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10ー3.市場


「本当にいいのですか? セスはせっかくお休みの日なのに」


「最近、買い物はステラに任せっぱなしだったからな。今どんな物が売られているのか、俺も気になるんだよ」


「旬をリサーチ、なのですね♪ リーナもよく言ってるのですよ、トレンド発見〜とか、商機は日常の中に〜とか」


「ははは……リーナがあの性格で田舎に店構えてるのは謎だよなぁ」


午後はステラが買い出しに行くというので、セスも荷物持ちに付いて行くことにした。

村に来たばかりの頃よりも賑わった様子の市へ着くと、野菜売りのおばちゃんがニコニコしながら声をかけてくる。


「あら〜ステラちゃん、今日は管理士さんも一緒にお買い物かい? それともデート?」


「こんにちは! 今日も美味しいお野菜を買いに来たのですよ〜。オススメを教えてくださいなのです♪」


「それならこれを持ってって〜。息子の畑で収穫したての野菜だよ」


そう言いながらおばちゃんは、手提げ袋いっぱいに野菜を詰めてステラへ手渡す。


「これはとても立派なお野菜なのです! ええっと、お代は……」


ステラが店先の値札を見て計算しようとすると、おばちゃんは手を振ってそれを遮る。


「いーの、いーの! それはタダであげるよ。魔脈を回復させてくれてるせめてものお礼さ。管理士さんもステラちゃんも、この村に来てくれて本当にありがとうねぇ」


「どういたしまして♪ こちらこそ美味しいお野菜ありがとうなのです!」


「俺も、お役に立てて光栄です。もう一人の管理士にも伝えておきますね」


セスとステラは、おばちゃんに一礼して次の店へ行こうとした。

すると今度は背後から呼び止められる。


「おっ、そこにいるのはステラちゃんと管理士の兄ちゃんじゃねーか! 先月から畑の調子が昔に戻ってきてるのを日々感じるようになってな。あんたらには直接礼が言いたいと思ってたんだ。本当にありがとうな! 兄ちゃんたちは村の救世主だ!」


「本当になぁ。管理士さんたちのおかげで、うちの果樹園も今年の収穫が楽しみだよ。そうだ! うちのも収穫したら家に届けるからさ、楽しみにしててくれよ!」


「なぁなぁ、おいらの野菜も貰ってくれよ! ちょっと重い荷物になるけど、今日は男手もあるから余裕だろ? 感謝の印さ!」


「ねぇねぇ、だったらアタイの店からも!……正直、最初は火の国の役人なんて期待できないと嫌ってたけど、アンタたちはよくやってくれてるからね。お詫びも兼ねて、ほらっ、受け取ってくれよ」


ぞろぞろと集まってくる村人たち。

皆が口々に感謝の言葉を述べ、中には競うように贈り物を渡してくる者たちまでいる。

遺跡によって魔脈が短期間で劇的に回復したおかげで、セスもステラもすっかり村の人気者だ。

そうしてセスたちの両手が荷物でいっぱいになると、これ以上はかえって迷惑になるからと諭す者も現れ、2人はやっと人集りから解放された。


「こんなにいっぱいあると、2人で使い切るのは大変だな」


「でしたら、ネリアたちにも分けるといいのですよっ」


「それもそうだけど、たぶんネリアが来ても同じようにもらうだろうからさ、今回は俺の実家に送ってもいいか? この村の作物の味、家族にも教えてやりたいんだ」


「セスの家ということは、ネリアの家なのですよね? ネリアのパパがセスの師匠で父親代わりで……」


「いや、今回は俺の実の両親の方」


セスの答えに、ステラはキョトンとした表情で首を傾げる。


「……実の両親? セスの家族、生きているのです?」


「勿論、健在だよ」


「では何故、セスはネリアの家族に⁇」


「俺の実家、兄妹多くて貧しくてさ。あるとき、先生の教え子が森で迷子になってたのを俺が助けて……その教え子の報告で、先生は俺が無自覚に魔脈を当てにしながら森を歩いてたことを見抜いたんだ。それで先生は、俺の両親に大金を援助する代わりに、俺を引き取ったんだよ」


「つまり、セスの家族はお金のために、セスを売ったのですね……」


セスの淡々とした説明に、ステラは眉間に皺を寄せて俯いた。

セスはベンチに荷物を置くと、皺を揉み解すようにステラの額をぐりぐり撫でてやる。


「怒るな、怒るな。よくある養子縁組だ。おかげで俺の家族の生活は楽になったし、俺自身も先生の家で衣食住の悩み無く生きられてる」


「でも、家族ならずっと一緒にいたいと思うのですよ……」


「俺の両親だって、その方が他の家族だけじゃなく、俺のためにもなると思ってそうしたんだ。親としてのプライドに拘らず、現実的な選択をしてくれて、本当に感謝してるよ」


「…………」


俯いたまま不満げに押し黙っているステラへ、セスは更に言葉を続ける。


「離れる選択を選ぶのだって、相手の幸せを願ってのことなら、それも愛情なんだ。それにさ、俺たちは今でも連絡取り合ってるし、長期休暇には帰省もする。今も普通に仲良いっての!」


「そ、そうなのですね……わかったのです! セスとセスの家族、離れ離れでも仲良しなのです♪ ステラもいつか会ってみたいのですよ♪」


ステラの機嫌が直り、セスはほっと胸を撫で下ろした。そのとき……


「あいや、そこのお若いカップルさん! ワタシの店を見ていくよろし! 彼女さん、喜ぶ物いっぱいあるヨ。彼氏さん、買ってあげれば今夜は寂しい思いしなくて済むネ♪」


お団子頭でつり目の童顔小柄な女性が、手を隠す長い袖をパタパタと振りながら2人を呼んだ。

彼女の横には、重ねた木箱に布を被せただけの粗末な陳列台。

その上には、細やかな意匠のアクセサリー類が並べられている。


「さっきの人集り、ここから見てたヨ。彼氏さん、火の国から出張中なのカ?」


「彼氏じゃないけど、火の国から来てます」


「そうカ、そうカー。ワタシも今、火の国で薬屋やってますヨ。こっちには薬草を調達しに来るついでに、露天商もしに来てる。この辺りじゃ珍しい高価なアクセサリーなど売り付けて、お金稼ぎ頑張ってるネ」


「売り付けてって……」


「見栄っ張りな人、どこにもいるからネ。彼女の前でいいとこ見せたいなら、彼氏さんも買ってくといいヨ。お金持ってる人、とてもモテる。世の常ネ」


「いや、彼氏ではないですってば……」


「ワタシ、両親いないヨー。幼い妹、養ってる。未来の旦那様、まだ学生さん。カレが勉強頑張ってる間、結婚資金貯めたいネ。お客さん、いっぱい買って協力するよろし」


「はぁ……」


売り手の接客態度に問題はあるものの、扱っている品物自体はとても良いようだ。

職人の高い技術力が窺える美しいアクセサリーたちに、ステラはすっかり魅入られ見入っている。


「ステラ、欲しいのがあるなら買っていいぞ?」


「えっ⁉︎ でも、お金が……」


「ローレンからこの前の報酬金を貰ってるし、村人たちの贈り物で今日の買い物代は浮いたからな。なんといっても、魔脈回復はステラの功績が大きいんだ。ちょっとくらい贅沢してもいいさ」


「はわわわ……でもっ、でも……ステラには勿体無いのですよっ! 報酬金も、今日の贈り物も、アクセサリーも、本当はどれもステラが受け取るべきものではないのです! お金は、たくさん頑張ったセスやネリアのために遣ってほしいのですっ」


魅力的なアクセサリーたちを見ないように、ぎゅっと目を瞑って首を横に振るステラ。

その肩にセスはそっと手を置く。


「俺が、ステラに贈りたいんだ。俺もステラには感謝してるからさ。……それに、その方がこの人も助かるみたいだぞ?」


そう言いながらセスがチラリと横目で見ると、露天商は力強く頷く。


「そうネ! お金ある人、買い物する。経済循環、とても大事! ワタシのためにも、彼氏さんに高いの買わせるよろし♪」


「俺は彼氏じゃないですってば……」


「コレなんかとってもオススメ! 『黄金花』の耳飾り! ワタシの故郷では花嫁の幸福を願って贈られる物ネ。プロポーズの定番アイテム。あとこっちの指輪! 中石に『精霊の涙』と呼ばれるレアな宝石使ってるネ。水の国で人気のプロポーズアイテムらしいヨ」


「やたら結婚推してくるな……」


「恋愛にお金かけてしまう人は多いネー。カップル相手の商売、儲かる。特に結婚、特別だから奮発せねばという強迫観念あるヨ。そこに付け込む。イイカモネ」


「…………」


正直なところ、コイツから買うのはかなり癪だ。

そう思いながらも、セスはステラのためにグッと堪えることにする。


「ステラ、どれがいい? 1番気に入った1つを教えてくれ」


セスは全ての値札をチェックした上で、1番高いものを指されても1つまでならなんとかなることは確認していた。

ちょっぴり冷や汗を浮かべながらも、余裕のあるクールな男でいるように努めるセス。

その胸中を察してか、ステラは良心的な価格に抑えられた石の無い指輪を指す。


「これ……が、いいのです……」


「本当に、それでいいのか?」


遠慮させてしまったかと心配したセスが確認すると、ステラは頷きながらセスにもよく見えるように指輪を掲げる。


「はいっ! だって……これならいつも身に付けていられそうですから!」


石の無い地味な指輪だが、よく見るとアーム部分には植物模様が彫り込まれていて、なるほど、ステラに似合いの清楚で可愛らしい指輪である。

セスは納得して露天商に代金を支払った。


***


「…………どうやら、ぴったりなのはこの指みたいだな」


「はい! セス、ありがとうなのです♪」


追加購入を促す鬱陶しい露天商から離れたベンチに移動した2人は、休憩がてら指輪の合う指を探していた。

ステラが『セスに嵌めて欲しい』と願って右手を差し出したので、セスが順番に指輪を嵌めていった結果、薬指が1番収まりがいいことがわかった。


「えへへ……これでずぅーっと一緒なのですよ♪」


指輪を嵌めた手を顔の前に添えて嬉しそうに笑うステラ。

そのふにゃっとした緩い笑顔は、まだ幼い姿だった頃から変わらないようだ。

そんなことを思いながら、セスも釣られて笑った。



露天商ちゃんの話も火の国編で書ければいいな〜と思ってます。

めちゃくちゃ先の話だし結局書けないかもしれないですが(´・ω・`)


@補足

村人たちに遺跡のことは秘密にしてるので、彼らは通常の作業で魔脈を回復させたと思ってます。

ステラのことは精霊らしく導き手になってるものと思ってる感じです。

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