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11ー4.シアンとカーマイン(その2)

2021/08/30シアンの台詞イマイチだったのを一部変更。変更した没台詞は一応あとがきに残しときます。


「結局強者こそ正義なんだよww 力のあるところへ金が集まり、正義は金で買えるからなww」


「…………」


家に累が及ぶとなれば、流石にネリアも黙った。

可哀想なネリアに加勢してやりたい気持ちはあるが、出しゃばっても役に立つどころか状況を悪化させるだけだろう。

軍人、有力者の娘、人柱の親族……とんでもない面子の揃った場で、セスは立場が弱く発言権が無いことを痛感していた。

そんなセスに代わって、シアンが反論する。


「だがカーマイン、お前が何より買っているのは恨みだ。強い感情は金で御すこともできないと覚えておけ」


「ザコは感情あってもザコだけどなww いっそ無い方が楽だぞww」


パキンッ!


カーマインは何事もなく起き上がる動作をしただけで、一瞬で氷柱を霧散させた。

それから一度伸びをしたあと、今度は腕で頭を支えながら横向きに寝転がった。


「……今に神罰が下るわ」


足元のカーマインを見下ろしながら、ネリアは静かに呟いた。

それを聞き逃さなかったカーマインは笑う。


「その捨て台詞は聞き飽きたww どーせ日頃たいした信仰心も持ってねーくせに、都合のいい時だけ神を持ち出してきてんだろ? 無力な弱者の神頼みほど卑しいものもなかなかねーぜww そもそも、オレ様がこれだけ力持ってるってことは、オレ様こそ神サマに愛されてるってことだろww やーい、バーカ、やーい、ギャハハww」


「っ……」


「つーかメスガキ、今日だけでオレ様に3回も死ねってゆったよなー。ボキャ貧な上に人権無視だろww まぁじ酷くね?」


ネリアが黙っても構い続けるカーマインに、シアンは溜息を吐いた。

本人が反論できない以上、口喧嘩の相手は完全に自分の役目だ。

そうしないと、カーマインは可哀想な少女を暴言のサンドバックにし続けるだろう。


「お前がお嬢様にしたことを考えれば当然だろう。己が欲望のため他者の人権を侵害する獣に、人権など不要。不幸から守られることは、幸福の追求よりも優先されるべきだからな」


「けどよ、このメスガキが酷い目に遭って喜ぶ人間は多いぜ? 他地区のビンボー人どもは中央区の金持ち連中が大っ嫌いだからなww 周りが豊かだと自分は惨めで、周りが惨めだと自分は満たされる。幸不幸なんて結局相対的なもんだ。いくら理想を掲げても犠牲は無くせないのが世の中だぜww」


「真の幸福とは主観的で絶対的なもの。客観的で相対的な尺度しか持たぬ者には辿り着けまい。それに理想は、完璧に叶わずとも近づくために目指し続けるべきだ。完璧にならないことを理由に堕落していいことにはならない」


「そうやって誰かを非難するときは、自分が正しい気分になれるよなー? 綺麗事を並べて偉そうに説教するくせに、テメー自身はどうだよ? ガキどもの違反を見逃し、テメーの失態を隠させる卑怯者。矛盾だらけの詭弁マスター。詐欺師の才能があるぜww」


「ルールさえ守っていれば何をしていいわけでもないし、ルールが必ずしも正しいとは限らない。法だって時代が進むにつれて変わってきた。その時々の弱者を犠牲にした悪法も多かったからだ。真に守るべきは人であり倫理である。法やその他のルールはその補助に過ぎない。悪事の言い訳にするなら、ルールが悪にかわることもある。ルール破りが悪とは限らない」


「いやいやいや、そういう不正でも周りに歪みを拡げてくんだぜ? 真面目にやってる奴らは、たとえ些細でも狡さを許せないからなww 妬む、僻む、歪むww」


「生憎、この場にそれほど真面目な者はいない」


「そりゃそうだww 各々が己を庇うために罪を許し合うww 後ろめたいことが多い奴ほどお優しいww」


「お前は開き直りすぎだ。そもそも、見つかったのはお前の単独行動が原因だろうに」


「それも見張りの手落ちになるだろーがww」


「そうだな。監視役は自分だ。カーマイン……お前の生殺与奪が自分に委ねられていること、よもや忘れてはいまいな?」


「そっちこそ、オレ様という戦力を頼らねーと任務を達成できねーだろww 失敗したら今の生活は終いだぜ?」


「わかっている。しかし、いざとなればこの命に替えてもお前を殺す。呪印を忘れるな」


「はいはい……せーぜーしっかり見張ってろよ、お目付役サンww」


言い合いに飽きたカーマインは、懐からスキットルを出して酒を呷りはじめた。

どこまでもマイペースな男である。勿論、火の国では軍人の任務中の飲酒は御法度だ。

ネリアは心配そうな表情でシアンを見上げる。


「シアンさん、呪印って……?」


「カーマインへの抑止力として、自分が死ねばカーマインも死ぬように呪印が施されているのです。これにより、カーマインは自分を殺すこともできず、自分が死なないように守らなければならない。もしカーマインが逃亡した時は、自害することで暴走を止めることができます」


「自害だなんて、そんな……!」


「悪を見逃すのも、新たな犠牲を許す悪。自分も死にたくはありませんが、こいつの好きにさせるわけにはいきません。しかしながら、お嬢様、今回のようなことが再び起きて間に合わない可能性もあります。そうならないように、我々の任務が終わるまでこの辺りには近づかないで頂きたい」


「え……それだと、魔脈の調整作業は……」


「中断して頂きたい。または、活動範囲をもっと村に近いエリアに限定して頂ければよろしいかと」


シアンの要求に、ネリアは困った顔でセスを見た。セスは落ち着いて確認する。


「つまり、俺たちに手を抜けと言うわけですね」


「そうなる」


「いつまで?」


「わからない。こちらとしてもなるべく早く片を付けたいと思っている。終わればこちらから連絡する」


「そうですか……わかりました。では、範囲はどうしましょう?」


「長くこの山を見ていた君たちなら、ここまで登ってくる途中に一際高い樹があるのは知っているな? あの樹が生えている地点を、登っていい高度の目安に考えてくれ」


セスもネリアも頷いた。シアンが言っているのは、先程アリスが登っていた樹だ。

遠目に見たとき、周囲から1本だけ飛び出して見える。目印に充分な目立ち様だ。


「……くれぐれも、今回のことは他言無用で頼む」


「はい」


返事はしたものの、セスの中では後ろめたいことが渦巻いていた。

制服違反のこと。極秘任務中に見つかるというシアンたちの失態を庇うこと。カーマインのネリアへの蛮行を黙秘せざるを得ないこと。魔脈管理士としての仕事が手抜きになること。

そして、ステラのこと……


実は、セスとネリアは示し合わせて、祖国への報告書の中でステラに関する情報を誤魔化していた。人型精霊ではなく、ただの中型精霊だと。

なぜなら数年前、祖国が研究を目的とした『人型精霊生け捕り作戦』に失敗していたからだ。


祖国にも、村にも、後ろめたいことだらけだ……

自己嫌悪にがっくりと項垂れたセスを、シアンは励ますように諭す。


「今はもうあの村に対する思い入れもあるだろう君たちに、信頼を裏切らせてしまってすまない。それでも、今の君たちに出来る範囲での仕事に専念することが、あの村への誠意になると信じてくれ」


「正しくは『思い込んでくれ』だなww 範囲限定する時点で手抜き不可避なんだからよww」


不意にカーマインがツッコミを入れてきた。

周りには空になったスキットルが5つほど転がっている。


「空気を読め、カーマイン」


「読んだからつっこんでんだよ……来るぞ」


カーマインが急に声を低くして忠告した。

その直後、空のスキットルがカタカタと鳴り、地面が揺れはじめる。



人柱さんについては火の国編のあるカップルと関わる人物ですが、地の国編のある人物とも関係が深いので番外編でいくらか正体バラしてく予定……


2021/08/30訂正前の没台詞部分めも「なんでも型通りにすればいいわけでもない。適した形が他にあればそちらを選択する。固いものは周りを傷つける。柔らかさも必要だ。ルール破り、狡さ自体は悪と限らない。重視すべきは理由と結果。悪事の言い訳にするなら、ルールが悪に変わることもある。自分の狡さは軋轢を避けて平穏を求めるもので、お前のように徒に誰かを傷つけない」(言い訳にしか聞こえなくてイマイチ伝わりにくかったので没に)

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