9ー7.魔脈制御室
「なんなんだこの装置は……」
「これが古代人の技術力か……予想以上だよ‼︎」
発光する鉱石が壁に等間隔で埋め込まれた、顔が映るほど磨き上げられた白い石の間。
その中央に設置された巨大な石碑の周囲には、複雑な魔術式が幾重にも連なって浮かび上がっている。
そして、石碑の前に広がった浅い水槽内では、水が固まって現在の山の形を立体的に再現している。
そこには魔脈を示す光の筋が、主要な太いものだけでなく、細かい支脈まで描き出されていた。
「セス! ネリア! ふたりとも、まみゃくのしゅーせー、ここでできるはずなの! いまステラ、いせきのきょか、もらったの!」
唐突にステラがそう叫び、2人の手を引いて石碑から突き出した薄い石版に触れさせた。
すると不思議なことに、2人には初めて触れるはずの術式の扱い方がするりと理解できてしまう。
「すごい……なんてことだ‼︎ でも、本当にこれで魔脈が操れるのか⁇」
「実際の変化は後で確かめるしかないよ! とにかく今はステラちゃんを信じよう!」
「ああ、そうだな……やってみよう!」
いつもなら地道に現地で楔魔石を埋めて行う魔脈調整作業が、石板上の術式操作だけでスルスルと完了していく。
そうして村へ影響する魔脈の半分を処理したところで、ステラが呼びかける。
「このいせきでできるのは、ここまでなの。のこりのまみゃく、べつのいせきでそうさするの。さいごにステラ、こうしんするの。まってて!」
ヴーーーーン……‼︎
石碑に触れると、ステラの体が緑色に発光し始めた。辺りにも魔力の煌めきが満ちる。
そうして待つこと数十秒……ステラの体が一際強い光に包まれた! そして……
「お待たせしましたなの! ステラ、今までより賢くなりましたなの!」
むぎゅ〜〜っ!
光が収まると同時に、ステラはそう言いながらセスに抱きついてきた。
「そうか! よかった……ステラ……ステラ⁇」
セスは強烈な違和感を感じながら、ステラの緑頭を見下ろした。
いつもより頭の位置が高いし、なんだか柔らかいものが当たっている。
「ステラ、これからはもっとセスのお役に立てるはずなの! とっても嬉しい!」
「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
パッと顔を上げたステラを見て、セスは仰天した。
そこにいたのは見慣れた幼いステラではなく、美しく成長したステラだったのだ!
身長はピアやアリスより少し低いが、サーシャやサクラよりは少し高い。魔女やカオルコと同じくらいである。
胸は……
「おめでとう、ステラちゃん! おっきくなったねー!」
「ネリア! ありがとうなの! 改めてよろしくお願いしますなの〜♪」
セスが自分の胴体に押し当てられた膨らみの詳細を確認する間もなく、ステラはネリアへ抱きつきに行ってしまった。
残されたセスはステラの尊い柔らかさと優しい香りを思い出しつつ、ヨロヨロとその場にかがみ込む。
「おや、セスさん? 具合でも悪いのかい?」
「なっ、なんでもないっ……少し疲れただけだ」
心配して覗き込むローレンに答えながら、セスはステラを目で追った。
無邪気にティアにも抱きつこうとするステラと、その両肩を押し返して拒絶するティア……その胸部には、ネリアとティアほどではないが、残酷な格差が生じている。
「あっ」
ふと、セスを振り返ったステラと目が合った。
セスが緊張しながらも逸さずに見つめ返すと、ステラは急にしゅんとした表情を浮かべる。
「ステラ⁇……ど、どうした?」
「実は……ステラ、皆さんに謝らないといけないことがありますなの。魔脈を調整する遺跡、内緒にしないといけないものだったの……だから、今回のことは全部秘密にしてくださいなの……」
魔脈調整遺跡……その機能が確かなら、間違いなく世紀の大発見であるが、同時に危険な火種でもある。
セスとネリア、ローレンとティアは、互いに目配せして頷いた。
「わかった。このことは地の国にも、俺たちの祖国にも報告しない。生涯秘密にすると誓うよ」
「私も! ステラちゃんや村の人たちに不利益を生じさせるようなことはできないもん!」
「オレたちも、今回の発見は決して公表しないと約束するよ。世間に与える影響が計り知れない。戦争になる可能性だってあるからね。……ティア、すまない。遺跡を発見すれば、お前が町の研究会へ戻る良いきっかけになると思ったんだが……」
ローレンが申し訳なさそうにティアを見ると、ティアはふんっと鼻を鳴らして腕組みする。
「元からあたしは遺跡探しに乗り気じゃなかったんだ。興味がねーわけじゃなかったけど、危険を賭してまで見つける必要はねーし。ただ、ほっとくとお兄1人で勝手に探しに行っちまうから、諦めさせるには一度とことん付き合ってやるしかねーなと思っただけ。そもそも町の研究会なんか、頼まれたってお断りだっての!」
「本当にそうなのかい? 引っ越してきたときも、オレの婿入りが決まったときも、ティアは不満そうにしていたじゃないか。本当はまだ町に未練が……」
「ねーよ!……本当にさ、あたしはこの田舎でのんびりマイペースに研究する方が、性に合ってるんだって。つまり、その……あたしも……あの村は、気に入ってないわけじゃないんだからなっ」
ティアはもぞもぞと言いながら顔を背けたが、その長い耳はやはり真っ赤に染まっている。
「つまり……本当はティアも村が大好きなんだな! ありがとうっ! 兄ちゃんはっ……兄ちゃんは猛烈に感動しているぞーーっ‼︎」
ぎゅうううう‼︎‼︎
「ぎゃあああ⁉︎ 抱きつくな〜〜っ‼︎」
再び始まった強烈すぎる兄妹愛を、セスたちは生暖かく見守った。




