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8ー3.ティア

作業は予想以上に時間がかかり、3人が村へ帰る頃にはすっかり夕暮れになっていた。

ローレンとは広場で別れ、セスとネリアはピアの家へ歩いた。


「セス〜! ネリア〜! おかえりなさいなのーーっ‼︎」


「ただいま、ステラ」


「ステラちゃん、ただいま〜」


2人が雑貨屋の角を曲がると、ピアの家からステラが駆け出してきた。

勢いよく飛びつくステラをセスが抱き上げてやると、ステラは嬉しそうに話しはじめる。


「あのねっ、あのねっ! ステラ、きょうはピアたちといっしょにおんせんにいくのっ。おんせん、とってもきもちいい〜〜で、つかれもふっとんじゃうなのよ! おまんじゅうもね、とってもおいし〜なの。だからねっ、いっしょにいくの♪」


「あらっ? 本当に帰って来たわ。ステラがセスの気配に気付けるって話、本当だったのね」


続いて、ピアの家からリーナが感心した様子で現れた。


「へぇ、今日はリーナが来てたんだな。さっきステラがピアさんと温泉に行くって言ってたけど、リーナも一緒なのか?」


「ええ、そうよ。仕事終わりにピアを誘いに来たら、ステラが興味持っちゃってね。ほら、あんたたちもさっさと支度なさい」


「えっ? ネリアだけじゃなくて、俺も?」


セスがぱちくりと瞬くと、リーナはうんうんと頷く。


「ステラの要望だからね。お疲れのあんたたちに温泉で癒されてほしいんだってさ」


「なのっ‼︎ み〜んないっしょにおんせんいくの♪」


そんなわけでセスは一度家へ戻ると、ステラ含む美少女4人と連れ立って温泉へ向かった。

惜しむらくは混浴が無いことである。


***


「ええ〜〜⁉︎ ステラ、セスといっしょダメなの⁇」


「そりゃダメだってば。こっちは男湯! ステラは女湯! ほら、あっちの赤い暖簾のところに行って。ネリアたちの言うことよく聞いて、他の客の迷惑にならないようにな?」


「む〜〜っ……それがニンゲンのきまりなら、しかたないの。はぁいなの……」


「よしよし、良い子だからまた後でな〜」


男湯へ付いてきたステラを無事女湯へ見送り、セスは男湯へ戻ろうとした。

ところがそのとき、ステラに続いて女湯の暖簾を潜ろうとした人物に気付き、セスは大慌てでその肩を掴んだ。


「おい! ローレン、そっちは女湯だぞ?」


「あ? なんだよテメー?」


「⁉︎……ローレン、じゃない……誰だお前⁇」


振り返った人物の姿を、セスは驚いて凝視した。

その顔立ちも髪型も服装も、今日会ったローレンのものと一致している……が、声だけは女だ。


「とっとと離せよコノヤロー。魔法でぶっ飛ばされてーのか?」


「⁇⁇」


ギロリと睨みつけてくる、ローレンのそっくりさん。

その肩を放していいのかセスが迷っていると、背後から聞き覚えのある穏やかな声がした。


「やあ、セスさん。それにティア!……どうしたんだい? そんなところで立ち止まっていたら、他のお客さんの邪魔になってしまうよ?」


「本物のローレン‼︎」


「うん? なんだい?」


セスが思わず名前を叫ぶと、ローレンはニコニコしながら首を傾げた。

するとティアはセスの手を振り切り、ローレンの首に腕を回す。


ぎゅうううう……


「ぐえっ⁉︎」


「おい、バカお兄。たった今、そこのバカヤローにお兄と間違われたじゃねーか?」


「い、痛いよ、ティア……いくら兄ちゃんが大好きだからって、そんなに強く抱きついたら首が絞まる……」


「これは抱きついてんじゃなくて首絞めてんだよ、バカお兄」


ぎゅぎゅぎゅっ……


「ウッ……」


「おっ、おい! さすがに絞めすぎだ! ローレンが死んじまう!」


笑顔のまま顔色が悪くなっていくローレンをセスが助けようとしたとき、今度は女湯の方から聞き馴染んだ声が近づいてくる。


「もぉ〜! そんなとこで何騒いでんの、セス? さっきから中に声が聞こえてきて、気になるんだけど……って、ローレンさんが2人⁉︎⁉︎」


ネリアはローレンとティアを交互に見て目を瞬かせた。

脱ぐ途中でサロペットの胸当ては下ろしているため、オフショルダーに包まれた胸部の主張が強い。


「……この女も、お兄の知り合いかよ?」


「ぜー……はー……こほんっ……ネリアさんと、セスさん。さっきティアに話しただろ? このお2人が、今日オレが森で会った魔脈管理士さんたちだよ」


やっと解放されたローレンが首をさすりながら紹介すると、ティアは値踏みするようにジロジロと2人を見た。


「ふーん、こいつらがそうなのか。あんま強そーには見えねーけど、まあいいか……あたしはティア。不本意ながら、このバカお兄の双子の妹。次の遺跡探しにはあたしも同行するから、そのつもりでヨロシク」


「お、おう……俺はセス。よろしく……」


森でローレンから聞いてイメージしていたのとは随分違う、大きくて態度の悪い妹だ。

セスは引き気味に挨拶した。続いて……


「ネリアだよっ! よろしくね、ティアさん♪……それにしても、いくら双子でも男女でこんなに似てるのって初めて見ましたよ〜。ハーフとはいえ、エルフって中性的な方が多いって聞きますもんね。髪も服もお揃いなんて、本当に仲良しですね‼︎」


ネリアは元気いっぱいフレンドリーに挨拶した。

ペアルックに突っ込まれ、ティアは少し慌てた様子を見せる。


「っ⁉︎ 言っとくけど、これはそんなんじゃねーから!……あたしがテキトーな格好してると、お兄が身嗜みがどーのこーのってうるせーから……だから、『本人がちゃんとしてるって言うお兄の真似なら文句ねーだろ?』ってことで、お兄の服パクるようになっただけだっての」


「オレはもっと女らしい格好をして欲しかったんだが……」


「お兄の買ってくるヒラヒラしたやつなんか絶対着ねー」


「……というわけで、オレの服の中でティアが気に入ったものがあると、同じのを複数用意するようにしてるんだ」


ローレンが苦笑しながら説明すると、ティアは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


「今までのお兄の女たちが、よくお兄とあたしを見間違えてたよ。あいつら、どーせお兄の表面しか見てねーんだからな。おもしれーからたくさん引っかけてやったよ」


セスもネリアも、ローレンが『よく急にフラれる』と言っていた理由がよ〜くわかった。


ドヤ顔のティアを、今度はネリアがじっくり観察する。


「なるほど〜。だからティアさんは意図的にローレンさんに似せようと、いろいろ工夫してるんですね! その靴、よく見るとすっごい上げ底靴ですよねー? 実際はセスと同じくらいか、少し低いかも⁇」


「⁉︎……ま、まーな。これくらいの些細な工夫は別に苦でもねーし……」


ネリアの鋭い指摘に、ティアは顔を引き攣らせつつもそれを認めた。

だが、ネリアの指摘はまだ終わらない。次はティアの胸部を見て、心配そうな顔で尋ねる。


「それにその胸も、実は男装用の下着とかで潰してるんですよね⁇ きっと苦しいでしょう……そんなに真っ平らになるまで潰して……」 


「……………………」


「あれ? ティアさん?……ティアさーん⁉︎」


急に無言になったティアが女湯の暖簾の向こうに去り、ネリアもそれを追って去った。

残ったセスに、ローレンが苦笑しながら言った。


「ティアは……とってもスレンダーなんだ」



ニナとティアは女性の中では高身長。ネリアも平均より高い設定です。

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