4ー2.魔女とセス
奥へ進むと、思ったより近い距離に壁があった。
細長いスペースには魔女の寝床が置かれ、その横には人1人がやっと通れるくらいの間隔しか残されていない。
「そこに座ってください……」
「えっ……あ、ああ」
ギシッ……
魔女とはいえ女性のベッド。セスは少し緊張しながら腰を下ろした。
草木の匂いがするベッドは柔らかく、身体が深く沈みすぎて落ち着かない。
「では、まず目隠しをしますよ……」
股を広げて座ったセスの両膝の間に、魔女が入り込んできた。
前屈みになった魔女が正面からセスの後頭部に手を回すと、少し冷たくて滑らかな手触りの布がセスの視界を覆う。
「ええっと……自分でやる方が簡単ですよ? 俺に任せてもらえませんか?」
「それだと信じられませんから……」
視覚を封じられた分、セスは他の感覚が研ぎ澄まされていく。
魔女の肌から香る、ボディクリームの甘いバニラ。微かに聞こえる吐息と衣擦れの音。
さっきまで不気味に思っていた相手なのに、すっかり異性だと意識させられてしまう。
いつの間にか、森ではなく魔女に惑わされている。
「きつっ……魔女さん、絞めすぎて痛いですよっ」
「あっ……待って……まだダメですっ……う、動かないでください……ああっ!」
黒い目隠しの隙間からは、魔女の赤いローブが見えた。
更にその隙間からは、魔女の白い胸の谷間が見えた。
これぞ迷いの森の秘境、絶景である。
ぎゅぎゅぎゅーーっ
「ふぅ…………これだけしっかり結べば、大丈夫そうですね……」
5回目でようやく満足した魔女は結び直すのをやめ、セスの視界は真っ暗になった。
「あの? このあと俺は……?」
「何もしなくていいです……すぐ済みますから、黙ってじっとしててください……」
そう言うと魔女は、セスの両肩に自身の両手をそっと乗せた。
一度背筋を伸ばして深呼吸をした後、再びゆっくりと屈んでセスの額に自らの唇を寄せる。
「…………」
セスは額に熱を感じた。
直に接触はしていないが、間近に接近している。
魔女の魔力がセスの体内魔脈に干渉し始めたが、害意は感じられない。温かな祝福のようだ。
魔女に身を委ね、セスがだんだん気持ち良くなってきた頃……
ふわっ
「?」
ふと、セスの顔にふわふわしたものが触れた。
魔女の髪の毛だ。
魔法のエネルギーが空気に微かな渦を生じさせ、微風に揺られた魔女の毛先がセスの鼻先をくすぐりはじめたのだ。
ふわふわわ……
「⁇」
目隠しをされたセスはそれが何だかわからないまま、与えられる絶妙な刺激にただ必死に耐え続けた。
ふわふわふわわん……
「⁇⁇」
耐えて、耐えて、耐えて、……
……ついに限界を迎えたとき、抑圧された分蓄積した衝動は一気に解き放たれる!
「へぶしっ‼︎」
ぽにゅんっ♡♡
くしゃみの勢いで思いきり前のめりになったセスの顔面を、柔らかいものが包み込むように受け止めた。
しかし、それも束の間……
「キャッ」
ゴッ‼︎
頭上から可愛らしい悲鳴が聞こえた次の瞬間、セスは魔女に突き飛ばされて壁に頭を打ち付けた。
魔女の胸はセスを受け止めてくれたが、心は受け入れてくれなかったのだ。
「いってぇな! 何すんだよ⁉︎」
「きっ、君がビックリさせたせいです……! も、もう終わりましたからっ……早く出てってください……‼︎」
目隠しをしたままのセスを、魔女は杖でぐいぐい押し出そうとする。
「ちょっと待てって! あんたの結び方がきつすぎて、目隠しが取りにくいんだよ!」
「ク、クロくん‼︎ 彼を今すぐ、外に捨ててきてください‼︎」
「ギイイイイイイ‼︎」
クロの甲高くて悍しい鳴き声がセスの耳をつんざき、鋭利な骨の爪が肩を掴む。
「え、ちょっと、まじで何⁉︎ うわっ、イテッ‼︎ 爪‼︎ クロの爪、俺の肩に刺さってる‼︎ まじで刺さってるから‼︎」
「ええっ、セス⁉︎ 魔女さん、セスが何かしたんですか⁉︎」
「言いたくありませんっ……‼︎」
「うわーーっっ⁉︎」
バタン‼︎
相棒にも助けてもらえず、あっという間に外へと閉め出されたセスは、家の前の階段を無様に転がり落ちた。
「ふっっざけんな! あの汚部屋魔女‼︎ 肉体固定魔法が無かったら、俺は今頃重傷だぞ⁉︎ しかもさっき『捨てて』って言いやがったな⁉︎ 捨てるものなら他に有り余ってる部屋から、なんで俺が真っ先に捨てられなきゃなんねーんだ⁉︎」
憤慨して幹に拳を叩きつけると、頭上の窓がパカリと開く。
「セスさんっ、大丈夫ですか⁉︎ お怪我は⁇」
「ピアさん……! は、はい! 俺は無事です!」
セスが元気よく立ち上がって手を振ると、ピアはほっと胸をなでおろす。
「すみません、セスさん。魔女さんがセスさんを家に上げてはいけないとおっしゃるので……しばらくそちらでお待ちくださいね」
「あ、はい。お気になさらず……」
ピアはペコリと頭を下げると、すぐに内へ引っ込んだ。
1人になったセスがその場に座り込んで溜息を吐くと、肩にゾワリという感覚が走る。
精霊少女だ。
「お前……今はネリアに剣預けてるのに、俺のとこに来るんだな……」
セスが外で待つ間、精霊少女はキョロキョロしたりニコニコしたりしながら、セスの傍に寄り添うように浮かんでいた。




