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8ー2.ローレン(その2)


「……ということがあったんだ」


「そうか……実に興味深い。話してくれて、ありがとう」


セスたちが話す間、ずっと難しい顔で聞いていたローレンだったが、話が終わるとすぐにふわっとした笑顔に戻った。


「ではお礼に、今度は遺跡について、オレが知ってる話を教えよう……はるか昔、世界中の魔力の総量は今よりずっと多かった。そのことは君たちも習って知っているね?」


「はい。今より魔法でいろんなことができて、魔導士も多くて、でもその分いろいろと物騒な世界だったんですよね」


「ああ、そう伝えられている。そして、その時代の膨大な魔力が流れる魔脈の管理は、今よりもずっと困難だったと。だから当時の人々は、各地の魔脈の要所に魔脈管理用の神殿を建てた。神殿の中には数多の複雑な術式が設置され、管理するのは試験に合格した偉い神官たちだった。……そういう記録が発見されているんだ」


「それは習ってないです!」


ネリアは元気よく答えた。


「大陸統一戦争以前の歴史については、殆どの記録が消失して曖昧だからね。研究者の間でも意見が分かれすぎていて、教育機関で教える内容も定まっていないんだ。だが、その分野に興味を持って調べれば、わかることは多い。オレたち兄妹は主に古文書の解読をしていてね、新発見の度に喜びを感じるんだ。『知る』ということは、とても楽しいことだよ」


「古代の神殿ってのは、現代の時計教とは関係があるのか?」


セスは冷静に尋ねた。


「シンボルマークは少し似ているけど、資料不足で関連性はなんとも言えないんだ。名前は『ゼロ教』。かつて天界と魔界が争ったという『天魔戦争』……その果てに天界側が魔力を封じ込めたという『白い魔本』を拠り所とした組織だったらしい」


「白……って、実は白紙だったり? 人には見えない文字が書かれている〜って言い張ってたとか」


「さあ、どうだろうね? 魔本の具体的な内容は不明。そもそも天魔戦争自体、でっち上げの神話だった可能性もある。ともかく、世界を創造した神聖なる上位存在……神がいることは当時の人々も信じていた。で、魔脈調整神殿の神官たち……つまり一部の強力な魔導士たちは、『自分たちはその神のお告げで世界を導くのだ』と言って、民を上手くまとめていたらしい」


「便利ですね! 神様」


「そうだね。でも……私欲のために魔脈を狙う者たちも次々に現れ、管理は次第に困難になった。だから管理者たちは神殿を結界で隠し、神官選任基準もより厳しいものに引き上げていった。そうして少数精鋭の秘密組織で管理をするように体制を整えていったんだ。ところが……終にその中に裏切り者が現れ、管理組織は崩壊。幸い、その頃には世界の魔力総量が落ちていたため、神官たちによる魔脈の管理は必要なくなっていた……ということらしい」


魔力総量が落ちていたと言っても、大陸統一戦争前の話。現代とは魔力基準が違いすぎる。

セスとネリアが古の世界に思いを巡らせようにも、まるで想像がつかない。

2人の興味深そうな表情を見て、ローレンは嬉しそうに語り続ける。


「とはいえ神殿をそのまま放置もできず、かといって壊してしまうわけにもいかず、結局、選ばれた魔導士一族が見回り点検だけ続けることになった。いつか必要になるかもしれない時に備えてね。彼らは結界を新たに張り直し、その内へ入るための特別な鍵を用意し、それを代々一族の優秀な魔導士に託していたという。鍵の正体には諸説あって……一説には、特別な精霊がそうだったとも……」


「……ステラがそうかもしれないってことか」


顔色を窺ってきたローレンと目が合い、セスは渋い顔をした。

いよいよカヅキから聞いた御伽噺の内容が現実味を帯びてきたわけだが……


「ダメだ。危険すぎる。ステラは貸せない」


「まだ何も言ってないじゃないか」


「今聞こうとしただろ? 絶対にダメだからな」


実体化したステラの安全を考えると、セスはステラをこの森へもう連れて来たくなかった。

一方、ネリアはそうではない。


「え〜! でもセス、本当に遺跡で魔脈の調整ができたら仕事が一気に片付くし、もう遺跡が使い物にならなくなってたとしても大発見だよ〜? そもそもステラちゃんは魔脈調整の役割を果たすために、私たち人間の前に現れたんだから! ステラちゃんにとってもイイ話じゃんっ」


「昔話を信じるならその可能性が高いってだけで、ステラ自身はまだ碌に精霊としての自覚なんか取り戻せてないだろ。自分でかけた剣の呪いの解き方だってわからないんだぞ?」


セスは自分の鞘からいまだに発光し続ける緑の剣を抜いて見せた。


「う〜ん……私たちが人間扱いしすぎたせいで、精霊らしさを失いつつあるのかなぁ? それはそれでまずいかも……?」


「それは……」


セスは言葉に詰まった。いつの間にかステラを人間の家族のようにさえ思っていた自分を痛感してしまったからだ。

すると、再びローレンが口を開く。


「セスさんの言うことは尤もで、遺跡探しは非常に危険だ。結界内には侵入者対策の罠が幾重にも施され、警備用ゴーレムも多数配備されていたというからね。それに、件の一族が衰え、遺跡巡りの習慣が途絶えて久しい。固定魔法切れによる遺跡老朽化の問題の他、結界内に魔穴が発生して魔物が棲みついている可能性もある。……いっそ水の国の遺跡のようだといいんだが……」


「水の国の遺跡……⁇」


「水の国では、大きな港町近郊で殆ど崩壊した謎の遺跡が発見されたんだ。オレも妹と実際に現地を訪れ、許可された範囲で調査したことがある。その建築様式や建材から時代と用途を考察するに、魔脈調整遺跡であった可能性は高かったんだが……その真偽を巡り、当時の研究会メンバーと対立してね……拗ねた妹が抜けるというので、オレも一緒に抜けてきたんだ。けど、あれから何十年も経って、研究会メンバーも入れ替わった。妹は戻ってやり直せるはずなんだ」


「ローレンさんは戻らなくていいんですか?」


「実のところ、オレは学者としてイマイチでね。優秀な妹の助手をすることで、なんとか立場を保っていただけなんだ。でも、妹は違う。本物の天才だ。だから、その才能を活かせる可能性は拡げておいてやりたい」


ローレンは姿勢を正し、頭を下げる。


「頼む。石畳があったこの場所の調査だけでも、ステラさんに同行してもらいたいんだ。勿論、『貸してくれ』なんて言わない。ステラさんは物ではないからね。それに、オレだけではもしもの時に不安だから、当然君たちにも同行を依頼するよ。ちゃんと納得してもらえる報酬を打ち合わせた上で」


「いいじゃん、セス! ローレンさんの妹さんのためにも、ステラちゃんと私たちのためにも、遺跡探ししよーよ! この前みたいにならないように、対策も万全に整えてくれば大丈夫だって。ローレンさんだって、危険な時はすぐに撤退を選んでくれる人だと思うしさっ」


楽観主義のネリアが明るく言うと、ローレンも安心して頷き、セスも不承不承ではあるが頷いた。


「前に死にかけたお前自身がそう言うなら……」


「そうそう! 前に死にかけた私自身がこう言ってるんだから♪」


ネリアのいつものようなお気楽ぶりに、セスもいつものように溜め息を吐き、覚悟を決める。


「で、ローレン? 本当にこの辺りに遺跡があるのか?」


「おそらく。妹が解読した古文書の記述によると、この大陸には12の魔脈調整神殿があったはず。古代の魔脈図を分析したところ、その内2つが地の国と風の国の国境付近……つまり、この山脈のどこかにある可能性が高いんだ」


「風の国側の可能性もあるってことだな」


「うん。あの国はいろいろとややこしくて調査しづらいからね……地の国側で見つかってくれることを願うよ」


風の国は崖だらけで、土地と土地が細かく分断された複雑な地形をしている。

そのため国として統一し辛く、力を持った各地の権力者が勝手に独立国を名乗り、地方分権の領邦国家時代が長く続いたという。


我こそが新しくこの国を統一するのだと野望に燃えた国、単に隣国の脅威を退けたかった国……そうした小国同士は頻繁に戦争を起こし、風の国以外の大国から疎まれていた。

そして、それを好機と思った火の国が『大陸の平和のため、風の国の内乱を収める』という大義名分を掲げて攻め込み、圧倒的な軍事力をもって蹂躙したのだ。


敗戦国である風の国は、火の国の属国となった。

だが、風の国は資源も少なく交通の便も悪く、豊かな火の国にとって、得たところで使い道の無い国だった。

その上、自国でも軍国主義に反発する内乱が起こり、風の国に構う余裕がなくなった火の国は、結局あっさりと風の国を手放した。


その後、大陸の良心と云われる水の国の取り成しもあって、風の国は今の国の状態に落ち着いたという。

近年では分断された土地を利用し、人里離れた怪しげな研究所が多数建てられているということで、危険視する者もいる。

しかし、『どうせ風の国』と、取るに足らないことと思っている者の方がずっと多い。


……地理的にも、歴史的にも、ややこしい国である。


「さて、今日のところは石畳を確認したら帰るよ。あまり遅くなっては婚約者を心配させてしまうからね」


「ああ、そうだな。手伝うよ。どうせこれから俺たちも、魔吸蔓を枯らして楔魔石を再調整しないといけないからな」


「本当にありがとう。とても心強いよ。君たちには助けられてばかりだ……おっと⁉︎」


ローレンはセスに続こうとして立ち上がったが、木の根に躓いてしまった。

セスは咄嗟にローレンを受け止めて支えたが、不本意ながら殆ど抱き合う格好になって顔を顰める。


「ほんっっと危なっかしいな! さっきだって変な絡まり方してたし……エルフってのは危機察知能力とかが高くて、罠にかかるようなマヌケは珍しいんじゃないのかよ?」


「実は、エルフといってもオレはハーフエルフなんだ。でも、妹はオレと違ってしっかりしてるからな……オレが少しだけ抜けてるのかもしれないね」


天然ボケのローレンはセスの嫌味にも気付かず、平和な笑顔を浮かべている。

これじゃ相手の頭が悪いというより、自分の性格の方が悪いようだ。そう感じてセスは黙った。

代わってネリアが会話を繋ぐ。


「じゃあ婚約者さんもハーフエルフなんですか? それとも……」


「彼女は人間だよ。……オレの父はエルフだけど、病気で早くに亡くなってね。オレと妹は人間の母に育てられたんだ。そのせいかオレも好きになる女性は必ず人間で、彼女だけでなく、今まで付き合った女性は全て人間だよ」


「そうなんですか〜。今まで全て、って何人くらい付き合ってきたんですか?」


「そうだな……ええっと……1……2……3……」


ローレンは真剣な表情でゆっくりと指折り数え始めた。

その様子を見たネリアは、軽率な質問だったと反省した。

きっと種族の壁が原因で別れたりしてきたのだろう。寿命差で死に別れたりもしたかもしれない。


「6……7……8……うん! 婚約者を除いてちょうど8ダース、96人かな」


「「だあす⁉︎⁉︎」」


ネリアもセスも叫ぶように聞き返した。

馴染みの単位であるはずだが、恋人を数えるのに使われるのは初めて聞いた。


「何故か相手が急に冷めてフラれることが多くてね。でも、3ケタに届く前に結婚してくれる人が見つかって本当に良かったよ。ははは」


絶句する2人を前に、ローレンはただ朗らかに笑った。



『ゼロ教』やら『天魔戦争』やらは実は水の国編のとあるキャラに関連したワードで、地の国編には関係無かったりします。いろいろ余分な話バラまいててすみません(´・ω・`)いつか水の国編も書きたいと思ってます……何年後かは不明ですが

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