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3ー7.言葉にしてない心

午後はセスとピアでリーナの雑貨屋の在庫整理を手伝うことになった。

本当はレミも残りたがっていたが、仕立て屋の仕事が溜まっているので仕方なく帰っていった。


「いや~、やっぱ男手があると捗るわ! 普段あたしが1箱ずつ運ぶものでも、セスさんってば3箱重ねて運んじゃうんだもの!」


予定より早く作業が終わりそうで、リーナは嬉しそうに言った。


「俺は男だし、今日は2人も一緒だったから余裕だけど……ご両親から店を継いで以降、リーナはこれをいつも女1人でやってるのか? 大変すぎるだろ」


「まあ、たまにピアやレミにも手伝わせてるから大丈夫よ。セスさんみたいに一気にたくさん運べないから、時間はかかっちゃうけどね。いい運動になってるわ。ほらっ、あたしだって鍛えてるのよー……見て! 力こぶ!」


リーナはセスの前でスルリと袖をまくって、自身の二の腕をあらわにした。

セスがリーナの小さな膨らみを指で突くと、確かに少し硬くなっている。


「へぇ、リーナのは可愛い力こぶだな。俺のは……ほら?」


「く~、悔しいけどまず太さが違う! 硬さも全然違う~」


セスも腕まくりして力こぶを見せつけると、リーナは羨ましそうにしながらセスの腕をペチペチと叩いた。


「あーあ、本当にレミとは大違いよね〜。レミは見た目と洋裁に女子力振り切ってて、男らしさとは程遠いんだものっ。頼りないったらありゃしないわ!」


リーナがわざとらしく大きなため息を吐くと、ピアも小さなため息を吐く。


「もう! リーナちゃんってばまたそんな言い方をして……本当はレミくんに構いたくて仕方がないんでしょう? 昔から大好きですものね」


「べ、別に! あたしはただ、幼馴染みとしてほっとけないっていうか、レミは生意気な弟みたいな存在っていうか……それだけだしっ⁉︎ あ、あたし、お店の棚確認してくるからっ」


リーナはあからさまに動揺して見せると、大慌てで倉庫を出ていった。

ポニーテールが揺れる後ろ姿を見送りながら、セスはつい笑ってしまう。


「はははっ。リーナみたいなのをツンデレって言うんですかね? あんなにテンプレートな反応する子は初めて見ましたよ。でも……レミはピアさんのこと好きですよね。ピアさん的にはどうなんですか?」


リーナが居ない隙にセスが思い切って踏み込んでみると、ピアは全くあり得ないという様子で笑う。


「まさか! 違いますよ。レミくんがわたしに優しいのは、気を遣ってくれてるだけです。師匠の帰りが遅くて、一時期わたしが不安定だったから……おかげさまで今はもうすっかり元気なんですけどね。まだ心配されているんでしょう。逆にリーナちゃんとはお互い遠慮のいらない相手だからこそ、意地を張り合っちゃってるみたいですね。ふふふ」


「…………」


レミの必死のアピールもピアにはまるで効いていないようで、流石にセスも心からレミに同情した。


***


リーナの手伝いも終わり、日も傾いた。

セスが雑貨屋から村へ出て行こうとすると、ピアは前の道まで見送りについてくる。


「お留守番の時間が遅くなるということは、ネリアさんは向こうでお夕飯を食べて帰られるのでしょう。なので、わたしはこのままリーナちゃんのお家でご馳走になってから帰ろうと思います。セスさんは白兎亭に向かわれるのでしたよね?」


「ええ、そのつもりです」


「そうですか……あの、最後に2つだけよろしいですか?」


「はい、なんでしょう?」


改まったピアの様子に、セスは少し緊張して背筋を伸ばした。


「ネリアさんも、リーナちゃんと同じで親しい相手には本心を見せにくい方なのかもしれません。でも……ネリアさんはいつも、セスさんのことを気にかけていらっしゃいます。だからもっと信じてあげてください。この村でセスさんの1番の理解者で味方なのは、きっとネリアさんですから」


「そうですね……今日のことは、ちゃんと相棒に感謝しようと思います」


セスが素直に同意すると、ピアはほっとして微笑んだ。


「それと……精霊さんのことですが、まだ言葉は通じなくても、気持ちを通わせることはできるはずです。あのシュシュさんみたいに。むしろ言葉のズレや駆け引きが無い分、よりストレートに伝わることもあるかもしれません。ひょっとしたら精霊さんも、セスさんを恋しがってお帰りを待ちわびていらっしゃるかもしれませんよ」


「ははは、まさか……じゃあ、俺はこれで失礼します。良い夜を」


セスはピアに別れの挨拶をすると、酒場へは向かわずまっすぐ家に帰った。

急にネリアと精霊少女に会いたくなったのだ。


一人暮らしのあの家に、電気がついている。それを外から見るのは、セスには少し不思議に感じられた。


***


「ただいま……」


なるべく音を立てないようにそっと玄関を開けると、入ってすぐのダイニングキッチンでネリアが待ち構えていた。


「おかえり、セス! 思ったより早かったね? お酒、飲んで来なかったんだ?」


ネリアはセスの両肩に掴まると背伸びをし、鼻先をセスの口元に寄せてクンクンと匂いを嗅ぐ。


「近い、近い。野生児か!……てかネリア、なんで俺のシャツ勝手に着てんだよ⁇」


「えっ。今ここで脱げってこと?」


「そうは言ってないだろ……」


胸元に当たる柔らかな感触を名残惜しく思いつつも、セスはネリアの肩を掴むと自身からすっと離した。

ネリアには大きすぎるシャツの裾から、朝と同じショートパンツが微かに覗いている。

それを確認したセスは、安心したような残念なような複雑な心境になった。

一方で朝のニーソックスは脱いでいるので、肌色面積率上昇は間違いない。


「だって、水仕事中に濡れちゃったんだもんっ」


「水仕事⁇」


「そう! どうせ一日中留守番するなら、掃除とか料理とかやってみようかな~って思いついて! で、夕飯にする? 晩御飯にする? それとも……ディナー?」


「一択じゃねーか! そもそもネリア、料理も、掃除も、家事は何もできないだろ。新手の復讐か⁇」


「失礼な! やったことなくたって、やったらそれなりにできますー!……まあそれは置いといて……まずはセス、精霊ちゃんと仲直りしよ?」


「仲直り、って……そもそも言葉が通じないんだから、喧嘩だってしてねーよ……」


セスがネリアから剣を受け取ると、部屋の奥から精霊少女がふよふよと近づいてきた。

しかし、精霊少女はネリアの背後に隠れるようにピタリと止まり、セスと目が合ってもしょんぼりと俯いてしまう。


「おい、ネリア! お前いったいコイツに何したんだよ⁇ いつもなら無駄に笑いながら、俺にべったり憑いてくるのに……まさか、魔法を使って虐めてたんじゃないだろうな⁉︎」


無駄と思っていた精霊少女の笑顔も、いざ失われるとそれが無駄じゃなかったことをセスは痛感した。

ネリアは溜息混じりに答える。


「ただ躾ただけだよ。無闇にあちこちすり抜けたり、人にくっつきすぎないように。待て! とか、よし! とか、ちゃんとわかるようにね」


「どうやって? 意思疎通できないのに!」


セスから疑いの眼差しを向けられたネリアは、それを振り払うように両手をブンブン振り回しつつ、百面相をして見せる。


「全身と表情筋を使って‼︎……意思疎通、できなくはなかったんだよ……精霊ちゃん、最初は違ったのかもしれないけど、いつの間にか、人間の表情や動作から気持ちを読み取れるようになってたみたい。ずっと一緒にいて疲れてたセスは、だんだんリアクションをしなくなってたし、それに気付かなかったんだね」


「⁉︎……そんな、まさか…………いや、でも、もしかして⁇」


すっかりしおらしくなった精霊少女を見つめたセスは、だんだん精霊少女がかわいそうに思えてきた。


「躾るにしたって、こんなにしょげるまで脅しつけるなよ? かわいそうじゃん」


「元気がないのはセスのせいだよ! 精霊ちゃん、セスが出てった後から、ずっと寂しそうにしてたんだよ? やっぱり懐いてたんだよ。だから、ね? 仲直りっ!」


そう言ってネリアはセスの袖をちょいちょいっと引いて、精霊少女と握手するように促した。

セスがネリアに従って手を差し伸べてみると、精霊少女は少し考えた後、そろ~っとセスの手に自分の手を透過させた。

半日ぶりのゾワゾワとした感触がくすぐったくてセスが笑うと、それを見て精霊少女も安堵の笑みを浮かべる。


「うんうん! それでよろしい! それじゃ、夕飯にしよーよ。お昼はピアちゃんたちと食べてるのが見えたけど、夕飯はまだでしょ?」


「ああ、うん。…………あっ! そういえばピアさん、今日はリーナの家に行ってるから。ネリアもここで食ってけよな」


「はーい! じゃ、セスは精霊ちゃんの手を引くようにして、ちゃんと席までエスコートしてあげてねっ」


セスが精霊少女の顔を見つめながら透過中の手をちょいと引くと、精霊少女は目を見開いたまま微かに頷く。

そして、まるで本当に手を繋いでいるかのように、セスが歩くのに合わせてその隣を飛び、食卓へ辿りついた。

少しするとネリアが、缶詰スープを温めた鍋と一緒に、果物とバケットサンドを乗せた皿を運んできた。


「おおっ、このご馳走は! ネリア、お前…………スープ以外、ピアさんの弁当を皿に盛り付けただけだろ」


「わあ。一瞬でバレた~」


夕食後、ふとネリアにボディスポンジの色を尋ねたセスは、「やっぱり使っといてもよかったか」と少しだけ後悔した。



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