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1ー2.幼馴染トリオ


「……あら?」


前庭で植え込みの剪定をしていた村娘ピアは、山から此方へ近づいて来る蹄の音に気付いた。予定時刻より少し早い隣国からの来客だ。

ピアは被っていた鍔広の麦わら帽子を玄関に置くと、彼らを出迎えに家の横の通りへ出た。


***


「おぉ……空が広い……」


ネリアがクッションの礼にレミの大荷物を手伝おうとするのには構わず、セスは一足先に車外へ降りた。

青空の下で思い切り伸びをし、凝った体を解していると、誰かが御者に挨拶するのが聞こえた。

レミを除けばこれが第一村人との出会いとなるのだ。そう意識してセスは姿勢を正す。


「こんにちは。火の国からお越しの公認魔脈管理士の方ですね?」


「ああ、はい。魔脈管理士のセスです……」


「はじめまして、ピアと言います。ようこそ、わたしたちの村へ。長旅お疲れ様でした」


一礼してにっこりと微笑むピアを前に、セスは妙に緊張してしまった。


袖口に小花柄の別布を合わせた、バレリーナネックの白い七分丈。緑の細リボン飾りの付いた、独特なドレープの黄色いミモレ丈スカート。花の刺繍が入った腰巻エプロン。

三つ編みにした金髪は陽光にきらめき、明るい緑色の目は春の若草を思わせる。近付くと風に乗ってほのかな花の香りがする。


不思議な少女だ。温かく親しみやすい雰囲気とは裏腹に、こんな田舎の村娘とは思えないような気品をも漂わせている。

セスの目にピアは、光を纏うというよりも自身で光を放っているようにさえ見えた。


「ピア‼︎」


「レミくん⁉︎」


セスがピアの神々しさに圧倒されていると、大荷物を抱えたレミが2人の間にずずいっと割り込んできた。

大きな目をキラキラ輝かせ、白い頰を薔薇色に染めたレミの表情は、正に恋の虜といった様子だ。


「出迎えてくれて嬉しいよ! これ、お土産……ピアに似合いそうな物をいろいろ用意したんだ。気に入ってくれるといいんだけど……」


「まあ!……向こうからもいろいろ送ってくれたのに、更にこんなにたくさん⁇ お気遣い、ありがとうございます。1年ぶりですね。レミくんも今日帰って来るなんて驚きました」


「ピアに早く会いたくて、最短の予定で戻って来たんだ! 手紙で知らせる間も惜しいし、驚かせたくて……ねぇ、ピア? 僕がいない間、心細かったかい?」


熱っぽく尋ねるレミに対して、ピアは笑顔で首を横に振る。


「大丈夫でしたよ、レミくんはいつも手紙をたくさん送ってくれていましたから。それに、わたしにはリーナちゃんがいてくれました。リーナちゃんも、レミくんに早く会いたがっていましたよ」


「そんなことよりピア、僕の作った服、とっっても似合ってるよ! イメージ通り……いや、それ以上に……」


「ええっ‼︎ そのお洋服、レミさんが作ったんですか⁉︎」


唐突にネリアがレミの横から顔を出した。


「わああ〜、可愛い〜〜っ! もしかしてレミさん、ご実家は仕立て屋さんですか?」


「違うけど……」


再会に水を差されたレミが不機嫌な声で一言だけ答えると、それに代わってピアが言葉を続ける。


「レミくんは昔からお裁縫が得意で、火の国へはデザイナーのお勉強に行っていたんです。帰国後は村の仕立て屋さんで働くことが決まっているんですよ。ところで……もう1人の公認魔脈管理士さんですよね?」


「あっ! はいっ、魔脈管理士のネリアです!」


慌てて背筋を伸ばしたネリアが落ち着きのない挨拶をすると、ピアはセスのときと同様に丁寧な物腰で応対する。


「はじめまして、ピアと言います。わたしの家と、ネリアさんたちが滞在中に住むことになっている空き家は、川を挟んでお隣さん同士なんです。これからよろしくお願いしますね」


「こちらこそよろしくお願いします~♪」


バタン‼︎


女子同士が握手を交わして打ち解けていると、突然、川とは反対隣にある雑貨屋の扉が勢いよく開き、中からうら若き店主リーナが飛び出した。


「あーーっ! なんか声がすると思ったら、レミ‼︎ あんた、いつの間に帰って来たのよ⁉︎」


「うげっ、リーナ……営業中なのに店から出て来るなよ」


「うげっとは何よ! レミってば相変わらず失礼ね~」


大きな白いリボンを結んだピンクのポニーテールを揺らしながら、リーナはレミの前へと駆けて来る。


「相変わらずといえば、身長もやっぱり全然伸びてない! 成長期はこなかったの? ビッグになって帰ってくる、なーんて言ってたのにね〜。きゃはははは!」


「うるっさいな。それでもお前よりは高いだろ」


「まあね。あたしも伸びてないけど、おかげでサイズはバッチリよ♪」


リーナは腕を広げると、軽やかにくるりと回って見せた。

青いリボン飾りの付いた、ピンクのミディ丈キャミワンピ。その上に重ねた白いオフショルダーブラウスの胸元には、可愛らしいレースの花畑が咲いている。

背面から見ると、オフショルダーから覗くワンピースのクロスストラップと綺麗なうなじが印象的だ。


「ふふん、どうよ? あんたの作った服、着てやってるわ! あたしによ〜〜く似合ってるでしょ! こーんな可愛い幼馴染みに恵まれたことを感謝なさい♪」


得意気に笑うリーナは実際セスから見ても可愛いのだが、レミは全く興味が無いといった表情だ。


「どうでもいい。お前のはピアとサイズが近いから、ピアに作ったけど没にしたのを回してやってるだけだし……」


「なんですって〜⁉︎」


怒ったリーナがレミに掴みかかろうとすると、ピアが止めに入る。


「レミくんってばそんなこと言って、ちゃんといつもリーナちゃんの好きな色で作っているじゃないですか。リーナちゃんが先に身長のことをからかったから、レミくんもつい意地悪なことを言っただけですよ。それに今は長旅で疲れているはずです。積もる話は後にして、リーナちゃんも火の国からのお客様に挨拶しましょう?」


「あっ、そうだったわ!」


ピアに言われて、リーナはやっと余所者2人の存在を思い出した。

ポニーテールを大きく揺らしながら2人の方へ向き直ると、ニコリと笑って挨拶を始める。


「はじめまして! あたしはリーナ。ピアとレミとは幼馴染みなの。すぐそこの雑貨屋はあたしの店だから、滞在中はどうぞご贔屓に♪……ま、限界まで過疎っちゃってる今の村だと、店の選択肢自体あって無いようなものだけどね」


「俺はセス。向こうからは最低限の物しか持って来なかったから、君の店ではいろいろ買わせてもらうことになると思うよ」


「私はネリア。リーナさん、さっき『あたしの店』って言ってたけど、まだ若いのにもう店主さんなんですね?」


「ええ、そうよ。もともとはあたしの両親の店だったんだけど、災害後に2人とも都会で新しい店を始めることにしちゃってさ。でも、あたしは2人に付いて行くより、村に残ってこの店を継ぐことにしたの♪……っていうか、そっちこそ若くて驚いたわ。他国の公務員って言うからもっとずっと歳上かと思ってたのに、あたしたちと同じくらいなんだもの……って、店にお客さんだわ。戻らなきゃ……それじゃあ、またね♪」


少し話が長引きそうな気配もしたが、ちょうど雑貨屋に入ろうとしている村人の姿に気付き、リーナは慌てて店へ戻って行った。

リーナの姿を見送ると、ピアが話し始める。


「では、村長さんの所へ行く前に、お二人の荷物を空き家へ運びましょう。その後はわたしが道案内をします。……レミくんはまた今度ゆっくり、向こうでのお話を聞かせてくださいね。お土産、ありがとうございました。会えて嬉しかったです」


「あっ、あのさ! こいつらの荷物運び、僕も手伝うよ!」


「いいえ。レミくんだって疲れているし、荷物があるじゃないですか。それに、ご家族に早く帰郷を報告するべきですよ。村長さんにも」


レミはまだまだピアと一緒に居たかったが、ピアから促されて渋々立ち去ることにした。

最後に「ピアには手を出すなよ」という意味を込めてセスを睨みつけてから、レミは村長邸へ向かった。



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