9ー3.魔毒蝶
トスッ……
「到着〜……っと、お? 足元、砂か⁇」
「そうみたい。ちょっと歩きにくいねー」
「ステラ、すなのおしろつくりたいっ」
「それはまた今度な」
セスたち5人は無事、ローレンが見つけた入口から遺跡内へと降り立った。
だが、そこは入口とは言っても正面玄関などではなく、完全に裏口。暗くて長〜〜い通路である。
しかも、縦に。
「ふぅ……まるで巨人の煙突だな。ここまで降りてくる途中、壁のあちこちに横穴を見つけたが……いったいどの穴から行ってみるべきか……」
「っていうか、ここからだと穴がどこかもよく見えないよね。さっきの入口から差し込む光だけじゃ暗すぎかもー」
「ネリアさんの言う通りだね。では、明かりをつけよう」
「あっ。待て、お兄……」
パアァ……
「「「⁉︎⁉︎⁉︎」」」
ローレンが魔法で光の玉を掲げたその瞬間、壁面いっぱいに無数の目玉が開いた。
その正体は、部屋中の壁にとまっていた『魔毒蝶』たちの翅の模様である。
魔毒蝶は幼虫時代から魔力を吸収して育った鱗翅類変異種の総称で、基本的には大人しいが身の危険が迫ると毒の鱗粉を撒き散らす。
色とりどりの鮮やかな翅の種類と同様、毒の種類と程度も様々。
痺れ、眠気、幻覚……中には魅了や筋力増強といった効果のあるものから、最悪、死に至るものまでだ。
ティアが素早く魔防壁を張り、5人は荒ぶる魔毒蝶たちの嵐を内側から眺める。
「こんなにいっぱい本当にここにいたってのか⁉︎ さっきまで全然気付かなかったのに!」
「コイツらは翅を閉じた状態だと地味だから、闇と同化して見えにくいんだ! お兄が余計な刺激与えるから、横穴からもたくさん出てきちゃったじゃないか!」
「すまない……まさかこんなことになるとは……」
「綺麗な蝶でもこんなにいたら恐怖だよ〜。どうする? 燃やす?」
「こんな場所で炎魔法なんて使ったら自分たちも危険だろ! ここは……水魔法で鱗粉を洗い流しつつ……」
「それだと足場の砂、泥になっちゃうよー⁉︎」
ぎゅッ‼︎
セスたちが考えを巡らせていると、突然ステラがセスの腰に抱きついた。
「セス、けんをぬくなの! ステラ、おてつだいするの!」
「えっ⁉︎」
「だいじょーぶ! ステラにまかせるなのっ♪」
ステラがセスの手を緑の剣の柄に運び、セスは促されるままにそれを抜いた。
セスと重ねたステラの手から魔力が剣に注ぎ込まれ、剣の光が強さを増す。
パアアアアアアァーーーー…………
2人でそれを掲げると暗い通路内に緑の光が満ち溢れ、魔毒蝶の翅がその色に染まっていった。
そして、大人しくなった緑の魔毒蝶たちは、たくさんの横穴の内1つの淵をぐるりと囲んでとまり、溢れたものたちは更にその奥へと飛んでいく。
「ちょうちょさん、みちあんないしてくれるの♪ けん、もうしまってもだいじょーぶなのよ」
剣を鞘に収めると、再び暗くなった通路に翅の緑光が浮かび上がる。
幻想的で美しい光景だ。
「驚いたな……これが精霊の力! 素晴らしいよ、ステラさん!」
「蝶々超綺麗〜! すごいねっ、ステラちゃん♪」
「えへへ〜」
「でも、あんな高いとこの穴……また魔吸蔓のロープで行くのか?」
「ブラブラぶら下がって移動すんのは落ち着かねー。次は別な方法で行くぞ」
ティアは荷物の中から紙束を出すと、それを魔法で空中に固定した。即席の階段である。
「おお、便利だな。流石ハーフエルフ。俺たちの10倍以上生きてるだけのことはある」
「だねー。ティアさん、すご〜い!」
「ティア、すごいなのー」
「そうだろう、そうだろう! オレの妹は本当にすごい、最高の妹なんだ‼︎」
「るっせー、バカお兄。魔力がもったいねーからさっさと登れ」
5人は蝶の光に導かれ、遺跡の奥へと進んだ。




