瞬のセス天下に終止符を打った。


「おおお‼︎ さっすがー‼︎」


「シド爺のおかげで村の威厳は守られた!」


「おれらの村の英雄を讃えるぞー!」


ワー! ワー! パチパチパチパチ……


飛び入り参加で広場中の歓声と拍手を掻っ攫ったシドに、セスも悔しがる以上に感心して尋ねる。


「凄い技術ですね、シドさん。途中、垂れ幕を届けに来たついでに無理矢理参加させられたお孫さんなんて、的に届きもしなかったのに。どうやって身につけたものなんですか?」


「〜〜ったく、レミは軟弱で困る!……ま、オレに関しては昔取った杵柄ってやつさ。この村へ来るより前のことなんでな、すまねぇが死んだ婆様と村長さんにしか話してない秘密だ」


「そう言われると余計気になるなぁ……っていうか、結局シドさんも余所者なんじゃないですか」


「ばか言え〜。婆様と結婚したときから、オレだって完全にこの村の村人だぞー? ここで生き、ここで死ぬのさ」


「ははっ、なるほど……じゃあ、シドさんと結婚したら、サーシャもここの村人になるってことかー」


「藪から棒に何言ってやがる……あ⁉︎」


したり顔のセスの目線を追ったシドは、こちらへ駆け寄ってくるサーシャに気付いてたじろいだ。

嬉しそうなサーシャがシドの片腕をがっちりホールドするのを見届けることなく、セスは恋路の邪魔にならないように退散した。

背後では先の敗者たちが集い、新たな挑戦者を募り始めている。


「おーい! シド爺とセス抜きで2回戦やるぞ〜。参加者どんどん来いやー」


ワー! ワー!


優れた者がその強さ故に輪から外されることもある。

手持ち無沙汰になったセスは、新たな仕事を探そうと広場を歩き始めた。


***


「セス! 見てくださいっ。ここから……ここまで、ステラが作った飾りなのです♪」


「おおっ、すごいじゃないか。よく頑張ったな〜、ステラ」


「えへへ♪ ショコラちゃんが先生になってくれたおかげなのですよ〜」


装飾班の乾燥台には、ドライフラワーにする秋の花や木の実を使ったブーケとリース、カラフルに塗った木彫り人形が並んでいた。

人形は職人や農民たちを象ったものもあれば、シュシュを象ったものもある。

1番多いのは、三角耳でオッドアイの見慣れぬ魔獣を象ったものだ。

村長邸のドアノッカーにもなっているこの魔獣は、古くから村の守護獣だと言い伝えられている。


「そっか、ありがとうな、ショコラ」


「どういたしまして……」


ステラの隣に座っていたショコラは、照れ臭そうに会釈を返した。

その装いは、白のフリルブラウス、白をベースにところどころに黒レースを重ねたジャンパースカートとヘッドドレス。

今日のネリア以上に豪華な装いと言っても良さそうである。


「でもね……ブーケやリースは、きっともうステラちゃんの方が上手だよ。やっぱり、緑の精霊さんだから、植物の扱いが上手いみたい……」


「ありがとうなのです。ショコラちゃんはとっても優しいのですよ〜」


おっとりしたショコラと仲睦まじく微笑み合うステラ。

最初に会った頃はステラも子供のような姿だったため、成長した姿の今でも、子供たちから歳の近い友人として受け入れられている。


「そういえば、ネリアは……」


セスが見回すと、ネリアは開けた場所で他の子供たちにダンスのステップを教えているところだった。

村の踊りは祖国の舞踏会で踊るものとは全く異なるが、運動が得意なネリアは村人から習ってすぐにマスターしたのだ。


「お祭りの日は、人も灯りも多いから……子供もね、いつもより遅くまで外に出てていいんだよ。……わたし、お祭りの日はガトーと踊る約束してるの……」


「ステラも後で習おうと思ってるのですよ♪……ですから、そのぅ……セス? 当日は、ステラと踊ってくれませんか⁇」


ステラは少しモジモジしながら上目遣いで尋ねた。

可愛すぎる! セスに効果は抜群だ!


「あ、ああ! 勿論、いいに決まってるだろー」


セスがにやける口元を手で隠しつつ答えると、ステラはパァっと満面の笑顔を咲かせる。


「絶対っ! 絶対の約束なのですよ! えへへ……ステラ、収穫祭がとっても楽しみなのですよ♪ セスとのダンスは勿論、それ以外もぜ〜んぶ! ステラにとっては、人間のお祭りって初めてのことだらけなのです。海開き祭も楽しかったけど、今回は準備から参加してる分もっと楽しくなるのです。なんといっても大好きなこの村のみんなで作るお祭りですから♪」


「ステラ…………そうだな。俺も本当に楽しみだよ。絶対に最高の祭りにしよう」


「はいなのですっ♪」


「そのために、今は準備を頑張らないとね……はぁ……ガトーってば、いつ戻ってくるんだろう……?」


一方、その頃……


的当て屋台の2回戦では、クールな悪戯少年ガトーが自作の強化スリングショットで的を破壊。

得物を没収された上でのお説教コースとなったことで、準備をサボる男たちの争いは今度こそ完全に終わりを迎えた。



2023/07/08

「ステラにとっては初めての人間のお祭りだし」という台詞が、既に海開き祭に参加後だったので間違ってると気付いて微修正

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