7ー1.海開き祭
ダイヤの月、初週。
「もぉ〜〜、恥ずかしがってないでサクラも脱げばいいのにぃ〜」
「無理だよ、モモちゃん……やっぱり恥ずかしい……」
「むぅ! せっかくモモも一緒に可愛いの選んだのにぃ〜〜」
海開き祭で賑わう浜辺。
既に水着姿になったモモは、水着の上にワンピースを着たままのサクラを責付いていた。
しかし、サクラは両腕を胸の前でギュッと抱き、激しく首を横に振る。
「だって、今日はあの人来ないかもしれないし……それに……」
サクラは言い淀んで、隣のモモを見た。
リボンの付いた赤ビキニが、母親譲りのナイスバディで今にもはちきれそうな迫力!
圧倒的巨乳美少女であるモモの隣で水着になるのは、余りにも惨めで残酷なことに思えた。
「はぁ……」
「サクラってば〜」
落ち込むサクラに、いつものように励ましのハグを試みるモモ。
そのままじゃれるうち、お互いに背中合わせで腕を組み、担ぎ合いの体勢に落ち着く。
「ほらぁ、サクラももっと堂々と胸張って〜」
「むーりー。わたし、モモちゃんみたいに胸無いもんっ」
「大丈夫よぉ〜、小さい方が好きな人もいるから♪」
「あの人は違うと思う〜」
そんな2人の元へ、サングラスをかけた如何にも軽薄そうな男が歩み寄る。
「よ〜っス♪ そこの可愛いお嬢ちゃんたち、オレも混ざっていいかい?」
「「⁉︎」」
急に声をかけられて驚いた2人が見ると、ソラはサングラスを額にずらしながら悪戯っぽくウィンクした。
「なぁんだ〜、ソラさんじゃないですかぁ〜」
「驚かさないでくださいよ。ビックリしたじゃないですか」
見知った顔にホッとした2人。ソラとは少し歳が離れているが、狭い村なので『近所の兄ちゃん』的存在として馴染んでいる。
「ゴメン、ゴメン。2人とも楽しそうだったから、つい。ところで、モモちゃんは水着なのに、サクラちゃんは泳がないの?」
「わたしはいいんですっ……それに、モモちゃんも泳ぎにきたわけじゃないですよ。わたしたち、今日はお母さんの出張診療所のお手伝いに来たんです」
そう言ってサクラはカオルコのいるテントの方を見た。
少し離れたテント内では、白衣の下に黒い水着を着たカオルコが備品のチェックをしている。
「ほほぅ……なかなかセクシーな女医さんだねぇ。でも、なんで先生まで水着に?」
「それはねぇ、モモがカオルコ先生にお願いしたの〜。サクラが水着になるのを恥ずかしがるから〜、少しでも和らげてあげようと思って。なのにサクラ、結局水着にならないなんてひど〜いっ! せっかくカオルコ先生も頑張ってくれたのに、きっとガッカリしちゃうよ〜?」
「うっ……ごめんなさい……」
「まあ、本当はモモもカオルコ先生の水着姿見てみたかったからなんだけどねぇ〜」
サクラが申し訳無さそうにすると、すぐにフォローを入れるモモ。
別に本気で責めたいわけではなく、ただサクラが可愛くてからかってしまうだけなのだ。
そんな2人の様子を見ながら、ふとソラはあることに思い至る。
「はははっ! そういうことか。さてはサクラちゃん、例の一目惚れした彼に水着でアピールしようと思ってたんだろ? それで勝負水着を用意したものの、恥ずかしくなったと。だからモモちゃんは、サクラちゃんが水着に慣れるよう応援してるんだな」
「わぁ、流石ソラさん〜。説明の手間が省けますねぇ。そうなんですよぉ……だって彼、正式にここの村人ってわけじゃないし〜。サクラはもっと積極的にアピールするべきでしょう〜?」
「うう〜、わたしの話はもうやめよう?……あ、そういえば! ソラさん、今日は魔女さん連れてこられなかったんですか?」
他人の恋路に首を突っ込めば、自分の恋路にも突っ込まれる。ソラは苦笑した。
「こういう祭りの日に連れてくるのは諦めてるさ。なんとか空いてる日に、人の来ない岩場の向こうの浜へでも誘ってみるよ」
「あ〜あ、モモ、魔女さんと直接お話したかったなぁ〜。ソラさん、いつか連れてきてくださいよぉ〜?」
「おう! 任せてくれ!」
「うふふ〜、よろしくお願いしますねぇ〜」
実は、魔力切れを起こした魔女をモモが診た後日、魔女がソラ伝てでお礼の薬草を送り、モモもまたソラ伝てでそのお礼のお礼の調合薬を送り……
そういうきっかけで、魔女とモモの間に『薬草研究仲間』の繋がりが出来上がっていたのだ。
ただ、そのやり取りは全てソラ伝てで、気絶中の魔女を診たモモと違い、魔女はモモの顔は知らなかったりする。
***
一方その頃、魔女はというと……
「……っなんなんですかぁ⁇ ソラくん……若い女の子たちと随分楽しそうじゃないですか……‼︎ やっぱり私のことなんか全然本気じゃないんですよ……!」
自宅から望遠水晶を使い、浜での様子を覗き見していた。
巨乳美少女モモと談笑しているソラの様子に、ただの巨乳好きと断定して不機嫌になる魔女。
その背後、背もたれにとまったクロは、魔女のうなじに垂れた紐をついばむ。
はらり……
「キャッ⁉︎……ダメですよ、クロくん。解かないでください……っ」
こぼれた胸を手で押さえ、慌てて結び目を直す魔女。
そのいつもと違う姿に、クロの突き刺すような視線が注がれる。
「ギーー……」
「く、クロくん……コレはそのっ……洗い物が溜まってて、だ、だから、仕方なく着ただけですよっ?……今日は暑いし……これでも、裸や下着よりはちゃんとしてるでしょう……?」
魔女はクロに苦しい言い訳しながら、ソラに貰った白ビキニをもじもじと指先でなぞった。
小さな三角形の布地を細い紐で繋いだ、頼りない水着。頼りない魔女によく似合っている。
「そ、そうだ……! クロくんっ……今日は、お洗濯ついでに私たちも川遊びしちゃいましょう……!」
「ギィ!」
海で遊べなければ、川で遊べばいいじゃない。
魔女は大ダライに汚れ物をかき集めると、洗濯板を小脇に抱え、外へ飛び出した!




