4ー6.一難去って……
実際に精霊少女の体を抱き上げてから、セスはその変化に気が付いた。
さっきは精霊少女に触れられないことは考えずに、つい助けようと体が動いていた。
もしそうしていなかったら、この軽くて脆そうな少女の体がどうなっていたのか……想像しただけでセスは全身が凍り付く。
「すぅ……すぅ……」
セスの腕の中で、精霊少女は小さな寝息を立てている。
さっきまでの出来事が嘘のように、とても安らかな表情だ。
「こいつ……大丈夫、だよな? たぶん……きっと。はぁ~~……」
「おい‼︎‼︎ 嬢ちゃんが大変だ‼︎‼︎」
セスが安堵の長い溜め息を吐き終わらないうちに、遠くからソラが叫んだ。
セスがそちらを振り返ると、跪いたソラのすぐ傍の地面に、ネリアが仰向けで寝かされていた。
「ネリア⁉︎」
セスは大急ぎで駆け寄ると、精霊少女をソラに預け、目を閉じたネリアの口に自分の耳を寄せる。
呼吸はしているが、かなり弱い。触れた頰の冷たさに、セスは息が止まりそうになった。
ネリアの体内魔脈を感じようとすると、全身の魔力がすっかり枯れているのがわかる。
セスは身体の芯がギュッと絞られたような感覚がして、全身から冷や汗が噴き出した。
「死ぬなよ相棒……お前が死んだら、俺は先生にお前の後を追わされちまうぞ?」
セスにとって大事な相棒である以前に、大切な幼馴染で義妹でもあるネリア。
絶対に死なせない。
セスは深呼吸して自分の体内魔脈に意識を集中させると、魔力を両手の平に集めた。
それをネリアの額と胸へ同時に乗せて、ネリアの体内魔脈に自身の魔力を注ぎ込む。
体内魔脈のうち、動力を生むものは胸、制御するものは頭に集まっているといわれている。
だからその2箇所へ集中して魔力を流し、弱まったネリア自身の体内魔脈の循環を戻すのだ。
自身の体内魔脈とネリアの体内魔脈を繋げるイメージをしながら、セスはネリアに魔力を送り続けた。
すると……
「……ぅ…………す、……せす……⁇」
ネリアの目が薄っすらと開き、セスを見た。
「よし! 気がついた! 体内魔脈もまた巡り始めたぞ……ネリア……‼︎」
戻ってきたネリアの体温を、セスはしっかりと抱き締めて確認する。
「せす……、あつくるしいよ……」
耳元で呟かれる文句を、セスは泣いて喜んだ。
2人の様子を間近で見ていたソラも、釣られて少し泣きそうになる。
「いやぁ~、驚いた……しっかし青年、よく嬢ちゃんに分ける魔力があったな……やっぱ愛の力ってやつ⁇」
「それが……俺にもよくわからないんだが、さっき1度気絶してから、急に俺の体内魔脈の回復速度が上がったみたいなんだ……といっても、今はネリアを助けるので精一杯だ。戦う余力は無い。急いで村の診療所へ、ネリアとそいつを連れてくぞ!」
「ああ、そうだよな! 急ごう……」
セスは背負ったネリアをロープで自身に括り付けると、元の道に戻るために窪地の斜面を登ろうとした。
ソラも鞄を前に掛けて、精霊少女を背負おうとしたが……
「おおっと? なんだ……精霊さん、起きたのかい?」
「ん!」
目を覚ました精霊少女はソラから離れると、小さな歩幅の足を忙しなく動かし、セスへと駆け寄った。
「せしゅ!」
「うわ! 起きた! てか、俺の名前呼んだ⁉︎」
精霊少女はセスのズボンのポケットに手を引っ掛けて、ぐいぐいと引っ張ろうとするが、少女の力ではセスはびくともしない。
「お前も大変だったけど、歩けるならよかった。今は急いでネリアを連れてかなきゃならないんだ」
「んー! んー!」
「だから急いでるんだって! わかれよ‼︎」
「~~っ!」
セスが怒鳴ると、精霊少女は顔をしわくちゃにして泣くのを堪えた。
……それでもまだ引っ張り続けている。
「いったいなんなんだ……⁇」
何を伝えようとしているのか知ろうと、セスは精霊少女を見つめた。
***
一方その頃、セスたちから離れた樹上にて、魔女はほっと胸を撫で下ろしていた。
「良かった……誰も死んでません……! これから村に帰るみたいです……さあ、クロくん……私たちも帰り、ま、しょ……う?」
しかし樹から降りようとした途端、魔女を強烈な眩暈が襲った。
ずっと蔓の攻撃範囲外にいて無傷だった魔女も、限界まで魔力を出しきって疲労していたのだ。
「ギイイイ……‼︎」
落ちそうになった魔女の肩をクロが掴んで、そのままゆっくり地上へ降ろそうとした。
だが、あと少しで魔女の足が地面に届く高さまで来たとき、魔女の両腕がローブの肩からツルリと抜ける。
ドスンッ‼︎……パタリ
「……ばたんきゅー、です……」
地面に強く尻餅をついた魔女は、草の中に倒れて気を失ってしまった。
「ギイイーー‼︎ ギイイイイーーーーッッ‼︎」
迷いの森にクロの叫びがこだまする……
***
ィィィーーッ!
「!」
窪地にいるセスたちの耳へ、甲高い魔物の鳴き声が届いた。
「まずいぞ、魔物の鳴き声が近い……ソラも急げ!」
セスはソラへ呼びかけると、精霊少女を振り払って斜面を登り始めた。
しかしソラは、鳴き声のした坂上の森を見上げていたかと思うと、急にそちらへ走り出す。
「すまん‼︎ オレは確かめたいことがあるから、先に村へ帰っててくれ!」
「ソラ⁉︎ おい! 待て‼︎」
セスが止めるのも聞かず、ソラは村とは反対方向の斜面を登り始める。
「せしゅ!」
困惑するセスに、少し遠くから精霊少女が叫んだ。
セスが振り返ると、精霊少女はソラともセスとも違う方向の斜面にいた。
「あっ、こら! お前までどこに行くんだ⁉︎」
「ねりあ、いそぎゅ! むりゃ! ちかい、ん!」
精霊は舌足らずで聞き取りにくい声を張り上げると、猛然と斜面を進み始める。
「待て! お前、今『ちかい』って言ったな? そっちが近道なのか⁉︎」
「…………」
精霊少女はもう進むのに一生懸命で、その呼びかけに答えてはくれなかった。
だが、方向的には合っている。途中に進行の妨げになるものが無ければ、元の道に戻るより最短距離で帰れるだろう。
「今はネリアが最優先だ。ソラ……絶対に生きて帰れよ‼︎」
セスは精霊少女の案内に賭けることにして、彼女がいる方の斜面へと駆け出した。
***
ガサガサガサ……
「鳴き声はこの辺りからだったはず…………あれはっ⁉︎」
坂上の森へやって来たソラは、数メートル先の草むらにあるものを見つけてドキリとした。
深緑の中に広がった、やや光沢のある真紅。
動悸のする胸を冷や汗の滲む手で押さえながら近付いてみると、それは血溜まりではなく真っ赤なローブだった。
「ギイ‼︎」
バササッ……
ソラがローブを拾い上げると、白骨の頭と爪を持つ黒い鳥が飛びだしてきた!
森の魔物だが、ソラにとっては見覚えのある魔物だ。
「クロ⁇ クロだよな⁉︎ やっぱりさっきの声はクロだったんだ……ということは……」
ガサッ‼︎
ソラが急いでクロの現れた茂みの向こうを覗き込むと、草の中に真っ白な少女が倒れている。
「魔女……‼︎」
白い髪、白い肌の美少女。
白いフリルのミニ丈ワンピースがヘソまで捲れて、丸見えになっている下着の色さえ純白。
その幼い顔立ちと小柄で華奢な体躯に反して、呼吸で上下している胸だけは仰向けの状態でもわかるほど大きかった。
ここまでで一区切り。
タペストリーシリーズのあらすじは全部出来てるけど、ちゃんとした文章にするのは苦手でめちゃくちゃ遅筆。
またキリのいいとこまで書けたらまとめて投稿予定。
年内に次の投稿ができるかすら怪しいですが、生きてる限りは書き続けます〜




