9ー4.遺跡探索
横穴の中は下ったり上ったり……急勾配の連続な上に、時折落とし穴のように床が抜けている箇所もあって危険だった。
それでも、これといって罠らしき罠は無く、警備ゴーレムや魔物の姿も無く、足元さえ気を付けていれば安全であるとも言えた。
「それにしても、高い天井に無数の通路……古代の建築技術って本当にすっごいですねー。あっ、でもでも、こんな造りじゃ古代人もきっと移動に苦労しましたよね?」
遺跡内を見回しながら、ネリアは首を傾げた。
「そうでもねーよ。古代の魔導士たちは、飛行魔法の習得率が今よりずっと高かったらしいからな。ここは飛べること前提に造られているんだろうよ」
「大気中の魔力密度が全然違ったから、魔力を込めた道具でも空中に掴まりやすかったし、建築魔法も今よりずっと高度だったらしい。古代人のスケールは今とは全然違っていて、驚きに満ちているよ」
「なるほど、なるほど〜……」
双子たちの話に頷くネリア。ふと、その視界でステラの動きが鈍くなる。
「あれ? ステラちゃん、どうかした?」
「ステラ、ちょっとつかれちゃったの……あしがぼーのよーって、きっとこういうことなの……」
ぺたんと座り込んでしまったステラ。その前にローレンが跪く。
「精霊とはいえ、今は子供の姿のステラさんには辛かったね。ごめんよ、無理させてしまって」
ポゥゥ……
謝りながら回復魔法をかけるローレン。
すると、ステラの表情がみるみる明るくなっていく。
「わぁ……なんだかきもちよくなって、ステラ、げんきがでてきたの〜♪ ローレン、ありがとーなの!」
「良かった。……では、ここからはオレがステラさんを運ぼう。まだまだ移動が続くようだからね」
「ちょっと待て」
そのとき、先頭で安全確認をしていたセスが駆け戻り、2人の間へ割り込んだ。
「今は安全そうでも、この先いつ何があるかわからないんだ。いつでも自由に動けるように、両手足は全員ちゃんと空けておくべきだろ」
「セスさん……」
「そうだぞ。お兄だってそんなに体力あるわけじゃないし、もっと自分も大事にしろよ。いくら回復薬もあるからって、回復魔法使える奴が最初に潰れるなんて御法度だかんな! 後衛は守るのも守られるのも役目だって、そんなの常識だろ?」
「ティア……! ああ、なんて兄想いの優しい妹なんだ‼︎ 兄ちゃんはっ……兄ちゃんはお前が大好きだぞーーっ‼︎」
ぎゅうううう‼︎‼︎
「ぎゃあああ⁉︎ 抱きつくな〜〜っ‼︎」
兄の熱い抱擁から逃れられないティアは、セスたちから背中向きで顔が見えないものの、長い耳の先まで真っ赤だ。
ハーフエルフ双子の強烈な兄妹愛を、義理の兄妹セスとネリアは生暖かく見守ることにした。
「ローレンさんって、ソラさんとはまたベクトルの違う残念なイケメンさんだよね〜。デキる妹のティアさんとは、見た目そっくりなのに色々と正反対って感じ」
「ローレンって仕事はポンコツだけど家事ができて社交的、ティアはその逆なんだってな。互いに補い合ってて、ちょうどいいデコボコ双子じゃん?」
「うんうん。……あ! 双子といえばさ、セスは『双子の国の御伽噺』って知ってる?」
「なんだそりゃ?」
「昔、生まれてくる双子の片方に両方分の能力を偏らせて、より優秀な子供を作る魔術を研究してた国があったんだってさ。で、空っぽの器になっちゃった方の子は人形ってことにして、『人形塚』ってとこにまとめて葬ってたんだけど……最終的に、神の逆鱗によって子供の出来ない国にされて滅んだとかなんとか」
「こっわ……」
「ネリアさんの話なら、オレも知ってるよ」
セスが眉をひそめたそのとき、ローレンがティアにつねられた脇腹をさすりながら話に入ってきた。
「今でも特別な星の並びの夜になると、葬られた人形たちが一斉に斜面から現れる……って。ちょうどこの国境山脈が舞台の怪談話だよね」
「え〜っ、そうだったんですかぁ⁉︎ 私ちょっと怖くなってきたかも……」
ネリアが急に子供のように怯えだし、ローレンはふふっと笑う。
「大丈夫だよ、ネリアさん。これはただの御伽噺だから。対になる者同士が力を共有していて、片方が栄えると片方が衰える……そんな法則に基づいた話っていうのは、双子に限らず昔からけっこうあるよね。例えば……」
「お兄のつまんねー話より、あの精霊はどうしたんだよ? 姿が見えないぞ」
「は⁉︎」
不意にティアからステラの不在を指摘され、セスはサッと青ざめた。
慌てて辺りを見回すと、先程セスが確認した地点よりももっと先から、ステラの声が響いてくる。
「セス〜〜っ! こっち、こっちなのよー!」
「ステラ! 勝手に先に行くなってば!」
セスが大急ぎでステラの元へ駆けつけると、突き当たりの台座に大きな結晶が飾ってあった。
ステラは台座の淵に両手を置いて、ぴょんぴょんと跳ねながらセスを急かす。
「セス、はやく、はやくっ! これにねっ、さっきとおなじ、ひかりをあてるの!」
「え?……わ、わかった……!」
ステラに促されるまま、緑の剣を掲げるセス。
すると再び、ステラがセスに自分の手を重ね、魔力を注ぎ込む。
パアアアア……
満ちる緑光の中、セスはステラに尋ねる。
「で、なにがおこるんだ?」
「?……わかんない」
「え」
「わかんないけど、なんかおこる」
「……」
ゴオオオオオオオオーー…………‼︎‼︎‼︎‼︎
突然響きはじめた凄まじい轟音と共に、セスの視界がグルンと回った!
***
「……う……うぅ……酷い目に遭った……」
「セス〜、だいじょーぶなの?」
「ああ、ステラ。俺は、なんとか……」
ドサッ……
さっき咄嗟に貼った魔防壁を解除し、セスは砂の上に崩れるように膝を突いた。
先刻の轟音の中、魔防壁ごと砂に流されて目が回ったのだ。
違和感に首を傾げながら辺りを見渡すと、さっきの台座が天井にぶら下がっている。
よくは憶えていないが、壁の模様もさっきと上下逆な気がする。
「遺跡が逆さまになってる⁇……そんな、ばかな……ハッ‼︎ ネリア⁉︎ ローレン! ティア! 皆は⁉︎」
「はーい……私はここでーす……」
「オレとティアはここだよ……」
セスが3人の名前を呼ぶと、意外とすぐ近く、ちょうど死角になっていた真後ろから返事があった。
3人ともセス同様、魔防壁ごと砂に流されて目を回し、ヘロへロになっている。
そんな中、霊体時代に回転飛行耐性の付いていたステラだけが、元気いっぱい声を上げる。
「いせきのなか、じゅーりょくかわったの! すながうごいたから、はいれるあなもかわったはずなの! さいしょにはいってきたとこ、もどるの! なんかねっ、よくわかんないけど、いまのステラ、ヒラメキがすぺしゃるなのよ‼︎」
……………………。
4人はしばらく無言でその場に座り込んでいたが、やがてローレンが回復魔法をかけると、再び元来た道を戻りはじめた。
回復薬と回復役はどちらも大事




