9ー5.遺跡の守護者
「この穴が、そうみたいだな……」
最初の通路へ戻ってきたセスたちは、新たに現れた大穴を見据えた。
儚げに見えてもしっかり砂の難を逃れていたらしい蝶たちが、いよいよ勢揃いといった様子で穴の内外にびっしり集まっている。
一応セスたちの通り道は空けてくれているのだが、うっかりすると潰しそうで恐怖だ。
というか、壁と天井を埋め尽くす無数の虫が蠢いているこの状況……最早綺麗などとっくに通り越して、恐怖しかない。
しかし、誰もそのことは口に出さず、蝶たちに感謝しながら通路の奥へ進むことにした。
蝶に言葉が通じるとは思わないが、この状況で怒らせたくはなかったからである。
しばらく進むと蝶の光が消え、代わりに明るく開けた空間が見えてきた。
辿り着いてみると、高くて広い壁の上に、岩肌で見たのと同じ虹色の輝きが揺らいでいる。
そして、壁の下は一面、大量の砂だ。
「え〜? ここって……砂漠⁇ 私たち、砂漠に出ちゃったの……⁇」
「本物の砂漠なわけないだろ。ここも壁に囲まれてる。遺跡内だ。ただ……天井が無くて、空が結界に覆われているだけのようだな。だから明るいのか」
「中庭みたいな場所かな? 明るい内に来られて良かったよ。しばらく探索して、暗くなる前に帰ろう」
「しっ!……静かに。砂の中から何か聞こえる……」
………………ズ……
ズズズズズズズ……
ズズズズズズズズズズ‼︎‼︎
全員が黙って耳を澄ませる中、音はだんだん大きく……近くなっていく!
「や、やばい! 皆、逃げろーーッ‼︎」
セスに言われるまでもなく、誰もが撤退し始めていた。
ザザアアア…………‼︎
なんとか全員が通路へ駆け込んでから振り返ったそのとき、砂の中から数十メートルはある巨大な影が飛び出した!
「あ、あれは……サンドドラゴン⁉︎」
砂色の鱗に覆われた長い胴体。黒光りする巨大な角と鋭い爪。黄金色のたてがみ。
光の代わりに魔力を視る灰白色の目玉が、今は血走っていて真っ赤である。
グオオオオオオオオーーン‼︎‼︎
サンドドラゴンは砂埃を巻き上げながら、凄まじい勢いで砂の海を泳ぎ回っている。
「危険すぎる! すぐに遺跡の外へ避難するぞ!」
「うんっ!」
セスたちは通路を逆走し始めた。ところが……
「まってー! まってなの‼︎」
その背中にステラの叫び声が刺さった。
「ドラゴンさん、まりょくかじょーで、くるしんでるの! セス、みどりのけんできって、たすけてあげてなの!」
「なんだって⁉︎ そんな無茶な……帰るぞ‼︎」
「むぅ……だったらステラ、ひとりでたすけてくるっ! セス、みどりのけん、ステラにかして!」
「おいっっ‼︎」
がしっ‼︎
剣を取ろうとしたステラを、セスは腕にがっちり捕まえた。
「やああ! セス、はなしてなのー!」
細い手足を懸命にジタバタさせてもがくステラ。
その必死さにセスが心を痛めていると、ローレンが肩に手を置いてくる。
「セスさん、ステラさん、ひとまず落ち着いて話し合ってみようか。どうやら通路まで追っては来ないみたいだよ」
再び確認すると、ドラゴンは荒々しく砂から出たり入ったりを繰り返すばかりで、侵入者に気付いてすらいない様子。
通路の造りも頑丈で安全そうだ。
「……それもそうだな。こんな状態のステラを連れ帰るのも危なっかしいし」
セスがふぅっと溜息を吐くと、ネリアも反対側の肩に手を置いてくる。
「うんうんっ。それにさ、セス? 今日のためにいろいろ準備してきたんだし、せっかくティアさんみたいな優秀な魔導士もいることだし、案外サクッとステラちゃんの言う通りにできたりしないかなっ?」
「ネリア……お前は脳天気すぎ。そもそも、あんな凶暴な魔物を助けたりしていいのかよ? できれば討伐すべき対象だろ」
「たすけていいなのよ! あのドラゴンさん、このいせきまもってるの。いまあばれてるのは、くるしいからなのよ……」
いつの間にかステラも落ち着きを取り戻したようだ。
セスは腕を緩め、ステラを向き直らせる。
「ステラ……本当に言い伝え通り、ステラは魔脈を管理する遺跡の案内役だったんだな?」
「うーん? それはよくわかんないの。でもステラ、なんとな〜く、このいせきもドラゴンさんもわかるなのよ」
「そうか……じゃあ、出来る限りのことはしてみよう。ティア、あんたならアイツの動きを封じられるか?」
「そこであたしを頼るのかよ? まあ、手が無いわけでもないけどさ……」
セスたちは作戦を立て、ドラゴン救出に挑むことにした。
凝った名前思いつかないから直球のネーミング。




