6ー4.ステラの部屋
「セスー! セスー! みてみてー! どうー?」
「あー、ハイハイ……かわいー、かわいー……」
「えへへ~~♪」
時既に夕刻。今日は家から一歩も出ていないというのに、セスは昨日と同じく疲れ切っていた。
ネリアの用意した荷物をステラの部屋へ運び、模様替えを手伝ったまでは良かったのだが……
「じゃあステラちゃん、今度はこれ着てみよう!」
「りょーかいなの!」
その後ずっと、ネリアに着せ替え人形にされるステラのファッションショーに付き合わされていたせいだ。
もし正直に面倒だと拒めば、ネリアから糾弾されてもっと疲れることになっていただろう。
女とは厄介な存在である。
「てか、よくステラの着替えなんてこんなに用意してたな」
「うんっ。昨日ピアちゃんにステラちゃんが実体化したこと話したら、子供の頃着てた服をすぐに用意してくれたんだ〜! レミくんの手作りのとか、大事にとっておいてたんだってさ。あと、今朝ここに来る前にリーナちゃんからも貰ってきたよ! ステラちゃんの日用品をお店で買う代わりにね」
「さすがピアさん、気がきく。リーナもしっかりしてるな」
「あ、でも、下着は2人のじゃなくて、新品のだよ。セスは使用済みが欲しかったよね。残念だね」
「そんな発想すら無かったっつーの。人を勝手に変態にするな」
「靴もね、ちゃんとステラちゃんサイズを用意したんだ~。昨日とりあえずカオルコ先生にもらった履物は、ステラちゃんには合ってなかったからね。あと、さっきのシャワーついでに、シャンプーとかブラシとかもステラちゃん用をセット済みだよ」
「やけにいい匂いがすると思ったら、そういうわけだったのか」
順調にこの家がステラグッズに侵食されていきそうな気配を感じ、セスはステラを見てため息を吐いた。
そんなセスにステラは顔を輝かせて駆け寄る。
「セス、ステラいい匂い? クンクンしていいよ!」
「いや、いいって……そこまでしなくてもわかるから……」
何気ない一言にいちいち反応して抱きつくステラを、セスはそっと押し返す。
セスがいくら気をつけてもステラがこの調子では、またいつ今朝のような事態になるかわかったものではない。
「なぁ、ネリア? ステラのことなんだけどさ、やっぱりお前と一緒にピアさんの家で暮らした方がよくないか? 今後は俺たちの任務中、ピアさんにステラを預けることになるし。実体化したおかげで、剣を媒介に魔力吸収することもなくなったみたいだしさ」
しかも、憑かれる以前よりセスの魔力回復速度は上がっていた。
例えるならば、ずっと重りを付けてトレーニングしていたようなものだったからだ。
あの巨大植物との戦闘直後、ネリアに分け与えられるほどの魔力が回復していたのも、そのおかげだったのだ。
「ん~……でもステラちゃん、すっごくセスに懐いてるからなぁ。ねぇ、ステラちゃん? セスか、私とピアちゃんか、どっちと一緒に暮らしたい?」
ネリアが問うと、ステラはセスの後ろにぺったりと張り付く。
「ステラね、ネリアもピアもだいすきなのよ。でもね、セスがいいの。ステラ、セスのこと、いちばんだいすきっ!」
「ほらっ! ステラちゃん自身がこう言ってるんだもん! もう剣に憑いてるんじゃなくて、セス本人に懐いてるんだってば!」
「でもなぁ……」
まだ迷いのあるセスが視線を下ろすと、少し心配そうな顔で見上げているステラと目が合った。
ステラは唇をきゅっと閉じて、セスの答えを待っている。
「そうだな……わかったよ。ステラ、これからも俺と一緒に暮らそう」
「やったぁ~~なの! セス、ずっといっしょにいるの!」
大喜びでセスに抱きつくステラ。
セスがその頭を撫でてやっていると、ネリアがこそっと耳打ちする。
「それに……シャワー中、ステラちゃんの体を確認したから。ソラさんの予想通り、人型の精霊でも性別とか生殖器は無いみたい。胸だってツルツルで、何もついてなかったし。それなら、セスが間違いを起こす心配も無いな~って」
「当たり前だろ。俺がステラ相手に変な気起こすわけ無いっての」
「うんうん、安心! さ、ステラちゃん、次はこれ着てみよ〜」
「はいなの!」
ネリアは当たり前のようにステラをセスの目の前で脱がせた。
そうして次の服を着せると、再びステラの髪をいじり始める。
今度はお団子だ。
「しっかしまあバリエーション豊かなもんだなぁ」
本日すでに幾度も繰り返された光景を眺めつつ、セスはレースリボンの付いたカンカン帽をクルクルと回した。
するとステラはそれに興味を惹かれ、ネリアの前から離れてしまう。
「ステラ、それかぶりたい! セス、かぶらせて!」
「え~~っ! せっかくお団子したのに、潰れちゃうよ~っ? も~……」
落胆しつつも、すぐに帽子に合う服を選び始めるネリア。
ベッドに並べた春夏ものの服を見渡して、ある物が無いことに気付く。
「そろそろアレも用意しないとね~」
「アレって?」
セスの問いには答えず、ネリアはニヤリとしてベッドに腰かける。
「まあアレの準備は私に任せてよ。それよりさ、このベッドちょっと硬くない?」
ギシッ……ギシギシ……
ネリアは体を上下させ、マットレスの具合を確かめはじめた。
ギッ、ギッ、ギッ……
「いや、そっちはよく弾んで充分柔らかそうに見えるぞ。俺のは少し硬いかも……」
「えー? セスのと同じマットレスじゃないの?」
セスの視線はマットレスより高い位置に注がれているのだが、ベアトップとショートパンツ姿のネリアはそれに気付かない様子だ。
セスは安心して注視を続けることにしたが……
「ねぇステラちゃん、昨日はここでよく眠れた? 何か気になることがあったら、何でも言ってくれていいからね」
「ううん! ベッド、なにもなかったなの! だってステラ、セスとおやくそくしたの。このベッドであったことは、ぜったいにひみつだって……だからネリアにもおしえないなのよ」
「…………」
口の前に人差し指を立てて「し~っ!」と秘密であることを強調するステラ。
再び凍りついたセスへ、短剣を抜きながらゆっくりと振り返る般若ネリア。
「ねぇ、ケダモノ…………刻む? 千切る?」
結局その後、誤解を解くのには軽く2時間を要した。




