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11ー6.九死に一生

次回から優しい世界に戻ります。今回まで我慢……


「退却するぞ! カーマイン!」


「はぁ⁉︎ なんでだよ⁉︎ オレ様はまだまだ戦えるぜ⁉︎」


「命令は『生け捕り』だ! こんな激戦ではお前も加減できんだろう⁉︎」


「なるほど……それに、うっかりテメーがくたばっちまってもオレ様が道連れだ。仕方ねぇな!」


シアンの指示にカーマインは渋々従うことにした。

敵はまた新しい魔法陣を展開し、今度は出来損ないの泥人形のような即席の魔獣を出現させていく。

あるものは角、あるものは爪、あるものは牙、あるものは針のついた尾を持ち、翼で飛ぶものも脚で跳ねるものも様々に襲いかかってくる。


「あのメスガキも拾って逃げたいってんなら、テメーも舐めプしてんなよ! シアン!」


「ああ……わかっている!」


ザクッ!……ヒュッ…………‼︎


シアンが剣先を地面に刺した途端、そこを中心に暗闇が広がった。

そこから伸びた細長い影が蔓のように魔獣たちを絡めとり、腐らせて溶かすように闇の中へ呑み込んでいく。

その光景に敵の意識が逸れたのを見逃さなかったカーマインは、素早く背後から飛びかかる!

だが、ギリギリのところで敵はさらに上空へと避ける。


シュウウウウゥゥ…………


「…………岩で潰した1匹しか駆除できなかったか。小賢しい人間どもめ。今に全滅させてやるッ……」


霧、花弁、蔓、岩石、そして闇……すっかり見通しの効かなくなった戦場を見下ろして、人間の敵は忌々しげに呟いた。


***


「ん、ううん……?」


「お嬢様、やっと意識が戻られましたね」


「シアンさん……⁇ ええっと……私……」


起き上がろうとしたネリアを、締め付けるような頭痛が襲った。

それだけでなく、全身には痺れるような違和感がある。


「もうしばらく安静にしていて下さい。体内魔脈の調子が整うのに、まだかかるのでしょう」


白シャツ姿のシアンが、ネリアに掛けていたコートを整えながら言った。

ネリアが気絶している間もずっと、ズレる度に掛け直しながら見守ってくれていたのだ。


「あーあ、起きちまったじゃねーか! どうせなら寝てる間にいろいろと悪戯させてくれりゃ良かったのによー……」


「カーマイン、お前はいい加減にしろ。お嬢様、ご安心を。気絶中は指一本触れさせてません」


ネリアが横たえられていたのは、アリスと会ったあの高い樹の近くだった。

枕になっているのは自身のボディバッグで、少し硬い。

傍らにはシアンがいて、少し離れた木陰にはカーマインがいて……


「セス……⁇ シアンさん、セスは……?」


いつも当たり前に一緒にいたはずの相棒が不在である。

ネリアは状況が飲み込めず、自身を苛む不安と焦りの正体を掴みかねていた。

何か思い出したくないことが、頭の奥からずるずると這い出してこようとしている。

まだ何も聞かされていないのに、ネリアの目からは涙が溢れはじめていた。


「なんだメスガキ、ま〜だ寝ぼけてやがるのか? お前の男なら、さっき大岩に潰されて死んじまっただろーがよww」


「⁉︎」


言葉に迷っていたシアンに代わり、無慈悲なカーマインが告げた。

気絶直前の光景がフラッシュバックし始め、過呼吸に陥ったネリアは顔を覆ってうずくまる。


「カーマイン、言葉を選べ! 思いやりが無いなら黙ってろ」


「怒んなよ、シアン。オレ様は事実を教えてやっただけだろーがww 所詮管理士なんか、ガチ戦闘じゃ即死のザコだもんよww 今はもうペシャンコの肉片だぜww」


「カーマイン、自分は知っているぞ……お前が魔脈管理士にコンプレックスがあること! お前が長年愛用しているシャベル、元々は魔脈を掘り当てようとして使っていたそうじゃないか? お前の下らない妬み僻みで、才ある若者に八つ当たりするな!」


「バーカ! バーカ‼︎ オレ様はただマヌケどもを落とし穴に埋めるのが趣味のお茶目な少年だっただけだっつーの!……それによ、妬み僻みといえばお前の方がやべーだろーがよ? なんせお前の能力は……」


「死んで、ない……‼︎」


「「!」」


言い合いを始めた大人の男どもを遮って、ネリアが震える声を絞り出した。


「きっと、死んでなんかない……! セスは、だって、まだ死体も確認してないし! 絶対生きてる‼︎……シアンさん、セスを助けに戻りましょう! セス、今頃大怪我して動けなくて、1人で途方に暮れてるはず……早く助けないと‼︎」


「お嬢様……」


「メスガキ、お前マジでバカだな」


必死でシアンに縋り付くネリアへ、カーマインは冷たく言い放った。


「ザコガキのペシャンコ死体回収に、わざわざオレ様たちを付き合わせる気かよ? さっきの戦闘、思い出しただろ? あの敵はまだ近くにいるかもしれねーぞ?……それでもオレ様たちを危険に巻き込もうってんなら、それなりの誠意を示してみせろよ」


「誠意……?」


「だってそうだろww オレ様たちに命賭けろってからには、そっちも『なんでもします』って覚悟を見せねーとww とりあえず服全部脱いでそこに四つん這いになれ。そんで懇願しろ。助けたいんだろ?」


「カーマイン‼︎ お前という奴はどこまで下衆なんだ⁉︎ 賭ける命も無いくせに……ん⁉︎ お嬢様、何を⁉︎」


カーマインへの怒りに震えるシアンの横で、ネリアはブラウスのボタンを外し始めていた。

しかし、焦りと恐怖で指が震えて上手く外せず、涙が落ちてますますボタンが滑ってしまう。


「な、なんでもします、から……! だからっ、だからっ……セスを……っ」


「お嬢様、どうか御自身を大切に。こんな奴の言いなりにならずとも、彼の状態は我々が責任を持って確認してきます。ここでお待ち下さい。……おい、行くぞカーマイン」


「チッ……仕方ねーなー……」


シアンはネリアにコートを預け、カーマインを伴って出発しようとした。

ネリアは慌てて2人の後を追う。


「待って、くださいっ……私も! 一緒に行きます、セスの所へ!」


「ですが、危険で……」


「お願いします! 行かせてください‼︎」


「いーんじゃねぇの? 逃げるだけなら足手纏いが居ても余裕じゃん」


予想外にネリアをフォローしたカーマイン。

その言葉に押されてシアンが歩みを早めた背後で、カーマインはネリアにコソッと耳打ちする。


「言質とったからな。なんでもするって約束覚えてろよ」


その瞬間のゾワリとした恐怖も、セスを失うかもしれない恐怖がすぐに掻き消し、ネリアはただただ相棒を救うことだけを願って山道を急いだ。


***


現場に戻ると、先の敵も、花弁や即席魔獣たちの痕跡も消えていた。

残っているのは枯れた巨大蔓と無数の岩石だけだ。


「この岩ですね」


「はい……」


「どーせグロ死体になってるぜww 見たけりゃ止めねーけどよww」


「そうとも限らん。彼があの剣の特性をよく理解していたならば、或いは……」


シアンはカーマインにだけ聞こえるような小声で言った。

気が動転しっぱなしのネリアは、自身の鼓動がうるさくて何も聞き取れなかったし、気にも留めなかった。


ザクッ‼︎


「あらよっと!」


カーマインはシャベルを岩石に突き刺すと同時に固定魔法をかけ、肉体強化魔法による腕力で軽々と持ち上げた。


「セス‼︎」


岩の影がまだそこにかかっている内に、ネリアは地面に出来た窪みへ滑り込んだ。

カーマインはこのまま岩を下ろしたら面白いだろうなと考えたが、後が面倒になるのでやめておいた。


「セス‼︎ ああ! まさか! そんな方法で……‼︎」


ペシャンコではなく、ちゃんとした人間の原形で倒れているセス。

その左足に刺さった緑の剣を見て、ネリアはセスがとった生存方法を察した。


人型精霊ステラがセスの剣にかけた強力な固定魔法の呪い。

それはドロドロのペーストから人体を再構成することも可能なのかもしれない。

その奇跡的な形状記憶効果によって、セスは蘇生されたのだ。

セスの体がどんな状態から今の形まで修復されたのか、ネリアは考えるのも恐ろしかった。

ただ、セスの体は温かく、確かに呼吸している。今はそれだけで嬉しかった……


***


何も感じない真っ暗闇から、じわりじわりと全身の痛覚が戻ってきて、発狂しそうなほどの灼熱が全身の輪郭を満たしていく……どれだけ耐えたのか時間の感覚もわからないが、それはやがてゆっくりと収まっていく……


数時間ぶりに差し込んだ光の眩しさに、セスはなかなか目を開けることができなかった。

閉じたままで眼球を動かし、少しずつ薄目を開いてみると、間近にあったネリアの顔からポタポタと温い涙が降ってきた。


「セス……セスっ」


「…………ぁ……ね、り、ぁ……」


セスは相棒に呼びかけてみた。

声の出し方を忘れたみたいだ。自分の声のはずなのに、自分の思うままにならない。

乾いた唇をパクパクと動かしても、言葉にならない空気がヒュウヒュウと漏れ出るばかり。

発声が空振りするとでもいった感覚だ。


「だい……だい、じょうぶ、だ……ねり、あ……おれ、は、だいじょぶ……」


セスは相棒を安心させようと、どうにか声を絞り出した。

だが、その声はあまりにも弱々しくて情けなく、自分のものとは信じられなかった。

死にかけの老人のようなカラカラの声だ。


「セス……良かった! 生きててくれて、本当に良かった……」


ぎゅむ〜〜っ


ネリアはセスの頭を自身の胸に抱き寄せた。

ブラウスのボタンが外れて前が大きく開いているため、生の乳の吸い付くような肌がモロに顔を包み込んでいる。いい匂いもする。

しかし、せっかく巨乳幼馴染がたわわな胸を惜しみなく押し当ててくれているというのに、今のセスにはその有り難みを感じる余裕も無かった。


感覚はあるはずなのだが、自身の体と心の間に何か仕切りの挟まったような、ラグがあるような、自身の感覚を自身のものと思えないような違和感から抜け出せないのだ。


セスはネリアとシアンに肩を借りながら山道を降りた。

道中カーマインは3人にあれこれと侮辱の言葉を投げてきたが、誰も相手にしてやらなかった。

例の高い樹の所まで戻ってきたときには、セスも自分で歩いて帰れるくらいに回復していたので、そこで軍服コンビとは別れ、ネリアと2人で村へ戻った。

村へ着くまでネリアはずっと泣いていた。



実はいつも投稿前にLINEで文章チェックお願いしてる人(過去の合作相手。作品はR18送りになった)がいるのですが、カーマインの台詞はその人からいくつかNGくらってマイルドに直してたりします。一応マイルドマインなんです……

カーマインざまあ展開はまだ先ですが、あります。

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