7ー4.白か黒か
「正午開始の競泳大会参加希望者は、こちらにご記名お願いしますにゃー!」
スタート地点となる桟橋では、クリソベリル村長が受付をしていた。
夏の暑さにも負けず、相変わらずの露出面積0完全防備。見ているだけで暑苦しい。
一応夏用の薄い冷感素材、爽やかなパステルカラーに衣替えしているのが救いか。
そこへ……
「やあ、こんにちは。セスくんも出場するんだね」
「カヅキさん! こんにちは。強力なライバルになりそうですね」
「ああ、これでも去年の優勝者なんだ。島国出身だからね、海には慣れ親しんで育ったよ」
よく鍛えられた筋肉を持つ、麗しい水着姿のカヅキが現れた。
しかしその堂々とした肉体美に反し、キョロキョロと落ち着きのない様子だ。
「ところでセスくん、ニナを……僕の妻を見なかったかい? 僕が着替えてる間、更衣室の外で待ってくれてるはずだったんだが……」
「俺は見てませんけど……まだ女子更衣室にいるんじゃないですか?」
「いや、ニナは大会に出る僕の応援に来ただけで、泳ぎに来たわけじゃないんだ。だから外で待ってるって約束して……ンンッ⁉︎⁉︎」
突然、カヅキがギョッと目を剥いて、セスの後方に釘付けになった。
何事かと振り返ったセスも、同じく釘付けになる。
「カヅキさぁぁ〜〜ん♡♡♡♡ お待たせぇ〜〜〜♡ うふふふふ〜〜♡♡」
セクシーな白いモノキニ姿のニナが、今この瞬間にも水着から飛び出しそうなダイナマイトボディを大胆に揺らしながら駆けてくる。
布面積自体は普通のビキニより多いデザインだが、それでも規格外のニナを包むには全然足りていない。
セスの目には刺激が強すぎて、ゆっさゆっさと揺れる爆乳がスローモーションに映った。
思わずその揺れに合わせ、自分の首を揺らしてしまうほどである。
「ニナっっっっ‼︎‼︎‼︎‼︎」
そんなスローモーションの世界から目を覚まさせるように、セスの耳にカヅキの緊迫した声が響いた。
あまりにも他の男からの視線を集めすぎる妻の姿に、夫カヅキは青ざめながら駆け寄る。
「なんでニナまで水着になってるんだよ⁉︎ 今日は泳がないで僕の応援をするだけって約束だっただろ⁉︎」
「うふふ♡ サプラ〜〜イズっ♡♡♡ どぅお? ダーリン、驚いてくれた⁇」
「死ぬ程驚いてるよ……ッッ‼︎‼︎ と、とにかく、ニナは今すぐ僕と帰るんだ!」
「えぇ〜〜⁇ ダーリン、競泳大会は〜⁉︎⁉︎」
「もうそれどころじゃないんだよ!」
一刻も早くニナを人目に付かないようにしたいカヅキは、オロオロするニナの肩をがっしり捕まえて引きずるように急いで歩いた。
すると、そんな2人の進路に1人の女性が立ち塞がる。
「カオル……⁉︎」
「カヅキさん、ニナをそんなに乱暴に扱わないでください! ほら、ニナはこれを着て……」
カオルコは自身の着ていた白衣を脱ぐと、それを水着のニナへかけた。
ニナが促されるまま白衣へ袖を通すと、カオルコは手早く白衣のボタンを留めていく。
「ほら、これで前を閉めれば……まあ、ニナだと胸が大きすぎて全てのボタンは留めきれませんが……水着よりは肌が隠れて、カヅキさんも落ち着けるでしょう?」
サイズの合っていないぴちぴち白衣姿のニナは、それはそれでまだ刺激的な姿ではあった。
それでも、水着だけでいるよりはずっと安心できる。
「ありがとう、カオル。助かったよ。でも……君はこの後、その姿で仕事する気なのか?」
今度はカオルコが心配になるカヅキ。
ニナに白衣をあげたことで、カオルコ自身は水着姿になったからだ。
洒落たカットが施されたシンプルな黒いワンピース水着は、カオルコの淑やかな色気をよく引き出している。
「ええ、暑いのでちょうどいいです」
「まったく、ニナといい、モモといい……女性が人前で肌を晒すことは、もっと慎んでほしいものだよ」
額を手で覆いながら大袈裟に嘆息するカヅキに、カオルコはくすくすと笑う。
「頭の古い人ですね。でも、娘たちのことならご心配なく。悪い虫がつかないよう、私がちゃんと見張ってますから」
「君自身も気をつけてくれよ?」
「ニナはともかく、こんな普通のおばさんを心配する必要はありません」
「僕みたいなおじさんからしたら、君たち2人はまだまだ若いさ」
カヅキが自虐的に笑ってみせると、カオルコは少し顔をしかめた。
「説得力があるほどの歳の差じゃないでしょうに。それはそうと……更衣室は競泳大会前の今が一番混んでますから、2人はもう着替えずそのまま帰った方がいいですよ。今日が海開きなのは村中知ってますから、水着で歩いていてもおかしく思われないでしょう。荷物なら私が後で持って帰りますし。それに……どうせ今着替えたところで、家に着いたらまたすぐニナに着せてお楽しみになるつもりでしょう?」
すっかりお見通しのカオルコに、カヅキもニナも赤面して俯いた。
カオルコはそんな2人の背を押して、早く帰るよう促す。
「すまない、カオル……」
「お気になさらず。気を遣うのは私の役目ですから」
「ご、ごめんねっ、カオルちゃん……」
恋人繋ぎで帰っていく親友と幼馴染の夫婦を、カオルコは見えなくなるまで見送った。
***
「よっ、青年! 白い水着の人妻と、黒い水着の未亡人……キミはどっちに見惚れていたんだい?」
「げっ⁉︎ ソラ……」
まだ呆然と3人の方を眺めていたセスの肩を、ソラがニヤニヤしながら叩いた。
「言葉にして並べてみると、なかなか究極の選択だよなぁ……それじゃーオレは間をとって、白い水着の未亡人を選ぶことにしよう!」
「下らない冗談ばっか言ってると魔女にフラれるぞ? で、ソラも競泳大会の参加申し込みに来たのか?」
「いやいやまさかー! そういうイベントはオレの担当じゃないさ。オレの担当は本日ラストの花火大会! 森に住む魔女さんに届くよう、オレのハートの炎をド派手に打ち上げるぜ‼︎ 青年も是非観ていってくれよな♪」
「そりゃ楽しみだ。粉々になって夜空に消える様を見物させてもらうよ」
セスの嫌味も笑い飛ばし、ソラは祭運営部のテントへ消えていった。




