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12ー1.看病(その1)

激甘回再び!


「カオルコ先生、セスはっ……セスはどうなってしまうのですか⁉︎」


「落ち着いて、ステラさん。そんなに心配しなくても、命に別状はありません。ただ、熱が下がるまでは安静にお願いします」


「でもでもっ、セスはとっても苦しそうなのです……熱、お薬で下げられないのですか⁇」


国境際での騒動翌朝、セスは高熱で寝込んでいた。

前夜はただ強い疲労感があるだけだったのだが、今朝は起き上がることすら叶わず、こうしてカオルコ先生に往診に来てもらっている。

また、ネリアも早朝から気になって様子を見に来てはいるが、昨日の光景がトラウマとなってセスを直視できずにいた。


セスが負傷した経緯については、カオルコにもステラにもありのまま伝えるわけにはいかないため、落石に押し潰されたことにしておいた。


「昨日、固定魔法で急激に修復されたセスさんの全身の細胞は、今、昨日の損傷の情報をリセットしようとしています。この発熱は、セスさんの体が立ち直るために必要な過程で生じているもの。薬で下げても回復を遅くするだけ、またすぐに発熱します。……ごめんなさいね、希望に沿えなくて」


「い、いえ! カオルコ先生には感謝しているのです! セスの状態がわかって良かったのですよ……あのっ、それではステラに何かできることはありませんか⁇」


「今日一日は食事も困難でしょう。でも、汗をかくから水分補給はしてあげてください。食べ物でも、すりおろした果物くらいなら栄養補給に良いですよ。本人に体が動かせるくらい回復したなら、体を軽く拭いて着替えもした方がいいですね。あと、熱もあまり高くなり過ぎると新たに別のダメージが生じてしまいますから、頭だけでも濡れタオルなどで冷やしてあげてください」


「はいなのですっ! 少しでもセスの負担を和らげるため、ステラ、一生懸命看病するのですよ‼︎」


「それと、くれぐれもお静かに」


「!……はいなのです……」


ステラはハッとして小声になった。

セスの様子を見てみても起きる気配は無いが、苦しそうにうなされている。


「ステラ、看病なんて初めてだけど、ネリアも一緒だから心強いのですよ」


ステラは恐怖心を振り払うように、隣のネリアへ呼びかけた。

しかし、ネリアは視線を逸らすように俯く。


「ごめん、ステラちゃん。私もまだ本調子じゃなくて……セスの看病、ステラちゃんに任せちゃってもいいかな?」


「!……そうなのですね……ネリアも昨日はとっても大変だったのです。ステラの方こそ、気が利かなくてごめんなさい。セスのことはステラに任せて、ネリアはゆっくり休んでほしいのですよ」


「うん、そうさせてもらう。ありがとう……セスをよろしくね」


「はいなのです」


本当はネリアもセスに付いていたかった。

だがきっと、今のセスを見ていると涙を堪えきれなくなってしまう。

そうなればセスもステラも余計に不安にさせてしまうだろう。

これ以上は辛さに耐えきれそうになくて、ネリアは早くこの場から逃げ出したかった。


***


(みんな帰ってしまいました……今、セスのお世話ができるのはステラだけなのです! ステラ、しっかりするのです‼︎ セスのために頑張るのです‼︎)


カオルコもネリアも帰り、静かになった部屋で聞こえるのはセスの苦しそうな寝息と時計の秒針。

ステラが心細さに怯えながらも繰り返し気合を入れていると、不意にセスが咳き込む。


「けほっ、けほっ……ぅう……み、水を……」


「は、はいなのですっ……セス、お水なのですよ……」


「ん……」


………………


………………


「……ふぅ」


カオルコが置いていってくれた吸飲みでなんとか水を飲ませると、セスはまたすぐに眠ってしまった。

ステラはセスの口元に溢れた水をタオルでそっと拭き取って、ほんの少し安心する。


(ふぃ〜〜……まずはお水を飲ませることができたのです! 次は果物も用意するのですよ! 体力回復のパワーアップルと疲労回復のヒーリンゴを一緒にすりおろして、ステラの大好きな蜂蜜も混ぜてみるのです! きっとバッチリ元気になれるのですよ!)


ステラはセスの濡れタオルをやりかえてから、ドアをそろりと抜けてキッチンへ向かった。


***


果物と新しい水を用意し、部屋に戻ってきたステラ。

しかし、セスはずっと苦しそうに眠り続けているばかりだ。

時計の針はいつもよりうるさく感じるのに、その進みはいつもよりずっと遅く感じる。

待機中は読書するつもりが、いくら本を開いていても内容が全く入ってこない。


(カオルコ先生は1日寝れば回復するはずと言ってたけど、1日ってすごくすごーく長いのですよ……セス、まだまだ辛そうなのです……ステラが変わってあげたいのですよ……)


辛そうなセスを前に、何もできない歯痒さを噛み締めるステラ。

そんなとき、不意に窓が叩かれる。


ガタガタガタガタ!


「みゅんみゅんきゅっ! みゅっきゅ!」


「はぅあ⁉︎……シュ、シュシュさん⁉︎」


「みゅきゅーー」


ガタガタ‼︎


「はわわ……今は静かにしてほしいのですよ〜……」


カチャリ……


突然訪ねてきたシュシュを、ステラは窓を開けて部屋へ入れた。


「みゅっきゅー‼︎」


「し〜っ……シュシュさん、今はセスが寝ているので静かにお願いしますよ」


「みゅきゅ、みゅきゅみゅきゅみゅっきゅん! みゅみゅきゅきゅん! みゅっきゅん!」


「おおっ。シュシュさん、今度お祭りの踊り子さんをやるのですか〜。おめでとうなのですよ♪」


「みゅっきゅ〜……みゅきゅ‼︎」


「あっ」


興奮しているシュシュはステラの脇を抜け、セスのベッドへ飛び乗ろうと大ジャンプした!

ステラは大慌てでそれをキャッチし、セスの腹筋がトランポリンにされるのを阻止した。


「だ、だめですよ〜……今はセス、絶対安静なのです……っ」


「きゅー……みゅ! みゅみゅっきゅ〜♡」


「はわ⁉︎」


ガタタン!


しかし、シュシュは柔らかいボディを活かしてしゅるりと脱出。

サイドテーブルの上に乗ると、ステラがセスのために用意していた『すり林檎の蜂蜜がけ』をペチャペチャと舐め始めてしまった。


「みゅっきゅーみゅ〜みゅっきゅん♪」


ペッチャペッチャペッチャ……


「えぇ……踊りの練習を頑張りすぎて、お腹がペコペコなのですか?」


「みゅ〜みゅっきゅきゅっきゅー! みゅきゅきゅ、みゅきゅ‼︎」


「はわわ……踊りなら別の部屋で見せてもらうのですよ〜。セスの前ではしーっなのです」


「みゅー」


再び、ステラはセスの濡れタオルをやりかえてから、そろりとドアを抜けてキッチンへ向かった。


***


「みゅみゅみゅみゅみゅみゅ、きゅーきゅきゅん♪ きゅきゅきゅきゅきゅきゅ、みゅーみゅみゅん♪ みゅきゅきゅきゅみゅみゅ、みゅーきゅきゅん、みゅみゅーみゅきゅーきゅきゅん♪」


ドッヤァアア……‼︎‼︎


「わ〜、すっごく上手なのですよ♪ シュシュさん、よく頑張りましたね〜」


パチパチパチ……


「みゅっきゅん‼︎」


短い手足をビシっと決めて全力でドヤってくるシュシュに、音を抑えた控えめな拍手を送るステラ。

一階、セスの部屋の真下で踊り狂うシュシュと過ごしながらも、ステラはセスのことが気がかりでしょうがなかった。


「素敵な踊りをありがとうなのです、シュシュさん。でもごめんなさい、ステラはそろそろセスの様子を見に行きたいのですよ。セスがまた元気になったら、今度はセスにも踊りを見せてあげてくださいね」


「みゅきゅきゅん!」


ひとしきり踊りまくって満足したシュシュを見送り、ステラは再び果物と新しい水差しを持って2階へ向かおうとした。

そのとき……


ドタタン‼︎


「⁉︎……セス⁇」


寝室から何か床に落ちる大きな音がして、ステラは心配で泣きそうになりながらセスの下へ急いだ。



「きゅ」と「みゅ」がゲシュタる……

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