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12ー2.看病(その2)


「セス……?」


「ステラ……」


「‼︎」


ステラが恐る恐る寝室へ戻ってみると、上衣を脱いだセスがベッドから落ちてタンスにもたれかかっていた。


「悪い……水を飲もうとして、溢した……着替えをとってくれ……」


「はいっ、今すぐになのですっ……」


ステラはセスを抱き起こしてベッドに腰掛けさせると、タンスを開けて清潔なパジャマを取り出した。


「着替え、お手伝いするのですよ」


「そこまでしなくていいよ……俺、今汗臭いし……」


「汗が気になるなら、先に体を拭きましょう。すぐに用意しますねっ」


「ステラ…………すまない……」


「いえいえ、なのですよ」


ステラはテキパキと盥に新しい水を汲んで運んでくると、清潔なタオルをよく絞ってからセスの肩へ当てた。

日頃の鍛錬の賜物、しっかりと引き締まった筋肉質な体は、セスが努力家であることを証明している。

ステラはそんなセスを心から尊敬していたし、だからこそ痛々しい姿を見るのは辛かった。


ふきふきふき……


「っ……ふふ、ちょっとくすぐったいな……それにやっぱ世話されるのって恥ずかしい……」


「恥ずかしさなんて気にしてる場合じゃないのですよ。弱ってるときは、素直に頼ったり甘えたりしてほしいのです。いつも頑張ってるセスのため、ステラも頑張りたいのですから。な〜んでも言ってほしいのですよ♪」


「うん…………ありがとな、ステラ」


肩から首へ、腕から脇へ、背中から腰へ……ときどきタオルを濡らし直しながら、優しく拭いていく。

静かな部屋に響く水音はなんだか心地よくて、心もスッキリさせてくれるようだ。


「ステラ」


ふと、セスの手がタオルを持ったステラの手に重ねられ、その動きを止める。


「貸して。前は自分で拭くから……」


「は、はいなのです……」


ステラは何故か急に自分まで熱が移った気がして、自身のほっぺたを両手でぎゅっと押さえながら、セスの背中を見つめた。


***


果物以外に薄めた野菜スープも少し摂り、夕方にはだいぶ回復した様子のセスだったが、夜になると再び熱が上がって苦しみ始めた。

セスに『あ〜ん』で食べさせることに一生懸命だったステラは、その後、自分が夕食をとるのも忘れたまま付きっきりで看病を続けていた。


(セスの熱、まだ下がらないのです……)


時刻はもう日付も変わる頃。

水道が一階にしか無いので、水汲み往復のために廊下の灯りは付けっぱなしにしていた。

一方、眠りの妨げにならないように暗くしたままの部屋では、カーテンの隙間から差し込む月明かりだけが視覚の頼りだ。

それなのに分厚い雲はしばしば清浄な月光を遮り、ステラを真っ暗闇に封じ込めようとする。


(困りましたね。霊体だった頃と違って、今の体じゃ夜目が利かないのですよ…………そうだ!)


ステラはふと思いついて、タンスの横に立て掛けられていたセスの剣を手にとった。

そろそろと少しずつ鞘から抜き出してみると、優しい緑の光が部屋中にぼんやりと広がってゆく。


(ほっ……この光なら、セスの邪魔にもならないのですよ)


ステラはフットベンチに鞘から半分抜いた状態の緑の剣を置き、セスの寝顔を見つめた。

その表情はいまだ苦しみを浮かべている。


(セスのためにできること、本当に何でもしてあげたいと思っているのに、今のステラにできることは何にも無いのです。ステラが精霊として欠陥品だから、セスのことをちゃんと癒してあげられないし、魔脈のお手伝いもあのとき以来できていない……ステラ、本当に役立たず。ダメダメのダメ精霊なのですよ……)


大好きなセスの苦しみを取り除くことができず、ステラは自身の無力さを嘆いた。

自己嫌悪に押し潰され、じわじわと涙が滲んでくる。


(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……セスがこんなに苦しんでいるのに、ステラは何もしてあげられないのです……本当は精霊として、もっと思い出さないといけないことだってあるはずなのに……なんで……)


悔しさに握りしめた手は、悴んで痛む。

セスの額の濡れタオルを何度もやりかえたり、盥の水が温くなる度に階下で汲み直している内に、ステラの細い手はすっかり冷え切ってしまっていた。

それでもまたステラがセスの額へ手を伸ばしたとき、ステラの冷たい手をセスの熱い手が掴む。


「えっ……セス?」


「……ステラの手……気持ちいい……」


セスはステラの手を自分の顔に当てて、うわごとでそう呟いた。

セスの熱が、冷え切ったステラを温めていく……


(ありがとう、セス……ステラ、ずっとそばについているのですよ)


そうして、2人の温度はゆっくりと溶け合い、中和されていった。


***


翌朝。

窓から差し込む朝日の眩しさから逃れるように、ステラはもそりと寝返りをうった。

柔らかな布団は温かく、大好きな人の匂いがする。


「うぅ〜ん……セス……ぅ?」


「おはよう、ステラ。昨日は1日中、看病ありがとうな」


「ふぇ⁉︎ せっ、セス‼︎ お、おはようなのですっ!」


すぐそばから聞こえてきた爽やかな挨拶に、ステラはびっくりして飛び起きた。

そこは自室ではなく、セスのベッドの上で、ステラはしっかりとセスの布団に包まれていた。

夜中に寝落ちしたステラを、早起きしたセスが自分と入れ替わりでベッドに寝かせたのだ。


「セス、体はもう大丈夫なのですか?」


「ああ、おかげ様でな。今朝はもう、スッキリ快調!」


既に着替えも終えたセスは、軽く体操の動作をして見せた。


「それは良かったのです! セスが元気だと、ステラはとっても嬉しいのですよ〜……ふあぁ……すみません、あくびが……」


「あははっ。ステラ、昨夜遅くまで看病しててまだ眠いだろ? もう少し休んどけよ。今日の朝食は俺が用意するからさ」


「はいなのです……お言葉に甘えて、もう少しだけ、このままで……」


ステラは眠気を言い訳に、セスの温もりと香りにもうしばらく包まれていることにした。

朝食が出来る頃には、昨日のダンシングシュシュが約束通りセスにも踊りを見せに訪れ、2人と1匹は賑やかな食卓を囲んだ。



3月は多忙なので次の更新は4月予定。

今回は2月までに更新しよ〜と思ってたら末日になったんで次も4月末かと思います。

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