11ー3.シアンとカーマイン(その1)
ギスギス回。
ネリアVSコンプラ無視の糞ガキ屁理屈おじさんVS無表情綺麗事おにいさん
ネリアの無事を確認すると、シアンはすぐにセスの縄を解きにかかった。
「君も怪我はないか?」
「なんとか大丈夫そうです……あの、軍の方ですよね? さっきのは……⁇」
セスは痛む体をさすりながら起き上がり、先の軍服男が飛ばされていった方向を見た。
シアンも同じ方向を見遣りつつ、苦々しい声で答える。
「アレか……アレはカーマインという。人格に致命的な問題はあるが、戦力としては優秀なのでな。上の命令で仕方なく組まされている。流石のアレも、国内ではいくらか大人しくしてたんだが……今では先の有様だ」
「さっきのも本当に軍人なんですね……」
「目付役の自分が来た以上、もう君たちを襲わせたりはしない。しかし……さっきは少し目を離した隙に、よりによってお嬢様をあんな目に遭わせるとは……本当に何度殺しても殺したりない奴だ……ッ」
無表情な男だが、最後の絞り出すような呟きには、積もり積もった憎しみがありありと滲んでいた。相当である。
「ネリアとは知り合いなんですか?」
「ああ、そうだ。君がセス君だな?」
「俺のことも知ってるんですか⁇」
「少しな。自分は疎遠になった後だったが、先生が養子を迎えられたと聞いた。お嬢様と同じ魔脈管理士の才能を持ち、歳も近い、と」
シアンがネリアをチラリと振り返ると、ネリアは寄り添うようにシアンの隣へ並ぶ。
まるで、歳の離れた兄を慕う妹のような雰囲気だ。
「この人はシアンさん。パパの学校の生徒さんだったんだけど、普通の生徒さんたちとは違って、特別に目をかけてたお弟子さんだったの。私がまだ小さいとき、よく遊んでもらったんだ。セスにとっては兄弟子ってことになるかな」
「自分の場合、養子でもなければ魔脈管理士志望でもなく、普通に寮暮らしで軍人志望でしたがね。珍しかったことといえば、本来なら中央区で暮らせないほど貧しい出自だったことくらいでしょうか」
剣豪である父の家で、実子であるネリア、養子であるセスは、魔脈管理士になるための修行に励んできた。
だが本来、ネリアの父が教える『中央区魔剣士剣術学校』は、全寮制の軍人養成機関である。
ネリアの父も元は優秀な軍人であったが、体内魔脈を損傷して長時間の魔力行使ができなくなったため、退役して後進の育成に努めることにしたのだ。
ネリアの実家は、軍の重鎮たちが軍備の相談で頻繁に出入りしているような名家である。
「シアンさん、もう長いこと家に来てくれないから、2度と会えないのかと思ってましたよっ」
ネリアが少し甘えたような声で責めると、シアンは恭しく頭を下げる。
「すみません、お嬢様。長らく街から遠い魔脈汲み上げ地の警備を任されていましたもので。それにしても……お嬢様を見ていると、子供の成長とは早いものだと驚かされます。昔はあんなに小さかったのに」
「シアンさんは大きすぎるんですよっ、昔も今も!」
「確かに、昔もよく言われてました。この高さをお気に召したお嬢様から高い高いや肩車をせがまれていた頃が懐かしいです」
「ううっ、そこまで昔の話は恥ずかしいですよぅ……」
子供っぽく懐いた表情を見せるネリア。
対照的に、シアンの方は話す内容が親しげな割に淡々とした声で無表情だ。
2人の再会に水を差すようで悪いが、セスにはまだ確認したいことがある。
「失礼ですが、今回はどういった任務でこんな所に? こんな、国境近く……」
セスの問いに、シアンは鋭い目でじっと見つめ返す。
「そのことだが、実は極秘任務中でな。本来なら君たちにも知られてはいけなかったのだ。なので、ここで我々に会ったことは国へ報告しないでもらいたい……その方が、こちらとしても魔脈管理士の制服違反を報告せずに済む」
シアンが咎めるような咳払いを付け加え、セスとネリアはギクリとして互いの姿を見た。
そのとき、2人の視線の間へ割り入るように、頭上から人影が降ってくる。
…………ドスッ‼︎
「だーかーらー、悪いのはオレ様じゃなくて先に違反してたガキどもだろーがよ!」
「「⁉︎」」
傍若無人の武人カーマインは、シャベルを地面に突き立てるように着地した。
ネリアは瞬時にシアンの背後に隠れ、セスはその場で身構える。
緊張しながら見張る2人の前で、カーマインはどかっとその場に腰を下ろす。
「オレ様は悪いガキどもに罰を与えようとしてたんだぜ? 悪い奴には何したっていーだろ。オレ様が正義だ」
「罪の程度と罰の内容が釣り合ってない。何をしてもいいことにはならないし、お前に裁く権利は無い。お前の行動は世のためにならない、悪を口実にした更なる悪でしかない」
シアンは一歩も動かずに冷たい一瞥だけくれてやった。
カーマインが戻ってきた気配にも気付いていたし、言い分の予想もついていたのだ。
「お嬢様たちも、後ろめたいことを弱みに付け込まれたくないなら、常日頃から誠実な行動を心がけください」
「!……はい」
シアンに諫められたネリアのしおらしい返事に、カーマインは指を差して声を上げる。
「やーいやーい、怒られてやんの〜‼︎ いいか? 装いの説得力ってのは重要なんだよ! ガキどもだって、オレ様たちの格好見て自国の軍人だと思っただろww オレ様もな、メスガキの女の部分を強調しまくった格好見て『コイツは男を誘ってる』って思ったんだぜ! ギャハハハハww」
「〜〜ッ⁉︎ シアンさんっ! いくらなんでもこんな下品で下劣で不愉快極まりない男を軍人にしておくなんて、許されることではありません! いいえ、軍どころか社会にだって存在を許せない……こんな、他者を傷付けることを躊躇わない、思慮の欠片も無く和を乱す害獣! この世界から排除されるべきですよ‼︎」
ネリアはカーマイン本人と話すのを避け、シアンに縋りつきながら訴えた。
その様子を見たカーマインはますます面白がって煽り続ける。
「つーかお前、オレ様がさっきちょっと触っただけでこの騒ぎようかよ? そのくせ自分からそいつにベタベタベタベタ体当てまくってんのは無罪判定なんて、女は都合良すぎるよなぁww」
「ちょっとですって⁉︎ あんなっ……あんなこと、しておいて……ッ」
顔を真っ赤にしたネリアがワナワナと震えながらカーマインを睨みつける。
今日ほど余裕の無いネリアの姿は、付き合いの長いセスでも見たことがない。
「ちょっとじゃないってゆーなら、そいつらに具体的に説明してみろよww そこのザコガキも死角でよく見えてなかったみたいだしなww 血が上りすぎて言葉が出ないってんなら、オレ様がこの場で再現してやってもいいぜ?」
「死ねッッッ‼︎‼︎‼︎」
ガキンッ‼︎
ネリアが涙目で叫んだのと同時に、シアンが魔法で出した氷柱をカーマインへ落とした。
胴体より太い氷柱で地べたに押さえ付けられたカーマインは、それでもなおヘラヘラと笑い続けている。
固定魔法のおかげで無傷とはいえ、痛みすら感じていないかのようだ。
「調子に乗るなよ、カーマイン。哀れな男め。お前のように女の体ばかり求めている者は、真に愛される喜びも、愛する喜びも知ることがない」
「キモッww オレ様はオレ様だけを愛し、オレ様だけに愛されてればそれで充分だってのww」
「そんなに孤独が好きなら、この世界からの早期退場を願いたいところだ」
「お前の嫌味、センスねーぞww」
ガキッガキンッ‼︎
カーマインの氷柱を3倍に増やし、シアンは背後のネリアへ振り向かずに声をかける。
「相手が嫌がっているかどうかが分水嶺なら、自分がお嬢様に触れられるのは問題ありません。ただ、淑女たるもの、人前で異性に接触し過ぎることは慎むべきかと」
「……ごめんなさい」
シアンに促され、その背から離れたネリアはセスの隣へ移動した。
セスは励ますようにネリアの肩に手を置いたが、ネリアは俯いたままだ。
そんなネリアへ、カーマインは更に追い討ちをかけようとする。
「オレ様が特別に親切で教えてやるけどよぉ、メスガキの実家パワー頼ってもオレ様をクビにするのは無理だぜ?」
「……どーゆー意味?」
「そりゃあオレ様がオレ様だからww でも、オレ様だけでもねーぜ。力持ってんのは家もだ。オレ様は分家だが、本家サマは1番最近の『人柱』を祖国サマに献上なすったからなww 今じゃメスガキの実家より格上なんだよww ケンカ売って立場悪くなるのはそっちの家だぜww」
「「‼︎‼︎」」
ネリアもセスも思わず息を呑んだ。
火の国では、有事に備えて優秀な魔導士を固定魔法で保管している。
それが人柱だ。
人柱を輩出した一族は、国から多額の褒賞金や様々な特権を与えられるという。
勿論、人柱にかけられる固定魔法は、一般に普及している形状記憶の肉体固定魔法とは違って、国の公認魔導士たちが扱う高度な魔法だ。
仮死状態で完全固定し、効力が弱まる度に更新を繰り返すことで、半永久的に保管可能にする。
無期限で仮死状態にされる上、目覚めるとすれば緊急事態。
人柱が嫌で魔導適正を低く偽る者がいることも懸念され、火の国では戸籍管理と軍による定期的な魔導適正検査を推進している。
真の狙いは、国にとって脅威となり得る芽を摘むことではないかとも云われている。
とはいえ、人柱に選ばれるほどの魔導士なんてそうそういるものではなく、選ばれる可能性の無い多くの魔導士にとっては他人事でしかない。
火の国で1番新しい人柱が固定されたのは、大陸魔脈変動よりも前。
人柱となった魔導士本人についての詳細は伏せられているが、その実家は知っている。
古くからの軍人の家系だ。
シアンとカーマインは見た目と言動に反してカーマインが年上だったりします




